ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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廃部は撤回、されど許されたわけではなく

 その言葉に、田沼先生だけでなく楽人や藪瀬先輩たちが息を吹き返したことがわかった。

 安堵とも歓喜とも違う、何か複雑だが間違いなく正の感情を抱いたであろう彼らが死んだ表情から復活する中、再度頭を下げた田沼先生が校長先生へと感謝を述べる。

 

「校長先生……! ありがとうございます!」

 

「安心するのはまだ早いですよ、田沼先生。これは藪瀬くんたちへの温情ではなく、何の罪もない他のバスケ部員たちへの配慮です。今回問題を起こした生徒たちの罪が許されたわけでも、軽くなったわけでもないということを忘れないでください」

 

 校長先生の厳しい言葉に、少し緩みかけていた空気がまた緊張で締まる。

 一瞬でも許されたと思いかけたことを恥じたのか、藪瀬先輩たちの顔は耳まで赤く染まっていた。

 そんな藪瀬先輩たちへと再度視線を向けた校長先生は、厳格な雰囲気のまま、言う。

 

「仮に廃部処分を撤回することになったとしても、君たちに課された罰則は変わりません。停学処分はもちろんですが、今後、君たちの在学中にバスケ部が活動を再開したとしても、君たちが再度所属することを固く禁じます」

 

「え……?」

 

「今回、問題を起こした生徒たちとバスケ部を完全に切り離す。同時に、君たちには学校側が設定した更生プログラムに参加してもらいます。もし君たちがプログラムに不真面目な態度で臨んだり、また新たに問題を起こした場合は、退学という処分を取ります。それが、我々が出す条件です」

 

「………」

 

 それはある意味、廃部よりも厳しい処分かもしれない。

 今後、藪瀬先輩や他の仲間たちは、バスケ部が復活してもその輪に加わることはできない……他の二つの条件は当然といえば当然のものだからそこまで重いとは感じないが、その一つはとても苦しいはずだ。

 

 それに、罰というのは学校側から課されるものだけではない。周囲から向けられる白い目に耐えなければいけないというのもそうだ。

 クレーマーメイド事件から始まり、バスケ部の活動停止処分に続いて大会でも問題行動を取ったとくれば、藪瀬先輩たちがクラスでどんな目で見られているのかも想像がつく。

 その視線に、周囲からの評価に、あと一年は耐え続けなければならないというのは、思春期の人間には酷な話だと思う。

 

 でも、バスケ部を守るためにはそれしかない。藪瀬先輩たちが正しく責任を取るためには、この条件全てを飲むしかないのだ。

 

(紫村もこのペナルティを受けるべきだと思うけど、ここであいつの話を出して廃部撤回をまた撤回されても困るしな……今は黙っておこう)

 

 紫村がバスケ部に戻ってくるつもりだとは思えないが、停学と更生プログラムへの参加という罰は彼女にも下されるべきだと思った。

 しかし、ここで状況をさらにややこしくすれば、折角の校長先生の温情が撤回されてしまうかもしれないと判断した僕は、敢えて口を噤んで成り行きを見守る。

 

「……それで構いません。後輩や仲間たちに温情をかけてくださり、本当にありがとうございます」

 

 藪瀬先輩も自分たちの罪を認め、バスケ部を守るためにその条件を飲むことにしたようだ。

 立ち上がり、次々に頭を下げる先輩たちへと、校長先生が言う。

 

「感謝を示すのならば、正しく更生した姿を見せてください。それに何より、私よりも君たちと共に責任を取ると言った田沼先生に感謝すべきです」

 

 校長先生に言われ、反転した先輩たちがこちらを……田沼先生を見る。

 先生は、静かに首を振った後で何度も頷きながらこう言った。

 

「お前たちが本当に反省しているのなら、言葉じゃなくて行動で示してほしい。校長先生が仰った通り、これからの活動で更生した姿を見せられるよう、全力を尽くしてくれ……頼んだぞ」

 

「はい……っ!」

 

 ……これが百パーセント正しかったのかどうかは、僕にはわからない。

 ただ、楽人や一緒に大会に参加したみんなにとっては、首の皮一枚繋がったと言える良いニュースだろう。

 あとはもう、藪瀬先輩たちがこれ以上の問題を起こさず、先生たちが言ったように真面目に更生のために努めてくれることを信じるしかない。

 

「……では、一旦話し合いは終わりとします。藪瀬くんたちには処分について詳しく話すためにまた呼び出しをさせていただきますので、そのつもりでいてください。もちろん、ご家族にも連絡させていただきますからね。ああ、それと――」

 

 これで話はおしまい……そう思った僕が緊張から解放されて軽く息を吐く。

 しかし、何かを言いかけた校長先生は先輩たちでも田沼先生でもなく、僕へと声をかけてきたではないか。

 

「尾上くん、この後少しよろしいでしょうか?」

 

「えっ? ぼ、僕ですか?」

 

 なんで僕が……? と、個人的に呼び出されるようなことはしていないはずだよなと慌てる僕へと、校長先生が宥めるような声で言う。

 

「安心してください、何か注意をするとかではありませんから。君のその目の怪我については、君のご家族と俵山くんのご家族とで話し合いが必要でしょう。我々も間に入るべきだと考えていますから、話し合いの日時について少しご相談させてください」

 

「あ、ああ、なるほど……」

 

 その話を聞けて、少しだけほっとした。

 だけど同時にまた別の緊張が込み上げてくる。

 

 視線を校長先生から外し、今、名前が出たばかりの俵山くんの方を見れば、僕からの視線に耐えられなくなったのか彼は俯いてしまう。

 ただ、その寸前……か細い声で「ごめん」という小さな声が聞こえたような気がした。

 

 

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