ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

394 / 426
バスケ部、糾弾会

「あれ……?」

 

 部長である藪瀬先輩を先頭に、ぞろぞろと列をなして教室に入ってくるバスケ部のメンバーたちの顔を見た僕は、思わず呟きをこぼしてしまった。

 あの大会の日に見た顔はほとんど集まっているが、首謀者とでも言うべき紫村がいないことに気付いたからだ。

 

「あの、紫村……さんは、どうしてここにいないんでしょうか? 彼女も大会に参加していましたよね……?」

 

「ああ。全員、紫村は無理に付き合わせて、マネージャーとしての役目を担ってもらっただけだって証言しててな……軽く話だけ聞いて、この集まりには呼ばれなかったみたいだ」

 

 紫村がいない理由について田沼先生に尋ねてみれば、そういった答えが返ってきた。

 どうやら藪瀬先輩たちは事ここに至っても彼女を庇っているようで、最後の最後まで紫村は彼らを利用し続けるつもりらしい。

 

 事の元凶が文化祭のクレーマーメイド事件であることや、僕とひよりさんに対する態度から考えても、やはりこの一件の首謀者は紫村で間違いないはずだ。

 おそらくは僕に対するラフプレーの指示も彼女がやったことだろうし、責任は大いにある。

 

 しかし、今の僕たちにそれを証明する証拠がない以上、先生たちの決断を変える方法はなく、この場での彼女の逃げ切りを許してしまうことに歯がゆい気持ちを抱いた。

 

(いや、今は紫村のことはおいておこう。バスケ部のことを考えなくっちゃ……)

 

 紫村に対する怒りはあるが、今はバスケ部の処分の方が重要だ。

 逆に言えば、紫村の悪辣過ぎる行為が白日の下に晒されなかったおかげで、処分が軽くなる可能性だってあると……そう、自分に言い聞かせる僕が教室の後ろの方にある席に座る中、死にそうな顔をしている藪瀬先輩たちが前から順番に着席していく。

 

 教壇に立つ校長先生の目の前の席には誰にも座りたくなさそうだったが、鋭い視線を向けられて嫌々先輩たちがその役目を引き受け、十数名のバスケ部員たち全員が席に座った。

 

「……マネージャーを除けば、あの大会に参加していたメンバー全員がこの場に揃った、ということになるんですね」

 

「………」

 

 重苦しい雰囲気の中、校長先生が静かに他の先生に対して確認のための質問を投げかける。

 藪瀬先輩たちからの事情聴取を担当していた先生や、僕や楽人が無言のまま小さく頷いたことを見て取った校長先生は、小さく息を吐いた後で口を開いた。

 

「……君たちは、自分たちが何をしたのかわかっていますか?」

 

「………」

 

 淡々とした、しかし確かな怒りが籠っている声。

 重圧を感じて押し黙り、俯くだけの先輩たちが何も反応を見せない中、再び同じ質問が飛ぶと共に教壇が強く叩かれる音が響く。

 

「自分たちが何をしたのか、理解しているのかと聞いているんだ! 何も答えないというのはどういうことだ!?」

 

「す、すみません……」

 

 激しい叱責に、校長先生の真正面に座っていた藪瀬先輩が震えた声で謝罪の言葉を口にする。

 続けて他の部員たちもか細い声で謝罪の言葉を紡ぐ中、冷静に怒る校長先生が分厚い書類を見せつけながら話を続けていった。

 

「あの日、大会で君たちがしたことに関する報告がこんなにも学校に寄せられています! そのほとんど……いや、全てがモラルに欠けた行動、我が校の品位を貶める行為に関する報告です! 君たちは本当に、自分たちがどれだけの人たちに迷惑をかけたのか、理解しているんですか!?」

 

 再び、無言の時間。怒鳴る校長先生だが、これは仕方のない怒りなのかもしれない。

 この一件のせいでどれだけの被害が出て、どれだけの報告が上がっているのかを改めて知る必要があると判断した僕もまた、先輩たちや楽人と共に校長先生の話に耳を傾けていく。

 

「まず大前提として、君たちバスケ部は現在活動停止処分を下されています。その状態で我が校とバスケ部の名前を使い、活動した……これが絶対にやってはいけない行動だということが、どうしてわからなかったんですか!?」

 

 校長先生の訴えは正論でしかない。

 バスケ部を名乗って大会に参加するということは、それ即ち学校のバスケ部として活動していることを意味する。活動停止処分を受けている身分の生徒たちが、絶対にやってはいけないことだ。

 だから僕たちもチーム名には学校名もバスケ部の名前も入れないようにしていた。少し考えればわかることなのに、どうして藪瀬先輩たちは……と、疑問に思っていた僕であったが、その答えは書類を確認した校長先生が教えてくれた。

 

「バスケ部を名乗った理由が『既に参加を表明していた遊佐くんたちに対抗し、自分たちこそが真のバスケ部であることを示したかったから』だとは……もう私には、君たちにどんな言葉を投げかければいいのかがわからない。何故、同じ境遇に置かれているというのに、同じ部活に所属している生徒同士で助け合おうとはしないのか? 遊佐くんは、君たちのことをチームに誘っていたというのに……!!」

 

 この証言だけでも、校長先生は大きな失望を抱いたはずだろう。そこに先ほど、楽人から他のバスケ部員たちに送られたメッセージを見せてもらったのだから、失望を通り越して絶望してしまったのだと思う。

 差し出された手を取って協力するのではなく、その手を跳ねのけた上で大勢の人たちを巻き込む大暴走を繰り広げたのだから、もうどうしようもないと……そう思われても仕方がないことをしたという自覚があったであろう先輩たちが泣きそうな表情を浮かべる中、話はまだまだ続いていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。