ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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Buzzer Beater(二奈視点)

「ディフェンス! ディフェンス!」

 

「っっ……!!」

 

 ほぼ二人がかりで尾上にパスが渡ることを防ぐこちらのチームのディフェンスは、最大の効果を発揮していた。

 審判からボールを受け取った遊佐もパスを出すことができず、険しい表情を浮かべている。

 

 このまま五秒経てば、こちらのボールになる……! と、私が淡い期待を抱いた瞬間、大きな声が響いた。

 

「先輩、こっちっす!」

 

 とっくに体力の限界を迎えているはずの中坊が、自分に張り付いていたディフェンスをダッシュで引き剥がしながら叫ぶ。

 遊佐からの鋭いパスを受け取った中坊はステップを踏むと、何度も見たドリブルでようやく追いついたディフェンスを抜き去り、こちらの陣地に向かってきたではないか。

 

「止めてっ! 早く止めなさいよっ!!」

 

 思わずそう叫んだ私の祈りが通じたのか、カバーに入ったメンバーによって中坊の動きは止まった。

 そのままプレッシャーをかけて相手の陣地に押し返してくれることを期待する私であったが、中坊は息を切らせながらパスを出す。

 

 続いてボールを手にしたのは尾上弟その一だった。

 スリーポイントシュートの恐怖に怯えるディフェンスがべったりと張り付き、相手の動きを封じる中、尾上の弟たちがお互いにパスを繰り返し、隙を見つけ出そうとする。

 

(残り十三秒! 死ぬ気で防げ! 守り切れっ!!)

 

 こちらのディフェンスは崩れない。キーマン二人を警戒しつつ、相手のシュートを未然に防ぎ続けている。

 固唾を飲んで見守る私の視界の端に映る時計の数字は、残り八秒まで減っていた。あと少し、もう少しでこのプレッシャーから解放されると、コートに立ってもいないのに呼吸を荒くする私の前で、遊佐が叫ぶ。

 

「こっちだ! 俺にパスをくれ!」

 

 ポイントガードである遊佐がボールを持ち、ゴールを睨む。

 しかし、彼をマークする藪瀬先輩の厳しいディフェンスによって、得点に結びつくプレーができずにいた。

 

「残り三秒っ! 遊佐くんっ!!」

 

「っっ!!」

 

 相手チームのベンチから悲鳴のような声が響く。その声を聞いた遊佐は目を見開くと、苦し紛れのシュートを放った。

 そう、明らかに苦し紛れのシュート……軌道を見ても、どう考えても、入るはずのないシュートだ。

 そのシュートを見た私たちは歓喜の笑みを浮かべ、反対に相手チームのベンチでは絶望に満ちた表情を浮かべている。

 

(どうだ、七瀬! 私の勝ちだっ!!)

 

 勝ち誇った気分のまま、私は七瀬を見やる。

 あいつに、尾上に、完全勝利した私は、憎きあの女がどんな絶望の表情を浮かべているかわくわくしながら視線を向けたのだが……あいつは、私の期待に応えてはいなかった。

 

 他の女子たちやベンチに座る男子たちとは違う、興奮を色濃く残した表情。

 その視線がボールではなく、別の何かを追っていることに気付いた私の耳に、大きな足音が届く。

 

 ――それは本当に、とても単純なことだった。

 この場にいる私と七瀬以外の二人は、ボールに視線を向けている。特にこちらのチームの選手たちは、絶対に入らないシュートの軌道を見て、勝利を確信したことで、完全に気が緩んでしまっていた。

 

 多分、きっと……遊佐が狙ったのは、この数秒だったのだろう。

 ほんの一秒だけ、べったりと張り付いていた厳しいマークが、ボールに意識が向いたことで緩んだ。

 その隙を突いて抜け出した影が、弧を描くボールを追って宙を舞う。

 

「なっ……!?」

 

 残り一秒の瞬間、外れるはずだったシュートを尾上の大きな手が空中で受け止めた。

 信じられないことに、あいつの手はリングよりも高い位置にあって……誰もが目を疑う中、腕を大きく突き上げた七瀬が全力で叫ぶ。

 

「雄介くん! やっちゃえ!」

 

 その声が合図であったかのように、尾上が腕を振り下ろす。

 掴んだボールをゴールに叩きつけるように腕を振れば、ガシャンッ! というとても大きな……世界が壊れる音と、試合終了を告げるブザーが響いた。

 

 騒然とする会場の中で、一番最初に審判が動く。

 腕を上げ、二本だけ立てた指をこの場にいる全員に見えるようにアピールした後、それを振り下ろした瞬間、会場全体が湧き立ち、歓声が上がり始める。

 

「嘘よ……! こんな、こんなのって……!!」

 

 残り一秒からの大逆転。アリウープダンクによるブザービート。卑怯な攻撃を跳ね退けて掴んだ勝利。

 劇的でドラマチックな結末と、弟や仲間たちに抱き着かれる尾上の姿を見つめながら、私は自分たちが惨めな負け犬に成り下がった事実にただただ震え続けることしかできなかった。

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