ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

380 / 426
バスケ部の未来に祝福を

「田沼先生」

 

「ん? おお、尾上か」

 

 そして今、僕は大会に参加したメンバーたちと祝勝会に参加している。

 以前も利用した焼肉屋……そこに顔を出してくれた田沼先生に声をかけ、横に座れば、少しの沈黙の後で先生が口を開いた。

 

「改めて、優勝おめでとう。努力が実って良かったな」

 

「ありがとうございます。わざわざ祝いに来てくださったことも感謝しています」

 

「はははっ! 当たり前だろう? 教え子の頑張りを称えない教師なんていないさ」

 

 笑いながら水を一口飲んだ先生は、小さくため息を吐くと申し訳なさそうな表情を浮かべ、僕へと言った。

 

「……すまなかったな。藪瀬たちへの処分、お前からしてみれば納得がいかないものだっただろう?」

 

「いえ、そんなことは考えてないです。先生が声を上げてくださらなかったら、バスケ部が廃部になっていたかもしれませんし……」

 

 文化祭の時から僕たちに嫌がらせに近しい行為をしてきた藪瀬先輩や僕を負傷させた俵山くん。他にも今回の騒動に関わったバスケ部のメンバーたちへの処分が軽過ぎるとは、僕は思っていない。

 

 これから先、藪瀬先輩たちは自分たちがしてきたことのせいで学校内外で後ろ指をさされることになるだろう。

 それに、仮にバスケ部が活動を再開させたとしても、もう彼らは戻ることはできない。

 

 それだけで十分な罰になると思うし、そんな先輩たちにさらなる処分を下そうとすれば、それはバスケ部の存続に関わるものになってしまう。

 バスケ部自体にダメージを与えずに悪評の元凶となった先輩たちを切り離し、先生が彼らの更生に注力するというのは、一番いい落としどころだと思えた。

 

「田沼先生も大変じゃないですか? ようやく部活停止のいざこざの余波が治まったと思ったら、またこんなことになって……学校が指示した更生プログラムに参加する藪瀬先輩たちの監督をするんですよね?」

 

「ああ、まあな。それが先生としての責任だ。あいつらがやり遂げることを信じて、傍で見守っていくよ。それがバスケ部には戻れないあいつらができる数少ない償いであり、あいつら自身の未来を変えるために必要な行動だからな」

 

 そう言いながら、田沼先生が腕時計を確認する。

 もうここを離れなければならない時間がきてしまったのだろう。目の前に置いてあった烏龍茶が入ったグラスを一気に傾けて中身を飲み干すと、ふぅとため息を吐く。

 

「すまん。明日も早いから、そろそろお暇させてもらうよ。お前たちは楽しんで――」

 

「あっ! ちょっと待ってください、先生!」

 

 ここを去ることを伝える田沼先生へと、楽人が大慌てで声をかける。

 駆け寄ってきた楽人は、先生にこう話を切り出した。

 

「これから先なんですけど、みんなで話し合ってバスケ部じゃなくって同好会として活動していくことにしました! 体育館を使う認可は取れないでしょうけど、ロードワークとかお金を出し合って施設を借りて練習していくつもりです!」

 

「そうか……それで、誰がリーダーになるんだ?」

 

「俺です。まだ未熟ですけど、みんなと一緒に頑張っていきます」

 

 真剣な表情でそう宣言する楽人の姿に、田沼先生は静かに頷いた。

 どこか頼もしく見える教え子の成長を喜んでいるように見える先生は、楽人の肩に手を置いて言う。

 

「……頑張れよ。俺も様子を見に行くし、何かあったら相談してくれ。バスケ部の活動再開に向けて、お互いに全力を尽くしていこう」

 

「はいっ!」

 

 大声で返事をする楽人の姿に、みんなの間から拍手が飛ぶ。

 再び頷いた先生は僕の方に振り向くと、苦笑を浮かべながら言った。

 

「尾上も同好会に参加して、遊佐を支えてもらえると嬉しいんだが……そういうわけにはいかないよな。そんな目のお前にこの話を切り出すこと自体、間違っている気がするし」

 

「そうですね。申し訳ありませんが、僕は参加できません。でも……()()()()()()()()()()()()()()なら、心当たりがありますよ」

 

「え……?」

 

 僕の答えに田沼先生がぽかんとした表情を浮かべる。

 少し僕が体をずらせば、にやにやと笑うひよりさんに背中を押されてこちらへと歩いてくる熊川さんの姿があり、驚く先生へと彼女は意を決した様子で口を開いた。

 

「あの、私、バスケ同好会のマネージャーやります。届とかどこに出せばいいのかわからないんで、その辺りのことを先生に教えてもらいたいんですけど……」

 

「えっ? く、熊川さんが!?」

 

「ん? 私じゃ不服?」

 

「いっ、いや! 超嬉しいしありがたいけど、どうして急に……!?」

 

 先生以上に驚いた楽人がそう尋ねれば、熊川さんは恥ずかしそうに笑いながらこう答えてみせた。

 

「楽しかったからかな。前、自分が飽き性だって遊佐くんに話したことがあるけど……大会までの期間、マネージャーとして活動して、みんなの頑張りを傍で見守り続けた時間は、すっごく楽しくて飽きなかった。なんていうか、不慣れで大したことができたわけじゃないって自覚はあるけど、それでもみんなの役に立ててた部分はあると思ったし……みんなを支えるために頑張るって楽しいって思えたから、続けてみようと思ったんだ」

 

 そう言った後、熊川さんは楽人の肩を叩きながら笑顔で続ける。

 

「だからこれからもよろしくね! まずはバスケ部の活動再開目指して、全員で頑張っていこうよ!」

 

「う、うん! これからよろしく、熊川さん!!」

 

 緊張と喜びを入り混じらせた表情を浮かべながら、楽人が大きく頷く。

 色んな意味で、これが新たな一歩になると……そう確信し、ひよりさんと微笑み合う僕は、お互いの親友の幸せを願うのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。