ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「えっ……!?」
突然の楽人の言葉に驚く僕たち。
そんな僕たちへと、楽人が理由を説明する。
「俺、志乃、雅人くんと大我くんに雄介……これが今、向こうに対抗するためのベストメンバーだと思う。このメンバーが体力を温存して、第四ピリオドを全力で戦い抜けるようにするための交代策っていう理由が一つ。あとは――」
そこで口を噤んだ楽人が、今日まで一緒に練習を重ねてきた仲間たちを見つめながら言う。
「一度、ちゃんとこのメンバーで戦いたいんだ。雄介たち助っ人の力を借りない、俺たちバスケ部のメンバー全員でコートに立ちたい。それがあって初めて、俺たちは次に踏み出せるような気がするから」
「楽人……」
最初に言った、第四ピリオドに向けての交代策というのはある種の言い訳だろう。
楽人の本音は後に言った、バスケ部の部員たちだけで戦いたいという部分に集中している。
僕も楽人も、常々この大会が終わった後はどうするか? ということを話してきた。
大会が終わればバスケ部員ではない僕や間沼くん、ひよりさんたちはチームを離れる。こんな出来事があっては、藪瀬先輩たちとの決別も必至だろう。
仮にこの大会で優勝できたとして、バスケ部としての先は見えない。でも、だからこそ……ここで一つの区切りをつけるための儀式が必要なのだ。
「……わかった。残り時間は任せるよ」
「ありがとう、雄介」
親友の覚悟を感じ取った僕がそう伝えれば、間沼くんや弟たちも頷いて同意してくれた。
助っ人メンバーたちからの気遣いに感謝しつつ、楽人はバスケ部員を集める。
「つーわけだ……雄介や後輩たちが出番を譲ってくれた。ここで決めないなんて、男じゃねえよなぁ!?」
円陣を組み、気合いを入れ、お互いに心を奮わせ合う。
既に三試合を行い、この異様な状況下でプレイしたこともあって、みんなも体力は限界に近いようだったが……それでも、心は一切萎えていないことがわかった。
「この第三ピリオドが! 残り数分の戦いが! 俺たちが明日に向かうための第一歩になる! 正念場だぞ、お前ら! 気合い入れてけ!!」
「「「おおっっ!!」」」
楽人の号令に対して、気合いの入った雄叫びでみんなが応える。
次の瞬間、タイムアウトの終わりを告げるブザーが鳴り響き、みんなはコートへと向かっていった。
「気負うなよ、楽人。楽しんでいけ」
「……ああ。ありがとな、雄介。でも、バスケを楽しむ前にやらなくちゃなんねえことがある」
僕の声かけに対して、楽人は真剣な表情を浮かべながらそう応えた。
そのままコートに戻った彼は、藪瀬先輩と交代して出場した俵山くんのディフェンスにつく。
「よう、俵山。さっきぶりだな」
「うっ……!」
身長差やポジションを考えれば、このマッチアップは避けるべきなのだろう。
それでも敢えて俵山くんのディフェンスについた楽人には、何か考えがあるのだと僕は思った。
「相棒の借りを返しに来たぜ。覚悟しとけよ」
「か、借りって……! あ、あれは事故だ。お、俺は別に……!」
俵山くんの心を揺さぶるように、トラッシュトークを仕掛ける楽人。
明らかに動揺している彼の下にパスが渡った瞬間、楽人は隙だらけの俵山くんの手から素早くボールを奪い取り、そのまま攻撃に打って出た。
「速攻っ! お前ら、走れっ!!」
楽人がそう声を上げた時にはもう、他の四人は全力で駆け出していた。
その中でもディフェンスのマークから外れている仲間を見つけると、鋭いパスを出す。
楽人のパスを受け取ったその選手は真っすぐにゴールに向かい、シュートを決め……そこから全員が気を緩めることなく、ディフェンスのために自陣へと走って戻ってきた。
「全力だね、みんな……! かなり疲れてるはずなのに、手なんか全然抜いてない」
「それだけ重要なんだよ、この数分間は。楽人やバスケ部のみんなにとって、とても重い意味を持つ時間なんだ」
全力で走り、守り、攻める。当たり前のことだが、体力が尽きかけている状態でそれを貫き通す難しさを僕は知っている。
だからこそ……今、楽人たちがどんな気持ちでこの試合に臨んでいるのかも、その想いの強さも理解できた。
「一本! ディフェンスだよ! 集中して守っていこう!!」
楽人たちの奮戦を見た熊川さんが大声で叫ぶ。
その声にみんなが腕を上げて応える中、死にそうな顔をしている俵山くんが呻いた。
「くそっ、何なんだよお前ら……? どうしてそこまで……!?」
「……わかんねえか。そりゃあそうだよな。あんな女のために馬鹿なことしちまう奴に、俺たちの気持ちなんてわかんねえよな」
「に、二奈ちゃんを馬鹿にするな! 二奈ちゃんは、二奈ちゃんは……っ!!」
楽人の言葉を声を震わせながら否定しようとする俵山くん。
そんな彼に対して、楽人は静かに……だが、強い想いを込めた声で言った。
「俵山……正直に言えば、俺はお前のこと、結構好きだった」