ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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もう少しで君と過ごす冬休みがやってくる

「行ってきま~す」

 

「行ってらっしゃ~い! ひよりちゃんも、気を付けてね~!」

 

「は~い! ありがとうございます!」

 

 朝、慌ただしく出掛ける支度をしている母に挨拶をしてから、迎えに来てくれたひよりさんと一緒に家を出る。

 

 普段は僕が迎えに行く側だが、目を怪我してからは立場が逆転していた。

 睦美さんも「ひよりが寝坊しなくなって助かってるわ~」なんて言ってくれているし、僕も申し訳なく思いながらも毎朝彼女が迎えに来るというシチュエーションに喜びを感じてもいた。

 

「雄介くん、車道側歩かなくていいよ? そっち側見えないから、危ないでしょ?」

 

「大丈夫だよ。そこまで気にしなくてもさ」

 

 ひよりさんは普段から優しいが、僕が怪我をしてからは一層気を遣ってくれている気がする。

 今も車道側の道を歩く僕にそんなことを言ってくれているし、やっぱり優しいなと思いながら僕は彼女へと言う。

 

「左側の視界が塞がってるのにも慣れてきたし、そこまで不便ってわけじゃないからさ。気遣いはありがたく受け取らせてもらうけど、心配しないでよ」

 

「む~……まあ、雄介くんがそう言うなら、信じるとしますかね!」

 

 一瞬、考える素振りを見せたひよりさんであったが、すぐに笑顔を浮かべながらそう言ってくれた。

 気を遣ってくれながらも遣い過ぎはしない。そういうバランスを取ってくれるところもありがたいなと思いながら、僕は前を見る。

 

(初めの頃みたいな違和感はなくなったな。まあ、不便ではあるけどさ)

 

 人間、時間が経てば大概のことには慣れる。

 普段よりも狭くなった視界にも、十二月の肌寒い朝の空気にも、大切な人と歩いている時に車道側の道を歩くことにも、随分と慣れたものだなと思う。

 

「ふふ……っ! やっぱ寒いね。息、真っ白だ」

 

 そういう慣れを感じながら、冷たい空気を肺一杯に吸い込んで吐き出した僕へと、くすくすと笑ったひよりさんが言った。

 その言葉を受けた僕が改めて息を吐けば、視界の片隅に白いもやが映る。

 

「冬真っ盛りって感じだね、本当に」

 

「だね! あたしの息もこんなに真っ白!」

 

 そう言って、ひよりさんがは~っと息を吐けば、僕のと同じくらいに白いもやがゆらゆらと揺れた。

 張り合うように思いっきり息を吐く彼女の姿がなんだかおかしくて、ついつい笑ってしまった僕を見たひよりさんがにやっと笑う。

 

「いや~、やっぱり冬は寒いな~! 朝だから寒くて寒くて仕方ないよ~! ほら! 手もこんなにひえっひえ!」

 

「ん? ふふっ……! はいはい、わかりましたよ」

 

 そう言いながら差し出された小さな手を、包み込むように握る。

 ひよりさんの指に自分の指を絡めるようにしながら手を握れば、ひんやりとした冷たい感触と共に彼女の満足気な雰囲気が伝わってきた。

 

「うん! これでよし! 雄介くんの手も冷たいね!」

 

「そりゃあ、冬だからね。寒さ対策に手袋とか着けようかな?」

 

「え~っ!? そんなことしたら、あたしと手、繋げなくない? 雄介くんはそれでもいいの!?」

 

「う~ん……良くないかも」

 

「でしょ? じゃあ、多少の寒さは我慢しようね!」

 

 致し方ない、と苦笑しながら僕が答えれば、ひよりさんは楽しそうに笑いながらそう言ってくれた。

 体調を最優先にしたい気持ちはあるが、冷たくなった手を温めるという理由でこうして手を繋げるのならばそれでもいいかと思いつつ、僕は思う。

 

(こうして手を繋ぐことにも慣れたな……最初はあんなに緊張してたのに、我ながらすごい変化だ)

 

 デートに行って、手を繋いで、あ~んもハグも膝枕もしてもらって、我が家に当たり前に泊まるようになって……この数か月を振り返ると、本当に色んなことを一緒に経験してきたんだなと思える。

 少しずつ、僕たちは恋人として歩き続けてきた。こうして手を繋ぎ、お互いを想い合いながら歩んできた日々は、かけがえのない大切な思い出だ。

 

(目の怪我がなかったら、きっと……)

 

 もう少しでクリスマス。恋人たちにとって特別な意味を持つ日がやってくる。

 この左目の怪我がなければきっと、その日に僕たちはまた新たな一歩を踏み出していたのかもしれない。

 

 実際にその場面に直面して、そう思えるかは別だが……そういうことをしても問題ないと思えるほどの積み重ねはあると、そう自負している。

 怪我のせいでそういう機会を無為にしてしまったことをどう思うべきかはわからないが、同時に焦る必要もないとも思っていた。

 

 これから先も僕たちは一緒に歩いていく。学校に続くこの道を歩く日はいつか来なくなるだろうが、その時には別の道を一緒に歩いているはずだ。

 だから、焦る必要も必要以上に無念に思う必要もない。

 きっと……お互いが納得のいく形で、その日を迎えることができるだろうから。

 

「どうしたの、雄介くん? 何か考え事?」

 

「いや……こうして手を繋ぐのにも慣れたなって、そう思ってさ」

 

「確かに! じゃあそろそろ、尻フェチ扱いにも慣れてくれてもいいんじゃないかな!?」

 

「それは却下。そもそも僕、尻フェチじゃないからね?」

 

「え~っ!? でも雄介くん、あたしのお尻は好きでしょ?」

 

「いや、それはひよりさんのだからであって、お尻が好きというわけじゃない……待って、なんか段々とおかしな方向に洗脳されてる気がするんだけど?」

 

「気のせい、気のせい! 雄介くんの本音が徐々に表に出てきてるだけだよ!」

 

「絶対に違う! 違うから!」

 

 慣れるものもあれば、慣れないものもある。というより、慣れちゃいけないものもこの世には存在しているのだ。

 この尻フェチいじりには慣れちゃいけないと思いつつも、これを認める時はいよいよ年貢の納め時だなとちらっと思ってしまった僕は、楽しそうに笑うひよりさんを見ながら、学校に続く道を歩き続けるのであった。

 

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