ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「毎日見てるけど、やっぱ雄介の目、痛そうだよな」
「悪いな。あんまり見てていい気分しないだろ」
「そうは思ってないっつーか、心配になるよ。一応、家族だしさ」
風呂に入る時や寝る時を除いて、基本的に眼帯を着けている今の僕は、見ていて心配になるようだ。
包帯でぐるぐる巻きになった怪我人を見ている感じかなと考える中、母が言う。
「でも、ありがたいことにひよりちゃんがいるからね。学校でも雄介の傍にいてくれるし、こうして面倒を見てくれるから、安心できるわよ」
「いやいや、あたしなんて全然大したことしてないですよ! 面倒を見るなんてレベルじゃないですって!」
「そんなことないよ。ノート写させてくれたり、他にも色々気遣ってくれてるじゃない」
「その程度だよ。そもそもそのノートだって雄介くんはしっかり書いてたから、ほとんど役に立ってないようなもんだしさ」
こうして話をしていてふと思ってしまったのだが、もしかしたらひよりさんはこのレベルのお世話をお世話だと思っていないのかもしれない。
だからもっと役に立ちたいとばかりに頑張ってくれているのかと、感謝しつつもそこまで必死にならなくてもいいのにと僕が思う中、彼女はこう続ける。
「まあ、そもそも雄介くんは人望があるから、あたしが手を貸さずとも色んな人たちが助けてくれるもんね。遊佐くんとか、優希たちもそうでしょ?」
「いい人たちが多いっすよね。鉢村さんも面白い人でしたし……」
「確かに面白い人ではあったな、うん」
友人やクラスメイトたちがいるおかげで自分の出番はそんなに多くないというひよりさんの言葉に、バスケ大会を通じて出会った人々の印象について弟たちが語る。
母もうんうんと頷いた後、少し嬉しそうに微笑みながら口を開いた。
「今回の一件を通じて雄介って意外とお友達が多いことがわかったわよね。しかもいい子たちばっかりだったから、嬉しかったわ」
「義姉さんがいる時点でぼっちではないと思ってたけど、意外と充実した高校生活を送ってんのな」
「おい、意外ってどういう意味だ?」
「中学はバスケ部に入ってたからそこで友達がいただろうけど、高校は違うじゃない? だから、中学の頃よりもお友達が少なくなってるんじゃないかって、雅人くんも心配してたんだよ」
雅人の発言にツッコミを入れた僕へと、ひよりさんが今の言葉の真意はこうではないかと噛み砕いて伝えてくる。
特に訂正をしない雅人を見つつ、少し言い方は悪いが僕のことを気遣ってくれているんだなと思う中、くすくすと笑った母が言った。
「いいわね。なんだかひよりちゃん、お母さんみたい」
「えへへ……! そうですかね? 雄介くんもそう思う?」
「えっ? ど、どうして僕に……?」
「いいじゃん、いいじゃん! 今のあたし、ママみあふれてるかな? かな!?」
ずずいっと話を振りつつ、距離を詰めてくるひよりさんの言動に、僕はもうたじたじだった。
視線を泳がせる僕と詰め寄るひよりさんを見つめる家族は、それぞれの反応を見せながら口々に感想を述べる。
「多分これ、学校でもやってるよな……? ってことは遊佐さんたちは日常的にイチャつき被害に遭ってるのか……」
「糖尿病患者が増えたら雄介の責任だな。糖分控えめにするように気を付けろよ」
「仲良きことはいいことかな、ってやつよね! でも、時と場所は考えた方がいいわよ! 私たちの前でなら大歓迎だけどね!!」
「だって! じゃあ、思いっきりイチャつこうか! カモン、雄介くん!」
「カモン、じゃないって!! 恥ずかしいから! 僕は無理だから~っ!!」
母の言葉に乗って腕を広げたひよりさんの瞳の中には、ハートマークが浮かんでいる。
この振り切れっぷり、危ないスイッチが入った上にどんどん過激になっているぞと考えた僕が不安になる中、笑顔のひよりさんが母の方を向くと口を開いた。
「あ、お義母さん! さっきも話したんですけど、あたしんち今日両親遅くなるっぽいんで、泊まらせてもらってもいいですか?」
「もちろんオッケーよ! 明日は休みだし、遠慮せずに泊まっちゃって!」
「えっ……!?」
この状態のひよりさんが、お泊りする……なんだかすごくマズい気がしてきた。
とは思いつつも、これは僕の勝手な想像だ。ひよりさんだって弁えてるはずだし、そんなとんでもないことにはならないだろう。
(ならない……よね? 大丈夫だよね……?)
――もしかしたらこれも僕の希望的観測でしかないのかもしれないという思いは、とりあえず封印することにした。
ひよりさんの瞳の中にあるハートマークがどんどん大きくなっているように見えるのも、きっと僕の気のせいだろう。
そうじゃないとマズいよな……と思いつつ、僕は豚骨醬油鍋と締めのラーメンを堪能するのであった。