ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「雄介くん、んっ!」
「ん……?」
布団の上で正座したひよりさんが、僕に何かを訴えかけるような眼差しを向けてくる。
彼女が何を言わんとしているのかを理解できずに首を傾げる僕へと、ひよりさんは自分の膝を叩きながら言った。
「ほら、おいで。少し落ち着くまで、おしゃべりしよ?」
その行動を見て、ようやくひよりさんが何をしたいのかを理解した僕は、ちょっと迷った後で彼女へと近付く。
ころりと布団に転がりながら頭を彼女の膝の上に乗せれば、ひよりさんの満足気な声が聞こえてきた。
「ふふっ、よろしい! じゃあ、おしゃべりタイムね!」
「……ただ話すだけなら膝枕は必要ないんじゃないかな……?」
「細かいことは気にしない! 雄介くんも嬉しいでしょ?」
それはそうである。本音は言えないが、ひよりさんにこうして甘やかしてもらえるのは嬉しい。
そんなことを考える僕の頭に伸びてきた小さな手が、優しくそこを撫で始めた。
「ふふふ……! 雄介くんの髪、ふわふわだ。まだちょっとだけ温かいね」
子供をあやすように頭を撫でながら、甘い声で囁くひよりさん。その声を聞いていると、少しだけ眠気が湧いてくる。
前にもやってもらったけど、やっぱり心地いいな……と考える中、不意に彼女がくすくすと笑った。
「あ、ドジった。薬塗る時も膝枕してあげれば良かったね」
「……この状態で僕の目に薬を塗るのは無理じゃない?」
「え~? なんで~? どうして雄介くんはそう思うの~?」
「いや、なんでって……ねえ?」
そう、視線の先にある
こいつのせいで僕からひよりさんの顔が見えないということは、ひよりさんからも僕の顔が見えないということだ。
ひよりさんだってそのことはわかっているだろうに……と考える僕の頭上から楽し気な笑い声が聞こえてくると共に、視線の先の大きな山が少しこちらに近付いてきた。
「えへへ……! そうだね。確かに雄介くんの顔が見えないし、この状態で薬を塗るのは危ないもんね」
「わっ……!?」
鼻先くらいにまで近付いてきた山たちの大きさに驚いた僕が思わず声を上げる。
このまま太腿と一緒に顔を挟まれてしまうのではと思ったが、ひよりさんはギリギリのところで近付けるのをやめてくれた。
多分、怪我をしている目にものを当てるのは良くないと思ったからなんだろうなと思いつつ、ほっと安堵のため息を漏らす僕のお腹の辺りを撫でながら、ひよりさんが言う。
「よしよし。雄介くんは偉いぞ~……! お友達のために頑張って、怪我をしたのに弱音も吐かないで……これまで一生懸命頑張ってきたんだから、ちょっとくらいお休みしても誰も何も言わないって。怪我が治るまで、ゆっくりしていいからね~……!」
僕が家族や友人たちに迷惑をかけていると色々気にしていることを感じているのだろう。
そんなことを心配する必要はないと、そうひよりさんは優しく言ってくれた。
「あたしもこうして雄介くんに優しくできて嬉しいからさ……あたしに悪いとか、申し訳ないとか、考えなくていいんだよ。雄介くんは何にも悪くないんだからね」
本当に、そう言ってもらえるのは嬉しい。申し訳なさが消えることはないが、気にしていないという言葉は何度かけられたって嬉しいものだ。
頭やお腹を撫でる手や、甘く響く声からひよりさんの優しさを感じる僕が小さく安堵のため息を漏らす中、彼女が問いかけてくる。
「あたしばっかりしたいことさせてもらっちゃって、ちょっと申し訳ないな。雄介くんはあたしにしてもらいたいこととかないの? 今なら、何でもしてあげるよ?」
とても甘く、魅力的なその言葉にドキッとしてしまった後、不純な考えを頭から追い出す。
少し考え、悩んだ後、僕はしてもらいたいことを彼女に告げた。
「特にないけど、強いて言うなら……顔を見て話がしたいかな?」
「ん……わかった」
膝枕してもらうことが嬉しくないわけがない。ただ、折角だからひよりさんと顔を見て、目を見て話がしたかった。
そんな僕の要望に頷いてくれたひよりさんは、そっと自分の膝から僕の頭を浮かばせると、そのまま布団に横たわる僕に添い寝するように自分も横になってみせる。
ただ添い寝するだけでなく、顔と顔を思い切り近付けるように僕と視線を合わせながら、微笑みを浮かべた彼女は言った。
「これでいい? 雄介くんの要望に応えられてるかな?」
「うん。ありがとう、ひよりさん」
「えへへ~……! どういたしまして!」