ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「素人相手に何やってんだ!? こっちにボール寄越せ!」
満足気に呟く鉢村さんとは対照的に、藪瀬部長は苛立ちを隠せないでいる。
シュートを打てなかったセンターを叱責しながらボールを要求した彼は、コートを見回して次の行動を考えていく。
今の攻撃は時間こそ短かったが、相手に与えた衝撃は大きかったはずだ。
残り十数秒守り切ることができれば、二十四秒ルールによってこちらのボールとなる。なんとかそれまで凌いでほしいと願う僕たちの前で、再びセンターが動き出す。
「スクリーン! 動いてます!」
「っっ!!」
先ほど、大我と楽人が行ったスクリーンプレー……それを今度は、相手が仕掛けてきた。
大声を出して相手の動きを教える大我であったが、楽人は相手のセンターに引っ掛かって藪瀬先輩のマークを外されてしまう。
「スイッチっ!」
楽人の叫びを聞いた大我が、マークを外された彼に代わって藪瀬先輩のディフェンスにつく。
強引にドライブしてきた先輩はゴールに突っ込む……と見せかけて、途中で止まると共にジャンプシュートを放つ姿勢を見せた。
(そこは楽人とセンターの身長差を活かすためにパスした方がいいと思うけどな……)
と、どこまでも自分が目立つことしか考えていない藪瀬先輩のプレーを見た僕が正直な感想を心の中で述べる。
こちらとしてはありがたいことだが、今のチームプレーもさっき自分たちがやられたことをやり返すためのものであって、本当の意味でチームとして協力するつもりはないんだなと思う中、藪瀬先輩がシュートを放つ。
それとほぼ同時に、彼のフェイクに騙されかけた大我も大きく跳躍し……宙で弧を描く前の藪瀬先輩の手から飛び立ったばかりのボールを片手で受け止めてみせた。
「え……?」
鍛えられた体をしている大我は、見た目からするとその筋肉のせいで重そうに見える。
だから、自分のシュートを止められるだけのジャンプ力なんてないと思っていたのだろう。
そんな藪瀬先輩の前で、シュートを受け止めた大我はそのままバレーのスパイクでも打つように腕を振り抜き、ブロックしたボールを弾き返しながら叫んだ。
「ゴール下のキングコング……弟ぉっ!!」
「ぶべらっ!?」
思いきり弾き返されたボールは藪瀬先輩の手に納まるを通り越し、その勢いのままに彼の顔面に直撃した。
顔面にボールを叩き込まれた先輩の悲鳴が響いた直後、彼が倒れ込む様を目にした審判が笛を鳴らし、試合を中断する。
「もしかしてファール? 大我くん、大丈夫?」
「手が当たったわけじゃないから大丈夫だよ。多分、試合が止まったのは――」
不安そうなひよりさんへとそう言ってから、改めて藪瀬先輩を見やる。
予想通り、彼は鼻血を出しており、呻きながら自チームのベンチへと戻っていった。
「選手交代かな。あの感じだと、第四ピリオドには戻ってきそうだ」
その僕の言葉に続いて、審判がタイムアウトを告げる。
相手が選手交代と嫌な流れを切るために使ったのだろうなと考える中、楽人たちがベンチに戻ってきた。
「雅人くん、大我くん、マジでありがとう! 超助かってる!」
「いえいえ。兄貴の代わりとして色々やらせてもらってるだけですよ」
「ただ俺は体力ないんで、このままだとへろへろになるってことだけは先に報告させてもらいます!」
「サーセン、俺も思ったよりバテてるっす……」
「二人とも、もっと鍛えた方がいいよ。腹筋バキバキになるまでトレーニング、しよう!!」
「玲香、今は違う。個人的な趣味を抑えて」
押せ押せムードということもあってか、こちらのチームの雰囲気はとても良い。
対して、攻守に渡ってこちらに抑え込まれている相手のチームはどこか嫌なムードが漂っているように見える。
そのベンチの中で俵山くんが慌ただしく出場の準備をしている姿を目にした僕が、彼が藪瀬先輩に代わって再び出場するのだと理解する中、同じく相手ベンチの様子を見ていた楽人が声をかけてきた。
「雄介、目は大丈夫か?」
「痛みは引いてきた。この感じなら、第四ピリオドからは出られると思う」
「……!」
僕のその言葉を聞いたひよりさんが小さく息を飲む。
彼女に心配させてしまって申し訳ないと思う中、楽人はこう続けた。
「……俵山、また出てくるみたいだな。嫌なムードの中で誰も出たがらないから、押し付けられたってところか」
僕も楽人と同じ考えだった。おそらく、この雰囲気の中で出ても紫村の前で醜態を晒すだけだと相手チームの全員が思っているのだろう。
誰も出たがらず、誰かに藪瀬先輩の代役を押し付けようとした結果、立場が弱い俵山くんが出場することになった、というところだというのは簡単に予想できた。
「ここで俵山くんか……やっぱ警戒しちゃうよね」
「もうしてこないだろうけど、さっきの肘打ちがあるからな……」
僕を負傷させた前科がある俵山くんに対しては、みんな警戒しているようだ。
あそこまで派手に相手を怪我させることはもうしないだろうが、大我へのラフプレーを見てしまった後だと、やはりまだ相手が何か仕掛けてきてもおかしくないとも思ってしまう。
みんなと同様、僕も不安を抱いていたのだが……そこで楽人が意を決した様子で言った。
「……なあ、みんな。第三ピリオドの残り時間、バスケ部員だけで出てもいいか?」