ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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短編・お世話したいひよりさんと片目が見えない僕
ひよりさん、お世話したいモードに突入した模様


「う~ん……やっぱり地味に不便だな……」

 

「そりゃそうだろ、片目が塞がってるんだからよ。怪我してすぐに思わないか?」

 

「最初はそこまでって思ってたんだけど、時間が経つにつれて不便さに気付いていったっていうか……」

 

 大会が終わってから少し経ったある日のこと、僕は楽人とそんな話をしていた。

 眼帯に覆われた左目を撫でながらぼやいた僕は、ここ最近地味に感じているストレスに対して愚痴と共にため息を吐き出す。

 

「授業中は黒板は見にくいし、体育の授業は危ないからって参加できないし、包丁とか火かを使う料理もできないしさ……日が経つにつれてできないことがわかって、ストレスが溜まっていくんだよね……」

 

「ストレス発散なら、七瀬さんとぱーっと遊びに行けばいいじゃねえか」

 

「……まず真っ先にできないこととして挙がったのがそれなんだけど?」

 

「……すまん」

 

 片目が塞がっているせいで微妙に距離感が狂うこと自体がストレスなのだが、そのせいでできないことが数多く出てきてしまったことが何よりも問題だ。

 運動はもちろん、料理も危ないからという理由で禁止されていて、ストレスの発散のしようがない。

 

 ひよりさんと遊びにも行けない上にクリスマスもどこかに出かけることができないというだけでも超が何個も付くレベルの痛手なのに、さらに追い打ちをかけてくるだなんて酷過ぎる。

 微妙に楽人にもトゲのある言い方をしてしまったし、僕は自分が思っている以上にストレスが溜まっているようだ。

 

(紫村め……! 元から許す気はなかったけど、恨みが百倍は増したぞ……!!)

 

 僕がギリギリと歯軋りせんばかりの勢いで怪我の原因となった紫村への恨み言を心の中で零す中、不意に頬にひんやりと冷たい何かが当たった。

 

「わっ!?」

 

「雄介くん、顔が怖いよ~? 気持ちはわかるけど、リラックスしていこう!」

 

 驚く僕へと、冷たい缶ジュースを手にしながらひよりさんが言う。

 彼女のおかげで冷静さを取り戻せた僕が咳払いをする中、プルタブを開けたひよりさんがこう言葉を続けた。

 

「やっぱり片目が塞がってるって不便だよね……あっ、さっきの授業、ノート取れた? あたしのノート見る?」

 

「あ、ああ、大丈夫だよ。気を遣ってくれてありがとね、ひよりさん」

 

 気を遣ってくれるひよりさんに感謝しつつ、不意打ちは止めてほしいなと心の中で思う。

 そこから続いて熊川さんと鉢村さんが話に加わり、一気に賑やかになった。

 

「目はねえ……手とか足以上に日常生活で欠かせないものだし、怪我すると一気に不便になっちゃうもんね」

 

「その目だとアルバイトもできないでしょ? やれることに制限がかかりまくりでストレスが溜まるってのもわかるわ……」

 

「雄介くんは優しいから、家族にも迷惑かけちゃってるって考えて凹んでそうだしね。そこは気にしなくていいとは思うけど、考えちゃうものは仕方ないもんね」

 

 彼女たちの言う通り、できないことが多いというのは本当にストレスになるし、気分にも関わってくる。

 家で料理ができないと母や弟たちに負担がかかってしまうし、アルバイトでお金を稼げないというのもとても痛い。

 

 さっきも言ったが、ひよりさんとのクリスマスデートが潰れてしまったことも申し訳なく思ってしまう僕であったが、そんな僕へとひよりさんが元気よくこう言ってきた。

 

「まあ、そんなに凹まないでよ! できないことがあるなら、できることをやればいいだけだしさ! 外に出かけることはできなくても、家で一緒にいることはできるでしょ!?」

 

「その通りではあるけどさぁ……」

 

「だったらいいじゃん! いつも通り一緒にご飯食べて、おしゃべりして、あたしはそれで十分だよ! あっ! 今日はあたしがご飯作るね! 寒くなってきたし、お鍋とかどう?」

 

 ……なんだかひよりさんの目がいつも以上にキラキラしている気がする。生き生きしているというか、妙にテンションが高い。

 別に悪いことじゃないからいいんだけど、変だな……と考える中、鉢村さんがちょいちょいと脇腹を肘で突っついてきた。

 

「……尾上くん、ちょっといい?」

 

「え? なに? どうかした?」

 

 鉢村さんが僕に声をかけるとのほぼ同時に、楽人と熊川さんがひよりさんの気を引くように彼女に声をかける。

 これは予定されていた行動なのだとその動きを見て察する僕へと、鉢村さんが小さな声でこう言ってきた。

 

「尾上くんも気付いてると思うけど、ひよりってば妙なスイッチが入っちゃったっていうかさ。尾上くんのお世話したいモードになっちゃってるみたい」

 

「お世話? 僕の?」

 

「うん。ひよりが好きな人には何でもしてあげたくなっちゃうタイプだってことはわかってるでしょ? そういう性格にここしばらくマネージャーとして動いてたから世話焼き性質が加わっちゃって、尾上くんが怪我しちゃったじゃない? それでお世話したくなっちゃってるんだと思う」

 

 鉢村さんからひよりさんの妙なテンションの理由を聞いた僕は、ちらりと彼女の方を見る。

 確かにどこかやる気に満ちあふれているように見えるなと思いつつ、同時に僕はひよりさんの心境を慮った。

 

(もしかしたらひよりさんもストレスが溜まってたのかもな。デートにも行けなかったし、二人で過ごす時間も激減してたし……)

 

 ここ最近、バスケ大会に出ることになったせいでひよりさんと二人きりで過ごす時間は明らかに減っていた。

 およそ一か月と少しくらいの時間ではあったが、僕だってそれは残念に思っていた部分ではあったし、ひよりさんもそうなのだろう。

 

 しかも大会が終わってその日々にも終わりが来ると思ったら、僕の目の怪我だ。

 クリスマスデートが潰れたばかりか普通に出かけることもできなくなってしまったと聞いたひよりさんのショックの大きさたるや、想像もつかない。

 

 もしかしたらこれは、彼女なりのストレス発散なのかもしれないと思った。

 僕の世話を焼くことで気持ちを満足させようというひよりさんなりの心の埋め方なのかと、そう考えた僕は一つ覚悟を決める。

 

(よし、わかった。僕もひよりさんに負担をかけてたし、今回は全身全霊でお世話になろう!)

 

 それをひよりさんが望んでいるのであれば、全力で乗らせてもらう。そう決めた僕だが、改めて考えるとなんとも情けない決意ではないか? とも思ってしまう。

 そういった雑念を振り切り、お世話したいモードのひよりさんを満足させるために思いっきり甘えてみせると、僕は強く誓うのであった。

 

 

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