ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ここだ! ここで一本止めるぞ!」
楽人もこの場面が重要だということを理解しているようだ。
僕の四点プレーに続き、雅人がスリーポイントを決めたことで点差は五点まで縮まった。スリー二本で逆転、普通のシュートでも三本で逆転までいける。
ただしそれは、相手が一点も得点しないという前提での話だ。当然ながら、相手だって全力で逃げ切ろうとするだろう。
しかし、終われる者には終われる者なりのプレッシャーというものがある。余裕で勝てると思っていた状況で相手が猛烈な追走を見せている今の状況なら、尚更の話だ。
頭では二十四秒をじっくり使って一本を狙えばいいとわかっている。時間をかければチャンスを見つけやすくなるし、シュートを決められなくても勝っている側からすれば残り時間が減って得こそあれど損はないのだから。
だが、そう理解していても焦る心はどうしようもない。徐々に迫る点差が、負けるわけにはいかないという気持ちが、そのままプレッシャーとなって気持ちを逸らせてくる。
その焦りを突いて相手のミスを呼び込むためにも、ここからのディフェンスはこれまで以上に重要な意味を持つ。
試合時間の残りはあと二分とちょっと。その間に全ての力を出し尽くさんばかりに、僕たちは勝負に臨む。
「くそっ、抜けねえ……っ!」
「ぜえっ、ぜえっ! はぁ……っ!!」
相手が選んだ攻撃の選択肢は、先ほどと同じ間沼くんとの一対一だった。
体力が尽きかけている彼が一番の穴だと判断したのだろう。しかし、雅人のプレーに触発された彼は、驚異的なまでの粘りを見せている。
同い年でバスケ素人の雅人が貢献しているというのに、自分が足を引っ張るわけにはいかない。
そんな想いを胸に、限界を超える勢いで粘る間沼くんに根負けした相手が、中途半端な状態でシュートを打つ。
「馬鹿っ! なんで戻さねえんだよ!?」
罵声にも近しい藪瀬先輩の声がコートに響く。
迷ったら打つな、とはよく言ったものだが、まさにその通りだ。今、相手は明らかな判断ミスをしてくれた。
焦らずにじっくり時間をかけて攻めれば、得点のチャンスも僕たちの逆転を防ぐ道も見えたはずだろう。
しかし、焦りが目を曇らせ、功を焦った結果、相手はこの局面でのシュートミスという最悪の事態を招いてしまったのである。
「速攻っ! 決めろ~っ!」
リングにすら当たらなかったシュートを大我がキャッチした瞬間、鉢村さんが大声で叫んだ。
弾かれるように駆け出した僕たちを追って、藪瀬先輩たちも全力で自陣へと戻ってくる。
「死んでも点を取られるな! 絶対に守り切れ!」
藪瀬先輩の怒号が響く間に、大我の手から離れたボールが雅人から楽人へ、そして僕へと次々とパスされていく。
キャッチと同時にドライブした僕の前に、相手のセンターとパワーフォワードが立ちはだかり、シュートコースを塞ぐように両手を上げて僕と共にジャンプしてきた。
「っっ……!」
レイアップシュートを決めるルートはない。レイバックも着地までに打てそうになかった。
だから僕は腕を上げず、手にしたボールをディフェンスの間を潜り抜けて反対側の選手へとパスする。
「あざっす……!」
僕にディフェンスが二枚ついているということは、誰か一人はフリーになっているということだ。
最後までディフェンスに残り、体力の限界が近かったせいで攻撃への反転が一番遅れてしまった……だが、そのおかげで相手の意識から外れていた間沼くんが全力疾走で駆けこんでくる様を確認していた僕は、シュートではなく彼へのパスという選択を取った。
短い感謝の言葉を口にしながら、フリーでシュートを打つ間沼くん。
彼の手を離れたボールはガンガンと音を響かせる不格好な形ではあったがリングに入り、二点が追加される。
「よく走った! あとよく決めたぞ、楽人!!」
「手、抜けるわけがないじゃないっすか……ここまで来て、負けるのだけは死んでも嫌っすからね……!」
呼吸も荒く、汗も滝のように流れている。もう間沼くんが体力の限界なのは見て明らかだ。
しかし、それでも彼の目には光が宿っている。何があっても勝つという、強い意志がはっきりと感じられた。
「タイムアウト! 赤チーム!」
ブザーと共にタイムキーパーの声が響く。どうやら相手が最後のタイムアウトを切ったようだ。
間沼くんを休ませるいい休憩時間が取れたなと思いながら、ベンチに戻った僕は楽人と会話を交わす。
「仕掛けてくるだろうな、何か」
「ああ、間違いないね」
「またラフプレーとかしてくるってこと? なりふり構わなくなってるとは思うけど、次にあんな真似をしたら、退場じゃ済まなくない?」
「流石にあんな危険なプレーはしてこないさ。次の攻撃、相手は確実に点を取るために何か作戦を立ててくるだろうってことだよ」
少し不安気な熊川さんへと、楽人が嚙み砕いた説明をする。
ベンチで集まって何かを話し合っている相手チームを見つめながら、僕も同じことを考えていた。