ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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最終決戦、第四ピリオド!

「「え……?」」

 

 僕の突拍子のない一言に、弟たちがぽかんとした表情を浮かべる。

 そんな二人に対して、僕は苦笑交じりに話しを続けた。

 

「地味に憧れてたんだよ、こうして兄弟三人でコートに立つこと。なのに大我は柔道部に行っちゃうし、雅人なんてそもそも帰宅部だしさ」

 

「ふへへ、サーセン」

 

「スカウトされたもんでつい……」

 

「いいよ、僕が勝手に夢見てたってだけだ。お前たちにだってやりたいことがあるんだろうし、それを奪う権利なんて持ってない。だからこそ、部活じゃなかったとしてもこうして同じチームでバスケができて、嬉しいんだ」

 

 そう、ずっと抱えていた夢が叶ったことを喜びつつ、ゴールを見つめる。

 見慣れたはずの距離にあるそれが、片目が塞がっているせいか今日はいつもよりずっと近くにあるように見えた。

 

「さて、勝ちに行くか。折角の三兄弟最初で最後のバスケを負け戦で終わらせたくないしな」

 

「おお……! めっちゃやる気じゃん、雄介」

 

「色々バフかかってるっぽいけど、無理すんなよ? 目の怪我でアドレナリン出てるだけかもしんないしさ」

 

 弟たちからの言葉に、僕は軽く手を上げて応える。

 点差はジャスト十点。残り五分で逆転するにはちょうどいいくらいだ。

 

 そう考えたところで、第四ピリオド開始のブザーが鳴った。

 コート外から飛んできたパスをキャッチした僕は、そのままドリブルして相手の陣地まで向かっていく。

 

「相手は素人と怪我人とバテてる奴しかいないんだ、簡単に点を渡すなよ!」

 

 予想通り、鼻血を止めて戻ってきた藪瀬先輩が指示を飛ばせば、相手チームのメンバーはギラついた視線を向けながら懸命にディフェンスをしてきた。

 思っていた展開にならず、余裕が消えてきたということなのだろう。最初のオフェンスにしか意識を向けていなかった頃とは大違いだ。

 

「雄介、こっちだ!」

 

 そんな相手の守りを見て、突破口を開くためにパス回しをした方がいいと悟ったであろう楽人が僕に声をかけてくる。

 ちらりと視線をそちらに向けた瞬間、目の前に立つディフェンスの意識がわずかに逸れたことを、僕は見逃さなかった。

 

「ふっ……!」

 

「えっ!? あっ!!」

 

 そのままパスをする……と見せかけて、クロスオーバーで相手を抜き去る。

 別の相手がカバーポジションに入り切る前にそれを置き去りにし、そのままゴールに突っ込んでいった僕は、そこで視界が塞がっている左側に気配を感じた。

 

「お前にだけはやらせるかっ!」

 

 左やや後方から迫る声から察するに、誰かがブロックしようと追いかけてきているのだろう。

 それがわかれば十分だと、僕はゴールに向けて跳躍する。

 

 このままレイアップシュートを打つ……と判断したディフェンスが腕を伸ばすが、僕は敢えてタイミングをずらしていた。

 相手が驚き、息を飲む音が耳に響く中、ゴール下を通過したところで腕を伸ばした僕は、後方のリングに向けて後ろ手にシュートを放つ。

 

「レイバックシュート……!?」

 

 ガン、というボードにボールが当たった音に続いて、パサッ、という気持ちのいい音が響く。

 自分が打ったシュートの行方を確認もせずに自陣へと戻った僕は、そこからディフェンスを開始した。

 

 残念ながら腕を痛めている上に体力も限界に近い楽人が藪瀬先輩に抜かれたことで点を奪われてしまい、得点差は変わらないままだ。

 残り四分三十秒の表記を見た僕は、追い付くために必要なプランを考え、それを実行していく。

 

「また尾上が来るぞ! 絶対にゴールに近付かせるな!」

 

「雄介! 無理そうだったらパス戻していいからな!」

 

「俺もまだやれます……! ぶち抜いてやりますよ……!」

 

「ヘイヘイヘイ! 俺にも出番頂戴! いいとこ見せたい!」

 

「スクリーンしちゃうぞ~! リバウンドも取っちゃうぞ~!」

 

(ああ、まったく、本当に――)

 

 相手の声に続いて、仲間たちの声が耳に響く。

 信頼できる相棒。慕ってくれる後輩。ずっと一緒にコートに立ちたかった兄弟たち。

 夢のような瞬間だと、そう思った瞬間に聞こえてきたのは、ベンチから響く応援の声だった。

 

「頑張れ! 雄介くん!!」

 

 ――その声に背中を押されるように、僕は敵陣へと切り込む。

 目の前のディフェンスを抜き、ゴールへ。しかし、接近を拒むように寄ってきたディフェンスたちからのダブルチームによって、行く先が塞がれてしまう。

 

 でも、いい。大丈夫だ。ここは何度もシュートを打った場所だから。

 練習でも、試合でも、何万本と打ち続けた。たとえ片目が見えなくても、体が感覚を覚えてくれている。

 何より今、僕には勝利の女神がついていてくれるのだ。負ける気が微塵もしなかった。

 

 迷わずにジャンプシュートを打ちにいった僕の動きに、相手のディフェンスが遅れる。

 手を離れた直後に相手の手が僕の腕に当たり、バチンッという音が響く中……綺麗な放物線を描いたボールはそのままリングへと吸い込まれていった。

 

「ファール! バスケットカウント、ワンスロー!」

 

「お前……目、見えてんのか? なんであれを入れられるんだよ……!?」

 

 多分相手は、距離感を掴めない僕がシュートを躊躇すると思ったのだろう。

 その予想に反して迷わずにシュートを打った僕へと、若干の恐怖を滲ませた声でそう言ってきた藪瀬先輩へと、振り向いた上でこう言葉を返す。

 

「何度も打ってきたシュートですから、体が覚えてるんです。それに今、シュートを外す気がしないんで」

 

 そう言いながら、僕は左手の指で腫れたまぶたを軽く撫でる。

 そこに込められたおまじないを思い返しつつ、左手首のリストバンドからも伝わる想いに力を貰っていることを感じる僕は、フリースローを打つ寸前、ベンチではしゃぐひよりさんを見つめながら微笑みながら思う。

 

 ひよりさんがああして応援してくれるのなら、どんなことだってできる。

 今の尾上雄介は、間違いなく過去最強だ。

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