ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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最後の勝負が始まる、その前に

 俵山くんのファールによって与えられたフリースローを楽人が決めたところで、第三ピリオドは終わりを迎えた。

 あまり喜べる雰囲気ではないが、試合のムード事態でいえばこちらがかなり優位に立っていると思う。

 

 点差はちょうど十点。試合時間は残り五分だが、十分逆転できる範囲だ。

 第三ピリオドに出場していたメンバーを迎え、頑張りを労う最中、熊川さんが少し怒った様子で楽人へと言う。

 

「ちょっと、遊佐くん! 流石にあれは危ないって!」

 

「いや、ごめん……でも、ちゃんとケジメはつけなくちゃいけなかったし……」

 

「遊佐くんも尾上くんみたいに大怪我するかもしれなかったんだよ!? 気持ちはわかるけど、危ない真似しちゃダメだってば!!」

 

「あひいっ!? ご、ごめんなさ~いっ!」

 

 慌てて言い訳をしたところで熊川さんからのコールドスプレー攻撃を受けて情けない悲鳴を上げた楽人が体を震わせながら謝罪する。

 楽人を心配しているが故にお叱りの言葉をぶつけてきた熊川さんが立ち去ってから、僕は親友へと聞いた。

 

「……腕、大丈夫?」

 

「……バレてたか。別に問題ねえよ、ちょっと打っただけだ」

 

 俵山くんと接触した時、楽人は咄嗟に突撃による衝撃を和らげてみせた。

 しかし、床に倒れ込む時に左腕を強く打っていたことを見逃さなかった僕が怪我の具合を尋ねれば、楽人は軽く腕を振りながらそう答えてくる。

 

「利き腕は問題なく動かせる。フリースローもきっちり決めたの、お前も見てただろ? 残り五分くらい、気合いでどうにかしてみせるさ」

 

「……無理はするなよ。楽人には、これから先もあるんだからさ」

 

「ははっ……! じゃあ、最後の五分はお前が大暴れしてくれよな、相棒!」

 

 そう言って、楽人が笑顔で僕の尻を叩いてくる。

 少し無理をしているように見える親友へと頷きながら、僕はもう一つ気になっていたことを尋ねた。

 

「なあ、楽人。もしかして僕のために俵山くんのファールを受けにいったのか? 紫村たちに牽制するために、敢えてあんな危険な真似を……?」

 

 第四ピリオドに僕が再出場すれば、紫村たちはまたしてもラフプレーを仕掛けてくるかもしれない。

 そうでなくとも、形勢が不利になればなるほど、相手が何を仕掛けてくるかわからない状況だ。

 

 楽人がわざわざ俵山くんのディフェンスについて、彼の心を乱すようなトラッシュトークを仕掛け、ファールを誘発したのは……相手の危険行為に対して、釘を刺すためだったのではないだろうか?

 二度のラフプレーは偶然としては片付けられない。審判が厳しい判定を下すことを期待して、敢えて楽人は相手からのファールを受けることで、第四ピリオドに出るメンバーを守ろうとしたのではないかと……そう尋ねる僕へと、彼は言う。

 

「別に、そんなんじゃねえよ。熊川さんに言った通り、ケジメをつけさせたかっただけだ。俵山にも、俺にもな。でも……強いて言うなら、お前のためって言うよりかは――」

 

 そこで言葉を区切った楽人が、ひよりさんを見やる。

 出場していたメンバーにドリンクを渡して労い、第四ピリオドに出るメンバーを鼓舞する彼女を見つめた僕へと、親友はこう言葉を続けた。

 

「七瀬さん、お前が怪我した時、泣いてたよ。すげえ心配しただろうし、今も不安だと思う。片目が塞がってるお前に万が一のことがあったらどうしようって、心配してるはずだ」

 

「………」

 

 楽人の言葉は、僕の胸に深く突き刺さった。

 俵山くんの頭突きを受けた時に聞いた悲鳴も、ベンチに戻った時の不安そうな表情も、全て覚えている。

 

 今僕は、逆転を目指して最後の勝負に臨もうとしているが……そんな僕のことを、ひよりさんは何の憂いもなく応援してくれているだろうか?

 あんなに怯えた彼女の顔を、僕は今まで見たことがなかった。

 今も目を腫れ上がらせている僕の顔を見て、不安を抱えているのではないかと……楽人の言葉で改めてそう思った僕へと、彼が言う。

 

「ちゃんと話してこいよ。時間は短いかもしれないけど、そうしておくべきだ」

 

「ああ……ありがとう」

 

 親友の助言に従い、僕はひよりさんの下へと歩み寄る。

 そんなに長い時間は取れない。それでも今、彼女と話をしないわけにはいかないから。

 

 そんな思いを抱えながら、みんなとの話を終え、空になったボトルを片付ける彼女の正面で立ち止まった僕は、深呼吸をしてから言った。

 

「ひよりさん、ちょっといいかな?」

 

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