ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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お待たせしました、すごい奴ら!

 僕が抜けた後の第二ピリオドは、かなりの苦戦を強いられてしまった。

 単純にインサイドを固めていた僕がいなくなったことで相手のビッグマンへの対抗手段を失ってしまったことや、ディフェンス力の低下がその原因だ。

 

 それに加えて、みんなの精神状態が最悪に近くなってしまったことも大きい。

 今は敵とはいえ、同じ部活のメンバーがあんなラフプレーをかましてきたことに対する怒りや失望でプレーに集中できなくなり、連携も乱れたことでミスが多発してしまった。

 その隙を突かれた結果、十点以上あった点差は逆転され、今度はこちらが大差をつけられてしまっている。

 

 痛む目を氷嚢で冷やしながら試合を観戦していた僕は、五分とは思えないくらいに長く感じられた第二ピリオドを終え、ベンチに戻ってきた仲間を迎えた。

 彼らの表情は明らかに曇っていて、悔しさがこれ以上ないほどに浮かび上がっている。

 

「くそっ……! あいつら、卑怯な手を使いやがって……!!」

 

「尾上がいなくなったのがデカ過ぎる。相手の攻撃を全然止められなくなっちまった……」

 

「部長たちがあんなことしてくるなんて、なんかもう、どうすりゃいいんだかわかんねえよ……」

 

 ベンチに戻ってきた楽人たちは、肉体的よりも精神的に疲弊しているようだ。

 無理もないと思いながら、どう言葉をかければいいかわからずに押し黙ることしかできない僕が口を噤む中、間沼くんが言う。

 

「……俺、このまま負けるなんて絶対に嫌ですよ。あんな連中の思い通りにさせたくなんかないっす」

 

「俺もだ。このまま終わって堪るかよ。なんとしてでも、逆転の方法を考えるんだ」

 

 間沼くんの言葉に拳を握り締めながら立ち上がった楽人がみんなに声をかける。

 その言葉にみんなも頷き、ハーフタイムを活かしてここからの戦い方を話し合い始めた。

 

「雄介、怪我の具合はどうだ? 目は……?」

 

「大丈夫、思ったよりは軽傷だよ。ギリギリで躱せたから、クリーンヒットはしてなかったと思う」

 

「そんな軽い怪我じゃないでしょ! すごい腫れてるし、今すぐに試合に戻るのは無理だよ!」

 

 楽人の質問に対する僕の答えも、ひよりさんの言葉もどちらも正しい。

 頭突きを食らいはしたが、咄嗟に体を捻ったことで骨にダメージが入るほどの怪我は避けられた。ただ、ひよりさんの言う通り僕の左目は赤黒く腫れていて、すぐに試合に戻るのは難しそうだ。

 

「視界が半分塞がってるんだから、体力の消耗も激しくなるんだよ? それに、相手がまたラフプレーをしてきたら、今度はもっとひどい怪我をさせられるかもしれないじゃん……!」

 

「ひよりさん……」

 

 僕の身を案じるひよりさんが、声を震わせながら言う。

 彼女を不安にさせてしまったことを申し訳なく思う僕であったが、そこに恐る恐るといった様子で声をかけてくる人たちがいた。

 

「あの~……ちょっといいかな?」

 

「えっ? あなたたちは……!?」

 

 振り返った僕の前に立っていたのは、一回戦と三回戦で戦ったチームの選手たちだった。

 僕たちのベンチの暗いムードに緊張した表情を浮かべている彼らは、驚く僕たちへと言う。

 

「さっきのプレー、見てたよ。目の調子はどうだい?」

 

「思ったよりは軽いです。でも、試合に戻れるかどうかはわからなくって……」

 

「すまない、ちょっと見せてくれ。応急処置に関しての勉強はしてるから、少しは症状を抑えられるかもしれない」

 

「私たちも歳が歳だから、怪我対策に色々と用意しててね……腫れに効く塗り薬も持ってるから、良ければ使っておくれよ」

 

「い、いいんですか!?」

 

「同じ大会に出て、試合をした者同士だ。助け合うのは当然だろう? 何より、あんな連中が優勝して終わったら、俺たちもやりきれない気分になるからね」

 

 気が付けば、二回戦で戦った中学生チームも応援席の最前列に立って声援を送ってくれていた。

 ここまで戦ってきたチームの協力に感謝する僕へと、時間を確認した間沼くんが言う。

 

