ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
今のファールは
あのままプレーが続いていれば、速攻で二点取られて流れを完全に持っていかれるところだったし、そうなればこちらに逆転の目はなかったと思う。
審判も今のファールが過度なものではなく、作戦として妥当だと判断しているから俵山の時のような重いペナルティを与えたりはせず、普通に相手ボールからの再スタートになっていることからもそれがわかる。
それにもう一つ、今のファールがいいものであったと言える根拠が私にはあった。
(相手ボールからの再スタート……今のあいつらなら、ディフェンスがしやすくなってるはず……!!)
残り時間はもう三十秒を切った。ほぼ間違いなく、これがラストのプレーになる。
そのプレーは、相手陣地からのボールインからのスタート……となれば、フルコートで当たることができるはずだ。
相手チームのメンバーの内、遊佐が俵山にぶつかられた時に腕を痛めていることは見て取れた。あの役立たずが最後に残してくれた、数少ないファインプレーだ。
さっきはその痛みを我慢して得点したみたいだが、あれでもう限界を迎えたといっていいだろう。速攻という優位な状況もあってのあのプレーだったわけだし、しっかりとディフェンスにマークされた状態で同じように得点できるとは思えない。
経験者の中学生は体力が限界に近く、尾上の弟たちはドリブルをまともにすることができない。警戒すべきは尾上だが、それがわかっていればやりようは十分にある。
(得点を決められるのは尾上くらいのもの。弟その一のスリーも警戒対象だけど、逆に言えばその二人を徹底マークすれば相手の攻撃を抑え込めるはず……!)
まずはフルコートのプレスディフェンスで少しでも相手がこちらの陣地に入れないように守る。そこで八秒ルールに引っ掛かってくれれば最高だ。
そこで突破されたら、尾上とスリーポイントシュートが打てる弟を強めにマークする。
攻撃の要となる二人を抑え込めば、相手だって焦るはずだ。残る三人がシュートを打ったとしても、外す可能性が高い。
藪瀬先輩たちも、それを理解していた。相手チームの中で誰が恐ろしいのかを身を以て経験しているから、当然と言えば当然だろう。
誰を警戒し、どう止めるか? それを考え、尾上にぴったりとくっ付いてディフェンスをする味方の姿を見た私は、小さく笑みを浮かべた。
(あいつにボールが渡っても二人で止めにいけるようにポジションを取ってる。一気にぶち抜かれたとしても、後方にもう二人控えてるから時間は稼げるはず)
絶対に尾上の好きにはさせないという藪瀬先輩たちの思いが具現化したようなディフェンス……それは私の想像以上に強固に見える。
そこには先ほど私が言った、怯えの感情が滲み出てもいた。攻撃の際には邪魔になった恐怖と怯えだが、守りの際には強い味方になってくれる。
(いいじゃない。予想してない展開だったけど、これなら……!)
今の藪瀬先輩たちは、負けることへの恐怖を人一倍強く感じているはずだ。
ここまで見せた悪役ムーブ……俵山の連続ラフプレーに加え、相手を負傷させた上に危険行為を咎められて退場者まで出した。そこまでしておいて勝てなかったとなれば、大恥なんてものじゃ済まされない。
負けたらもう、どこにも居場所がなくなる。勝ったとしても卑怯者の誹りは避けられないが、それでも勝者と敗者とでは心の持ちようが全く違う。
それを理解している先輩たちは、必死に相手の得点を防ごうとするだろう。これもまた現実逃避ではあるのだろうが、それでも力を引き出してくれるというのならば、ありがたいことこの上ない。
(やれる……! 勝てる! 尾上たちに勝てる!!)
勝算は十分にある。そう思いながら、私は固唾を飲んでコートを見つめる。
数多くの視線が集まる中、審判が遊佐にボールを渡し、笛を鳴らした。
パスを出すまでの五秒のカウント……そこを含め、残り三十秒の短くてそしてとても長い、ラストプレーが始まりを告げる。