ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「あんたたち~! ご飯よ~! さっさとこっち来なさ~い!」
「イエス、マム! 既に準備は完了しております!!」
「さっきからいい匂いがしまくってたせいでお腹がペコちゃんだぜ!」
「本当にお前たちって調子がいいよな……」
それから数時間後、夕食の時間を迎えた我が家は実に賑やか……というより、騒がしいの領域に足を突っ込むレベルで盛り上がっていた。
テーブルの中央にはカセットコンロが置かれ、台所から現れたひよりさんが抱えた大きな鍋をその上に置く。
カチッという音と共に点いた火にかけてから数十秒後、そっと鍋の蓋を開けた僕は、そこから漂ういい香りに鼻をひくつかせながら呟いた。
「うん……! すごく美味しそうだ。流石はひよりさんだね」
「あたしは材料を切っただけだよ。美味しいとしたら、鍋のつゆのおかげだね!」
謙遜するひよりさんだが、綺麗に切られた野菜やその並べ方なんかを見れば、決して彼女がただ切っただけではないことがわかる。
丁寧に調理しつつ、僕の要望に応えてくれた彼女の愛の結晶とでも言うべき鍋を見ているだけで胸がいっぱいになりそうだが、だからといって箸をつけないというのは用意してくれたひよりさんに失礼だ。
「あれ? 今日は豆乳鍋じゃないんだ? 通りで普段と匂いが違うと思った」
「豚骨醬油鍋だっけ? 雄介のリクエストに、優しいひよりちゃんが応えてあげたのよね~!」
「おおっ! これはこれで美味そう! ラーメンのスープみたいだし!」
「そう言うと思って、しっかり締めのラーメンも用意してあるよ!」
「神……!!」
「流石は義姉さん、すごいお方だ……!!」
普段と鍋つゆが違うことに気付いた弟たちであったが、これはこれでオーケーという予想通りの結論に達してくれたようだ。
美味しければ何でもいいを地で行く二人が早速鍋をパクつく中、僕の取り皿を手にしたひよりさんが言う。
「雄介くんの分はあたしが取ってあげるね。何が食べたい?」
「いや、流石にそこまでしてもらわなくても……」
「いいから! ほら、あたしに甘えてってば!!」
一緒に買い物をし、料理をリクエストして、実際にそれを作るだけではお世話欲は鎮まらなかったようだ。
むしろまだまだ甘やかしてやるぞと言わんばかりのオーラがひよりさんから出ていることに気付いた僕は、諦めの苦笑を浮かべながら彼女の厚意に甘えることにした。
「雄介くんはキノコが好きだったよね? ダイコンとニンジンもいい感じに染みてるし、おネギも入れて……おっと! メインのお肉も忘れないようにしないと!」
「ひ、ひよりさん? 流石に盛り過ぎじゃない?」
「大丈夫! お野菜はまだまだあるし、お肉もおかわり用意してるからさ! 雅人くんと大我くんもじゃんじゃん食べちゃってね!」
小さな取り皿にこれでもかと鍋の具材を盛っていくひよりさんが笑顔を浮かべながら言う。
一通りの食材を盛り付け、お玉で少しつゆを注いだ後、満足気に頷いた彼女は僕の前に皿を置いてくれた。
「はい、どうぞ! おかわりしたかったら遠慮せずに言ってね!」
「ありがとう。でも、そこまで気を遣わなくっても大丈夫だよ」
厚意に感謝しつつ、僕はひよりさんによそってもらった鍋の具材に箸を伸ばす。
まずはよく味が染みてそうなダイコンから……と箸で掴んだそれを放り込めば、豚骨醬油の濃厚な味が口の中いっぱいに広がった。
「うん、美味しい!」
「やっぱあのラーメン屋さんを思い出す味だよね! そっくりそのままってわけじゃないけどさ!」
ひよりさんも同じく、自分のお皿に盛ったお肉を頬張っているところだった。
彼女の言う通り、少し違うものの久しく通っていないラーメン屋さんの味を思い出した僕は、続けてホウレンソウを口に運ぶ。
「あっ、ホウレンソウはすごい似てる!」
「本当だ! 豚骨醬油と相性がいいからかな? ラーメンに入ってる方が濃厚な気がするけど、すっごい美味しいね!」
通っているラーメン屋さんのトッピングとして定番のホウレンソウは、鍋に入れても抜群に美味しかった。
そんなふうに、知っているようで知らない豚骨醬油鍋に舌鼓を打っていた僕であったが、テンションが上がったせいか、まだ熱い豆腐をついうっかり口の中に放り込んでしまったせいで大変な目に遭ってしまった。
「ほふっ!? あふっ! あふっ!!」
「雄介くん、大丈夫!? ほら、お茶!!」
「あ、あひがほ……っ!!」
慌ててひよりさんが差し出してくれた冷たいお茶で流し込んだおかげで事なきを得たが、もうこんな失敗はこりごりだ。
もう少し落ち着いて食事を楽しもうと自分に言い聞かせたところで、くすくすと笑ったひよりさんがこんなことを言ってくる。
「もう、雄介くんったら……どうする? あたしがふ~ふ~して、冷ましてあげよっか?」
「さっ、流石にそれは恥ずかしいって! 家族も見てるんだしさ……!!」
「ふふっ! 二人きりだったらしてもいいんだ? そっかそっか~!」
どうやら僕がちょっぴりダメなところを見せてしまったせいで、ひよりさんの庇護欲というか母性を刺激してしまったらしい。
お世話したいモードの彼女が良くない方向に暴走する兆しを感じ取った僕は、色んな意味で二度と失敗できないとプレッシャーを感じ始めた。
「母さん、台所から醤油と塩持ってきて。このままだと締めに入る頃には豚骨砂糖ラーメンになっちゃってるだろうから、今の内にぶち込んでおかないと」
「むしろ俺たちはさっさと締めまでいって、雄介と義姉さんを二人きりにした方がいい可能性まであるくない?」
「お前たち、頼むからそんな好き勝手言うなって!」
呆れた様子でぼやく弟たちにツッコミを入れたおかげで空気がリセットできた。
たまには騒がしい弟たちも役に立つんだなあと思ったところで、再度雅人が口を開く。