ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「っっ……!?」
――声にならない声、というのを初めて聞いた気がする。
隣に立つ楽人の、呻きにも満たないが様々な感情が込められた小さな息の音が、彼の想いを物語っていた。
「は、廃部……? 廃部って、廃部、ですか……?」
藪瀬先輩は呆然としたまま、同じ言葉を繰り返している。
今、自分が何を言われたのかを理解しようと必死で、目の前の現実を受け入れる段階まで達していないように見えた。
そんな先輩の動揺が、他のメンバーたちにも伝わっていく。
ざわざわと、どよめきが教室に広がっていく中、黙っていた校長先生が口を開いた。
「君たちの停学処分に関してはこれから期間を審議し、決定した上で通達します。近々、ご家族にも連絡がいくでしょうから、そのつもりでいてください」
「ま、待って……待ってください! は、は、廃部って、そ、そこまでする必要は……!?」
「……逆に、そこまでしない理由があると思いますか? ここまでの話を聞いて、活動停止以上の処分が必要ないと? バスケ部の名前を使って活動したというのに、バスケ部そのものに何らかの処分が下らないと、そう思っていたんですか?」
「うっ……!」
学校と部活の名前を使って活動し、そこで問題行動を起こしてしまった以上、重い罰則は必要だ。
対外的にも学校側はこういったペナルティを与えたと周囲に示さないと、信頼を失ってしまう。
そして、今現在活動停止処分を下されているバスケ部に対して下せるより重い処罰といえば……廃部しかない。
当然と言えば当然の処置。しかし、あまりにも重いその現実に、藪瀬先輩たちは完全に言葉を失ってしまっていた。
「
「でっ、でも、でも……っ!!」
「でもじゃあない! ……今、話を聞いている遊佐くんを見て、まだ何か言えますか?」
ドンッ、と強く教壇を叩いた校長先生が、先輩たちを見回しながら言う。
その言葉にハッとし、振り向いた藪瀬先輩たちは、無言で俯き、肩を震わせる楽人の姿を見て、罪悪感に満ちた表情を浮かべた。
「ゆ、遊佐、俺たちは……」
そんな楽人に何かを言おうとした先輩が、言葉を紡ぎ終えるよりも早くにがっくりと項垂れる。
自分たちのせいで、何の罪もない後輩を巻き込んでしまったことを自覚したであろう藪瀬先輩は、静かに涙を流し始めた。
「ご、ごめんなさい……こんな、こんなことになるなんて、思ってなかったです……」
そんな謝罪と後悔の言葉を聞いた他のメンバーたちも耐え切れなくなったのか、次々に涙を流し始めた。
自分たちが取り返しのつかないことをしてしまったと……その自覚をどうして活動停止処分を下された時に持ってくれなかったんだと、怒りと悲しみが同居する感情を抱いた僕がやるせない思いに首を振る中、田沼先生が口を開く。
「……校長先生、少しよろしいでしょうか?」
「どうしましたか、田沼先生」
「今回の一件、こいつらが深刻な事態を引き起こしてしまったことは重々理解しています。ですが、廃部という処分だけはどうにかできないでしょうか?」
そんな田沼先生の言葉に、全員が顔を上げる。
校長先生の厳しい視線を浴びながらも、田沼先生は必死に訴え続けた。
「情状酌量の余地がないということは十分承知しています。しかし、罰を与える真の理由は見せしめではなく、相手の更生を促すためであるはずです。確かにその処分を下せば、こいつらは二度と軽はずみなことはしなくなるでしょう。ですが……同時に、二度と立ち上がれなくなってしまう。それはきっと、校長先生も望んでいる事態ではないはずです」
「ですが……!」
「顧問である私にも監督不行き届きという責任があります。減給処分及び、今回問題を起こした生徒たちを卒業まで厳しく監督すること……私も責任を背負うことで、生徒たちへの処分を軽くできないでしょうか?」
対外的なアピールの一環として、自分も責任を負う。生徒と教師とで罰則を分け合うことで、少しでも藪瀬先輩たちへの処分を軽くしてほしいと頼み込む田沼先生が頭を下げる。
「身勝手なお願いだということはわかっています。ですが、どうか……お願いします!」
「せ、先生……!?」
今回の一件、確かに監督不行き届きという責任は先生にあるのかもしれない。しかし、責任の大半は活動停止処分を受けていながら勝手な行動を取った藪瀬先輩や紫村にあるはずだ。
それなのに、自分たちのために必死になって頭を下げる先生の姿に、藪瀬先輩たちも驚きに満ちた表情を浮かべている。
そうやって田沼先生が頭を下げ続ける中、押し黙っていた校長先生は目を閉じて暫し考え込むと、ため息を吐いた後でこう述べた。
「……わかりました。廃部という処分に関しては再審査しましょう」