ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

381 / 426
バカップルここに極まれり

「おっ、話終わった? こっちはお先頂いてま~す!」

 

「さっさと肉食えよ、雅人が全部食い尽くしちまうぞ?」

 

 先生を見送った後で席に戻った僕は、弟たちからそんな言葉を投げかけられて苦笑した。

 食べ放題なんだから心配いらないだろうと心の中でツッコミを入れつつ座れば、早速ひよりさんがお皿と肉を差し出してくる。

 

「はい、雄介くんの分! ちゃんと用意しておいたから!」

 

「ありがとう、ひよりさん。毎回助かってます」

 

「おお、流石は気が利く嫁……! 私も大我くんの分を用意してあげるべきか……?」

 

「いや、流石にそこまでされるのは申し訳ないっす……」

 

 何か妙なことを考えている様子の鉢村さんの言葉に、大我が冷や汗を流しながら言う。

 その隣では雅人と間沼くんが競うように肉を食べており、焼き上がるまでの時間を使って短い会話を交わしていた。

 

「お前、めっちゃ食うじゃん。その体のどこにそんだけの量の肉が入るんだよ?」

 

「痩せの大食いなんだよ。それに焼肉なんて滅多に食べられないしな。今日で食い溜めしておくんだ……!!」

 

 ちょっと情けないというか、意地汚いことを言う雅人が焼き上がったカルビを頬張る。

 そんな雅人を見つめながら、間沼くんは残念そうに呟いた。

 

「……お前も同じ学校に進学してくれたらな。いいコンビが組めると思ったのに」

 

「嫌だよ。仮に同じ高校に入ったとしても、バスケ部には参加しねえから。俺、スポーツ苦手だし」

 

「それだけ食うんだ、鍛えたらいい感じになると思うぞ? それに雄介先輩と弟の大我くんと同じ血を引いてるんだし、お前にも才能はあるだろ」

 

「めんどくさい。俺は頭脳派なんだ。肉体労働は勘弁だよ」

 

「わかってるって。でも、スリーポイントシューター兼司令塔やってくれるお前がいて、切り込み隊長を務める俺がいれば、すげえ攻撃力のチームができあがると思ったんだけどな……」

 

 雅人は僕たちの高校よりも偏差値が高い高校への進学を狙っているし、本人が言う通り、仮に同じ高校に入ったとしてもバスケ部には所属しないだろう。

 それでも、ほぼ素人の雅人の大会での大活躍を見た間沼くんは、同い年の有望株と一緒にプレーすることを夢見てしまったようだ。

 

「気持ちはわかるぜ、志乃。俺も一緒にプレーしたい奴がタメにいるのに、本人が首を縦に振ってくれなくて残念だって常々思ってるからさ」

 

「ははは……ごめん、ごめん。でも、いいじゃない。熊川さんがマネージャーとして参加してくれることになったんだからさ」

 

「確かにそうっすね。遊佐先輩はラッキーだ」

 

「リア充爆発しろください」

 

 そんな間沼くんに同意を示した楽人へと、僕たちからのからかいの言葉が飛ぶ。

 恥ずかしそうに笑う楽人であったが、その背後から熊川さんがこんなことを言ってきた。

 

「そういえばだけどさ、よく最後まであんな切り札を隠してたよね!?」

 

「雅人のスリーのこと? あれだったら――」

 

「いや、それもすごかったけど、一番はあれでしょ! ラストプレーで見せた、遊佐くんと尾上くんのコンビネーション!」

 

 興奮気味に語る熊川さんの言葉に、話を聞いていたみんなが頷きを見せる。

 

「よくあそこまで隠し通してきたよね? 普段の練習でも見たことなかったし……」

 

「っていうか、大我くんたちも尾上くんがダンクできるって一言も言ってなかったじゃん。雅人くんのスリーもそうだけど、隠し事が上手い兄弟だね~……」

 

 熊川さんと鉢村さんがしみじみとそう語る中、肉を飲み込んだ雅人が口元を拭いながらみんなに言った。

 

「いや、俺たちも知らなかったっす。雄介、ダンクできたんだな」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

「俺たちも一度も見たことないですね。むしろ、あんなプレーができたならもっと早くにやっとけって思いました」

 

「じゃあ知ってたのは遊佐くんだけってこと!? 尾上くん、弟たちにも内緒にしてたの!?」

 

「あ~、いや……俺も雄介がダンクできるとは知らなかったっていうか、最後にチラ見した時に何とかするって目をしてたから、完全に賭けであの位置にパスしたっていうか……」

 

「え~っと……? つまりあのアリウープ、ぶっつけ本番だったってことですか!?」

 

「まあ、そうなるかな? っていうか、僕もダンクシュートを決めたのはあれが初めてだよ」

 

 苦笑を浮かべながらの僕の言葉に、みんながどよっとどよめいた。

 あれが作戦ではなく、アドリブでのプレーだったことに驚くみんなを代表して、熊川さんが言う。

 

「あ、あの場面でよくそんな賭けができたね……? なんか自信があったの……?」

 

「ん~……自信って言うよりかは、あれかな?」

 

 そう言いながら、ひよりさんを抱き寄せる。

 あの瞬間に聞いた声援を思い返した僕は、小さく笑みを浮かべつつ、答えを述べた。

 

「僕には、こんなにかわいい勝利の女神がついてくれてるからね。ひよりさんが応援してくれたおかげで、実力以上のものが出せたんだと思うよ」

 

「えっへへ~……! 言ってくれるね~! もう!!」

 

 最後の瞬間に響いた声が、僕を押し上げてくれた。

 あれは僕だけの力じゃあない。パスをくれた楽人や一緒に戦ってくれたみんな、そしてひよりさんの力も含めて掴めた勝利だし、決められたシュートだ。

 

 ――ということを遠回しに伝えたかったのだが、みんなには普通に惚気だと思われたようで……?

 

「おいおい、とうとうここまでバカップル具合が進化したか……」

 

「残念ながら手遅れです。諦めましょう」

 

「たれバーに激辛だれがあったけど、必要な人いる?」

 

「あの二人だけさっさと追い返そうぜ! これ以上は俺たちの心が死ぬ!!」

 

 ……という感じで、さっきまでとは違う雰囲気で騒がしくなってしまった。

 ちょっと感覚がズレてきてるのかなと考えつつ頬を掻く僕へと、満足気にひよりさんが言う。

 

「いや~、かわいい勝利の女神か~! やっぱりあれかな? おまじない、効いちゃったかな?」

 

 そう言いながら眼帯の上から僕の左目に触れたひよりさんが、にししと笑う。

 その笑顔を見て、左目に触れた彼女の唇の感触を思い返した僕は、照れ臭さをごまかすように焼肉を頬張るのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。