「第三ピリオドからは俺が出ます。ハーフタイムの十分とピリオドの五分、時計が止まる時間も考えると、大体二十分くらい……その時間で処置をして、第四ピリオドまでに尾上先輩が試合に出られるようになれば、まだ逆転の可能性はあるはずです」

 

「問題はディフェンスだ。志乃がどれだけ点を取っても、相手のデカい奴を止められなきゃ差は縮まらない。どうにかインサイドを固めないと……」

 

 切り札である間沼くんの投入は間違いなく起爆剤になる。だけど、まだそれだけじゃ足りない。

 ディフェンスの強化もそうだが、それ以上に今、蔓延している暗いムードを吹き飛ばさないとみんなの動きは固いままだ。

 

 逆転に繋がるピースは揃いつつある。あとは、この空気さえ払拭できれば……と、僕が思った時だった。

 

「雄介! ひよりちゃん! 助けに来たわよ!」

 

「うっ、うわあっ!?」

 

「おっ、お義母さん!?」

 

 何の前触れもなくひょっこりと顔を出した母の言葉に驚いた僕とひよりさんが目を丸くする。

 そんな中、ファイティングポーズを取った母はシュッシュッとシャドーボクシングをしながら僕たちへと言った。

 

「よくもまあ私の子にこんなひどい怪我をさせてくれたわね。相手は子供とはいえ、容赦しないわよ!」

 

「いや、あの、母さん? その気持ちはありがたいけど、乱闘とか暴力は絶対にダメだからね?」

 

「わかってるわよ! ルールに則った上でバスケでボッコボコにしてやればいいんでしょ!?」

 

「バスケでボコボコにするって、母さんが試合に出れるわけが…!!」

 

「そうだな、雄介の言う通りだ。母さんは試合に出れない。でも――」

 

「メンバー表に名前が書いてある俺たちなら、出ても大丈夫じゃね?」

 

 僕が母さんにツッコミを入れる中、気の抜けたような、それでいてやる気に満ちた声が響いた。

 途轍もなく聞き覚えのあるその声のした方を向けば、運動着姿の弟たちがさも最初からここにいましたよとでも言わんばかりの表情でベンチ入りしているではないか。

 

「お前ら、なんで……!?」

 

「なんでって、母さんと一緒にお前の応援に来たんだよ。そしたらあのラフプレーだぜ? 許せねえよなぁ!?」

 

「兄貴にあんなことされた上に義姉さんも半泣きにされたから、弟としてちょっと相手さんにお礼をしてやろうと思ってさ。母さんに頼んで売店で運動着買ってもらって、今に至るってわけ」

 

「運動着上下セット×二人分、そこそこの値段だったわ……! でもひよりちゃんの笑顔と大会の優勝はプライスレス! お金じゃ買えない価値があるんだから惜しくない! というわけで雅人、大我! きっちりやっつけてきちゃいなさい!」

 

 ビシッ、と指差しながら母さんが指揮官の如く弟たちに指示を出す。

 そんな家族のやり取りに混乱しながらも楽人を見れば、困惑しながらも助っ人の登場を喜び、こう言ってくれた。

 

「ぶっちゃけ、滅茶苦茶助かる。特に大我くんはガタイもいいし、インサイドにいてくれるだけでプレッシャーになるはずだ」

 

「攻撃は俺が担当すればいいだけですしね。空気を変えるって意味でも、二人の投入は効果的だと思います」

 

 楽人と間沼くんの意見に、他のみんなも賛成しているようだ。

 仲間たちからの賛同を得られた僕は、改めて弟たちに向き直ると二人へと言う。

 

「雅人、大我、今、状況はかなり悪い。この空気をぶっ壊して、逆転への道筋を作る……バスケ部でもないお前たちには荷が重いかもしれないけど、任せていいか?」

 

「最初からそのつもりだっての。とりあえず、雄介は目を冷やして最後の出番に備えてな」

 

「それが俺たちのミッションね。オッケー……I'm on it(さあ、やろうか)!」

 

 いつも通りのおどけた態度を見せながら、弟たちがコートに向かう。

 家で普段から見ているその姿が、今の僕の目にはとても頼もしく見えていた。

 

 

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