ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
(相手が何を仕掛けてくるか、か……)
ここで相手の作戦を看破できれば、一気に優位に立てる。
相手の攻撃を一回無駄にして、逆に攻撃のチャンスを得られるのだ、この局面で得られるリターンはとてつもなく大きい。
そして僕には、相手が仕掛けようとしている作戦に心当たりがあった。
タイムアウトが終わるまでに仲間たちにそれを伝えた後、コートに戻ろうとする僕へとひよりさんが声をかけてくる。
「雄介くん、無理はしないでね。それと――」
「わかってる。ありがとう、ひよりさん」
ラフプレーの可能性を考えて不安になってしまったであろう彼女の頭を撫でつつ、笑顔を返す。
少し安心した表情を見せてくれた彼女へとサムズアップをしてからコートに戻った僕は、仲間たちと共にディフェンスを開始した。
「パスパスパス! 回せ、回せ!」
「こっちこっち! 手を止めるな!」
パスに次ぐパスを続け、コート内を動き回る相手チームの選手たち。
こちらのディフェンスを乱し、隙を見つけて、ゴールを狙おうとしているのだろう。
しかし、僕たちにはこれが本命の前の牽制のようなものだということがわかっていた。
必死に食らいつき、相手に隙を見せずに粘り続けたところで、ついに相手が真の作戦を開始する。
「ヘイ、パス!」
僕がマークしている選手がトップに向かい、ボールを受け取る。
トントン、とステップを踏んでボールを保持した直後、彼は僕の左側に向かってドリブルをし、突破を試みた。
当然、僕は彼についていく。ドライブを試みる彼に追いつくべく、左後方に向けて動き出し……スクリーンをすべくそこに立っていたもう一人の選手を回避して、ぴったりとボールを持つ選手に張り付いてみせた。
「「えっっ!?」」
僕にマークされている選手とスクリーンをしようとした選手、二人の驚きの声が重なる。
そんな彼らと対照的に冷静にディフェンスを続ける僕は、予想通りの動きをした相手に対し、小さく笑みを見せた。
(そうだよな。狙うなら、絶対に僕だよな?)
タイムアウトを使い、作戦を仕掛けてくることがわかった時点で、こうなることは読めていた。
そもそもの話、この作戦を考えたのは誰なのか? 司令塔となった人物を考えるだけで、おおよその狙いは看破できる。
チームとしてバラバラで、好き勝手にオフェンスすることしか考えていないチームがあんなに真剣に話を聞く相手。そして、自分が考えた作戦を伝えるためにタイムアウトを使うことを申告した人物を考えれば、候補は一人しかいない。
この作戦は、紫村二奈が考えたものだ。だからこいつらは真面目にプレーし、その指示通りに動いてみせた。
ここまでの試合で行ったスクリーンプレー、それを目を負傷して左側が見えない僕に仕掛けることで確実に点を取ろうとしたのだろう。
確かに左目が見えない今の僕は大きな穴になっていると言える。しかし、紫村が僕を狙う理由はそれだけではない。
(お前の狙いはひよりさんだろ? 自分の作戦で僕を倒して、ひよりさんにざまあみろって言いたかったんだよな?)
それが、紫村の真の目的だ。僕を罠に嵌めることで、その奥にいるひよりさんにもダメージを与えようとした。
しかし、彼女自身のこれまでの行動によって、その狙いと思考が駄々洩れになっている。おかげで容易に作戦を看破できたと思いながら、僕は驚く相手選手へと腕を伸ばし、ボールをカットした。
弾かれたボールは勢いよく転がり、その先にいた選手……楽人の手に渡る。
即座に駆け出した楽人は俊足を活かしてゴールへと一直線に進むが、それを阻む影が立ち塞がった。
「行かせるかよ、遊佐ぁ!!」
「くっ……!」
全力疾走で楽人に張り付いた藪瀬先輩が大声で吠える。
彼もここで点を決められたら相当マズいことになると理解しているのだろう。今までで一番、必死な様子を見せていた。
そんな藪瀬先輩のプレッシャーに圧されたのか、楽人のスピードがわずかに落ちる。
速攻は失敗か……と、僕も後を追って駆け出そうとした時だった。
「負けるなっ!」
短くも大きな声が僕たちのベンチから響く。
その声に驚き、視線を向けた僕たちの前で、楽人を見つめる熊川さんが続けて叫んだ。
「格好いいところ見せてみろ! 遊佐楽人っ!!」
「っっ!!」
その声援が、楽人の中にあった迷いを吹き飛ばす。
緩んだスピードが再びトップに乗ると同時に、大きく開いていた藪瀬先輩の股を抜くドリブルを見せた楽人が、彼を置き去りにしてゴールへと走り去った。
「っしゃあああっ!」
抜き去られた藪瀬先輩が懸命に手を伸ばす中、宙を舞った楽人はそのままレイアップシュートを放ち……二点をもぎ取ってみせる。
今、この瞬間、世界で一番格好いい男がガッツポーズを見せ、熊川さんも彼に応えるように拳を突き出した。
「遊佐くん! ディフェンスだよ! ディフェンス!」
「残り一点差! 一点差ぁ!!」
乗りに乗ったベンチから、ひよりさんたちの叫び声が響く。
慌てて戻ってきた楽人に手を伸ばし、タッチを交わす中、僕は笑みを浮かべながら彼を弄ってやった。
「格好いいところ見せられて良かったね、楽人」
「はっ……! 必死過ぎて何したか覚えてねえよ」
好きな女の子からの応援がどれだけの力をくれるか、それを知っている僕は楽人の気持ちが理解できた。
その声援に応えるためにも……残り一分、全ての力を出し尽くそう。