ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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三点プレーしかない、それしかない!(二奈視点)

(くそっ! くそっ! くそっ! 言われたこともまともにできないのか、あいつらは!?)

 

 目を負傷した尾上の塞がった視界を突く作戦……私が考案した勝利を掴み取る策を見事に失敗し、一点差にまで詰められるゴールを決められた藪瀬先輩たちを見つめながら、私は内心気が気ではなかった。

 この点差はマズい。非常にマズいとしか言いようがない。

 

 残り時間は一分を切っている。バスケットの二十四秒ルールを考えると、おそらくお互いにあと一回ずつ攻撃をした後でタイムアップを迎えることになるだろう。

 そして、次に攻撃を行うのはこちらのチーム……そう聞くと有利な状況に聞こえるかもしれないが、断じてそんなことはない。

 

 一点差ということは、ここで普通にシュートを決めても三点差にしかならないということだ。

 仮にこちらが攻撃を成功させたとしても、スリーポイントシュート一本で同点に追いつかれてしまう。もう既に、相手の射程圏内に入ってしまっているという事実だけでもかなりマズい。

 

 そもそも第四ピリオド開始前には十点というリードを抱えていたのに、ここまで追いつめられている時点で完全に流れを相手に持っていかれている。

 尾上を追い出したところまでは計画通りだったのに、そこから尾上の弟たちの参加という予想外の事象が起きたせいで全てが狂ってしまった。

 

(尾上が消えたことで流れを掴みかけたのに、あいつらが出てきたせいで掴みきれなかった。そこから俵山の一発退場と尾上の復活で、チャンスが向こうに流れたんだ……!!)

 

 どうしてもっと早くに試合を決められなかったのかと、そう悔やんでももう遅い。

 そもそもあの不利な状況で相手チームの連中はどうして心を折られなかったのかと、今さらになって敵の心の強さを理解すると共に怒りが込み上げてきた。

 

(あんな余裕ぶっておいてここまで追いつめられてんじゃないわよ! こうなったらもう、何が何でも勝ちなさい!!)

 

 さっき私はここで得点を決めても相手の射程圏内だと言った。しかし、それはまだ最悪の状況を想定していない上での意見だ。

 最悪の状況とは、ここでシュートを決められないこと。そうなれば、一点差のまま相手の攻撃を迎え撃つ羽目になる。

 

 ここまでの流れを考えれば、そうなった時点で逆転される気しかしない。

 シュート一本を決めるだけであの圧倒的不利だった状況をひっくり返せると意気込む相手と、圧倒的有利だった状況からまさかの大逆転負けを喫するかもしれないというプレッシャーを抱えるこちらのメンバー。どちらが精神的に優位に立っているかなんて考えるまでもなかった。

 

(勝つには流れを断ち切るプレーをするしかない! 三点プレーよ! それで相手の射程圏内から外れる!!)

 

 スリーポイントシュートを決める。あるいは相手からのファールを貰ってバスケットカウントワンスローを決める。

 そうすることで得点差は四になり、相手がスリーを決めても逆転不可能な得点まで逃げ切ることができるのだと……この嫌な流れを断ち切るにはそれしかないと、私は思った。

 

 だが、もうタイムアウトはない。その考えを藪瀬先輩たちに伝える方法がない。

 あいつらが私と同じ考えでいてくれることを願うしかなかったが、ここで既に私はミスを犯していることに気付いていなかった。

 

(よし! スリーを狙ってる! まだ勝てる可能性は十分にある!!)

 

 藪瀬先輩たちが広く展開し、フリーの状況を作ろうとしている様子を見た私は、小さくガッツポーズをしながら思った。

 相手の流れを食い止めるために何が必要かを彼らが理解していると、そう思った私であったが……実際は少し違う。

 

 私も、コートに立つ選手たちも、全員が逃げの思考に陥っていた。

 三点を取れば逃げ切れると簡単に言っているが、当然ながらそれは普通にシュートを決めるよりも難しい。

 そういったリスクから目を背け、とりあえずスリーポイントシュートを狙うという思考は、現実逃避以外の何物でもなかった。

 

 その逃避の根幹にあるのは、安全圏内に早く逃げたいという怯えの感情だ。

 もしも私たちに本当に攻め気があるのならば、ここはどっしりと構えて二点を狙いにいくだろう。

 三点プレーをされる以外はこちらの勝ちという状況を作り出した上で、しっかりと最後のディフェンスに備える……それが真に強い心を持ったプレイヤーが取る選択肢だったはずだ。

 

 それをしなかった理由はただ一つ、もう既に私たちは心で負けているからだ。

 次の攻撃は確実にシュートを決められる。だから、点を取られても逃げ切れるようにしておかないと負けてしまう。

 そんな臆病な思考から導き出された三点プレーを狙う攻撃が、成功するはずもなかった。

 

「ああっ!?」

 

 藪瀬先輩が放った渾身のシュートがリングに弾かれ、宙を舞い……飛び上がった尾上弟がそれを掴む。

 着地し、それをパスするより早くにこちらがファールをしたことで速攻を防ぐことはできたが、私は内心気が気ではなかった。

 

(もう防ぐしかない……! 相手の攻撃を防ぐしか、勝ち目はない……!!)

 

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