ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
顔が見たいという要望に応えてくれたひよりさんが、そのまま僕に体を押し付けてくる。
先ほどまで間近にあった大きな山が自分の胸に当たる感触に気恥ずかしさを感じる僕の目を真っすぐに見ながら、微笑みを浮かべるひよりさんが言った。
「こうしてると初めてのお泊りの時を思い出しちゃいますな~! あれから半年以上経ったのか~……!」
「懐かしいね、本当に。色々と、思い出深いことだったしなぁ……」
出会って一か月くらいの頃、ちょっとしたハプニングから突如として決まったお泊り。
あの日、改めて抱いたひよりさんを幸せにするという想いは、今も僕の心の中で生き続けている。
というより、あの日からどんどんその想いは大きくなっているし、今後も消えることはないのだろう。
今、僕は彼女のことを幸せにできているだろうか……? という疑問の答えは、目の前にある笑顔が証明してくれていた。
「膝枕もハグも添い寝もちょこちょこやってるよね。あとは、キスも」
そう言いながら、ひよりさんが顔を近付けてくる。
僕もまた顔を近付け、唇を重ねると、甘い感触を味わった後でゆっくりと顔を離した。
「ふふっ……! 雄介くんも慣れてきましたな~……! こんなに簡単にキスしちゃうようになって……!」
「簡単じゃあないよ。今だってドキドキしてるし、なんとも思わないでキスできちゃうような人間じゃあないしさ」
「わかってるって。大切に想われてること、ちゃんと伝わってるから」
慣れた、と言われればそうなのかもしれないが、そうじゃないという気持ちもある。
初めての時のようにガチガチに緊張することはなくなったが、ちゃんと想いを伝え合うための行為だという気持ちは失ったことはない。
大切な存在だからこそ適当に扱ったりはしないし、だからドキドキしないこともないということを伝えれば、ひよりさんも微笑みを浮かべながら頷いてくれた。
愛らしく、とても大切だと思える彼女への愛しさのままに強く優しく小さなその体を抱き締めれば、ひよりさんもまた嬉しそうにしながら身を預けてくれる。
「やっぱおっきいなあ……こうしてぎゅ~って抱き締められると、すっごく安心できるんだよね……」
僕に倣い、腕を背中に回して抱き締め返しながらひよりさんが言う。
僕の腕の中にすっぽりと納まってしまうくらい小さな体から伝わってくる脈動と温もりを強く感じる僕の目を真っすぐに見つめた後、彼女はこう言葉を続けた。
「目の怪我がなければ、このままえっちなことしちゃう雰囲気だよね? ちょっと惜しくない?」
「そうかもだけど、なし崩しでそういうことはしたくないかな」
ひよりさんの言葉に同意しつつ、目の怪我がなくとも流れでそのまま……というのは良くないと正直に気持ちを伝える。
大切なことだからこそ、ちゃんとお互いの意思を確認した上できちんと手順を踏んで……というのは、ちょっと重いだろうか?
でも、やっぱりそうした方がいいと思う。
大切だからこそきちんと全てを見たいし、想いを通じ合わせた状態でその時を迎えたいという僕の気持ちに、ひよりさんも同意してくれた。
「まあ、そもそもお義母さんや弟くんたちがいる家の中でそういうことはできないもんね。流石にマズいでしょ?」
「ははは……! うん、間違いないね」
そもそもの大前提を確認し合って、僕たちはお互いに苦笑を浮かべた。
こういう生々しかったり、大変大胆な話ができるようになったのも、そういう段階を迎える準備ができつつあるからなんだろうな……と考える僕へと、ひよりさんが言う。
「っていうか、この状況を見られるのも結構マズくない? あたしは大丈夫だけどさ」
「う~ん……確かにそうなんだよなぁ……」
布団の上で抱き締め合い、顔を至近距離まで近付けている僕とその恋人の姿を家族に見られたら、結構な気まずさを招く勘違いをされてしまうだろう。
まあ、流石にわざわざ僕の部屋の様子を窺いに来るとは思えないが、誤解を招かないためにもそろそろひよりさんを解放した方がいい。
……とはわかっているものの、僕はもう少しこうしていたいと思ってしまっていた。
「ふふっ! 雄介くん、まだあたしをぎゅ~っしてたいんだ? いいよ。あたしは大歓迎だから。いっそこのまま抱き枕にして、一緒に寝ちゃう?」
からかい三割、本気が七割の声色で囁くひよりさんの提案には、正直心を動かされかけた。
そこはしっかり最後の理性を働かせはしたが……抱き心地抜群の彼女をそれからもしばらくの間、抱き締め続けてしまうくらいには欲望を掻き立てられたことも事実だ。
「ふふふ……♥ この甘えん坊さんめ~……♥ よちよち♥ い~っぱい甘えちゃえ~……♥」
そんな僕を抱き締め、頭を撫でるひよりさんは、実に楽しそうで……声もかなり甘くなっている。
この甘さは癖になってしまうなと思いながら、僕は彼女に甘え、心を満たしていくのであった。