ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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お部屋で二人、お薬ぬりぬり

(よ、良かった……! 流石にお風呂に突撃はしてこなかったか……)

 

 入浴を終え、ドライヤーで髪を乾かしながら、僕は心の底から安堵していた。

 ひよりさんのお泊りが決定し、レディファーストの精神で先に彼女に入浴の順番を譲り、その後に続いて僕も風呂に入ったわけだが……その間、ひよりさんがいきなり飛び込んでこないか不安で不安で落ち着くことができなかった。

 

 母や弟が同じ家の中にいる状況でそんな大胆な真似はしないとはわかっていたが、今のひよりさんならやりかねないという気持ちもある。

 実際、「一緒にお風呂入る? 体、洗いっこする?」といういつも通りのからかいをしてきたひよりさんの表情に、若干の本気を感じさせるものがあったような気がしたし……とその時のことを振り返った僕は、都合よくそれを忘れることにした。

 

(だけど、ピンチは終わらないんだよなぁ……)

 

 入浴という危機は去ったが、まだ終わりじゃない。

 むしろ本番はここからだと思いつつ、僕は自分の部屋に向かう。

 

 予想通り、電気が点いているその部屋の中にはひよりさんが待機していて、布団の上で寝転がっていた彼女は僕の姿を見るとぱあっと笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「お風呂、ゆっくり楽しめた? 少し早いかもしれないけど、お布団敷いといたよ!」

 

「ああ、うん。ありがとう、ひよりさん」

 

 この気遣いはとても助かると思いつつ、自分の布団の上で無防備なパジャマ姿を見せるひよりさんの姿を見ていると、どこか落ち着かない気持ちになってしまう。

 心の中から不純な感情を振り払おうとする僕に対して、起き上がったひよりさんはこう続けた。

 

「ほら、こっち来て。左目に薬を塗らないとでしょ?」

 

「えっ? そ、それはそうだけど、流石にそれは自分でやるって」

 

「いいから! あたしに任せて!!」

 

 塗り薬を手に、こちらに来いとばかりに布団をぺしぺしと叩きながらひよりさんが言う。

 自分でやった方が早いとは思ったが、今日は彼女のお世話になると固く決心していた僕は言われるがままに彼女に近寄り、布団の上に腰を下ろした。

 

「うん、素直でよろしい! さてさて、あたしも雄介くんが痛がらないように丁寧にしてあげないとね……」

 

 そう言いながら、ひよりさんが僕の顔に自分の顔を近付ける。

 ドキッとする反面、少し申し訳と怖さを感じてしまった僕が視線を逸らせば、その反応に違和感を覚えたひよりさんが首を傾げながら問いかけてきた。

 

「どうしたの? 近付かれるの、恥ずかしい?」

 

「それもあるけど……あんまり見てて気分がいいものじゃないでしょ? 僕の左目」

 

「ああ、そんなことか……」

 

 さっき雅人にも言ったが、僕のまだ腫れが引いていない僕の左目は見てて気分のいいものではないはずだ。

 グロテスクとまではいかないだろうが、それでも彼女から間近で見つめられると嫌な気分にしていないかと不安になってしまう。

 

 そう心配する僕に対して、ひよりさんは真面目な顔でこう答えてくれた。

 

「全然気にしてないよ。気持ち悪いとか不快だなんて、これっぽっちも思ってないから。信じられないなら、まぶたにキスしてあげよっか?」

 

「そっ、そこまですることないって! ひよりさんのことを疑ったりもしないし、まぶたにキスだなんて、そんな……!」

 

「ふふっ……! やっぱりまぶたより唇の方がいい? どっちでも好きな方にしてあげるよ?」

 

 からかうようにしながらも緩く温かい笑みを浮かべたひよりさんの言葉に、僕は今度こそ恥ずかしさを感じて視線を逸らしてしまった。

 そんなふうに僕がいつも通りの反応を見せるようになったことに満足したのか、ひよりさんは塗り薬を指に付けると、そっと僕へと手を伸ばしてくる。

 

「動かないでね。ちょっとだけの我慢だから」

 

 そう言って、僕の左まぶたにひよりさんが触れる。

 丁寧に、丁寧に……宝物に触れるように優しく薬を塗ってくれる彼女のことを、僕は開いている右目で見つめ続けた。

 

「大丈夫? 痛くしてない?」

 

「平気だよ、心配しないで」

 

 少し不安そうなひよりさんへとそう返せば、安堵したように微笑んでくれた。

 そうして薬を塗り終えた後、ティッシュで指を拭いた彼女はポケットから新しい眼帯を取り出し、僕へと差し出す。

 

「はい、寝る時用の眼帯! 薬が枕に付いちゃったら大変だもんね!」

 

「何から何までありがとうございます。本当、助かります」

 

 へへ~っ、とお代官様に感謝する時代劇の町民のように平伏した後、受け取った眼帯を着ける。

 てっきりドヤ顔をしながら胸を張っていると思ったのだが、ひよりさんは難しい表情を浮かべており、どうしたんだろうと思う僕へとこんなことを言ってきた。

 

「しまった……! その眼帯、おっぱいで挟んで温めてあげておけばよかった……!!」

 

「ぶっっ!?」

 

「ホットアイマスクならぬホットぱいマスク……! よし、次の機会があったら実行してみよう!」

 

「やらないでよ? 絶対やっちゃダメだからね!?」

 

 懐で草履を温めてたどこぞの天下人じゃあないんだから、そんなことはしないでほしい。

 もしも次、ひよりさんから眼帯を渡されたら、警戒しよう……と自分自身に言い聞かせる僕に対して、ひよりさんは甘やかしモード全開で言う。

 

 

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