ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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短編・とある父親の苦悩
七瀬吾郎という父親の苦悩


「ひより、明日なんだけど、お母さんもお父さんも仕事で遅くなるから――」

 

「おっけ~! 雄介くんちにお邪魔させてもらえるか聞いておくね! 明後日お休みだし、そのまま泊まっちゃってもいい?」

 

「あちらのご家族がご迷惑じゃなければ、私たちは構わないわよ」

 

「や~りぃ! じゃあ、早速聞いてみよっと!」

 

 木曜日の夜、妻と娘の会話を聞きながら、私は味噌汁をすすっていた。

 口を挟まないようにしているのだが、心の中ではやはり少しツッコミめいたことを考えてしまう。

 

(普通に考えて、すごい会話してるな……ご近所さんとはいえ、そんなほいほい彼氏の家に泊まることを許可していいのか……?)

 

 尾上雄介くん。娘、ひよりと交際している高校一年生の男子。

 私も何度か話したことがあるが、非常に誠実で心優しく、娘のことを第一に考えてくれる素晴らしい男の子だと思う。

 

 二人が付き合うことになった経緯やそこから続く数々のトラブルを解決する際に尽力してくれたこともあって、私も妻も雄介くんとその家族には強い信頼を寄せている。

 ……そう、信頼はしている。だがしかし、やっぱり娘を持つ父親としては色々と不安になることも多かった。

 

 我が娘ひよりはかなりのお転婆。繊細なところもあるが大胆な行動を繰り返すし、雄介くんと付き合ってからは積極的な態度を多々見せているようだ。

 親の贔屓を抜きにしてもひよりは抜群にかわいい女の子だし、(父親としてこう言うのは気持ち悪いと思うのだが)胸も大きい。

 

 そんな娘が距離感近めに接しているというのに、雄介くんは鋼の理性を持っているのか、そういう行為に手を染めてはいないようだった。

 本当にすごい。妻から色々と話を聞かせてもらっているが、同じ男としてそこに関しては心の底からの賛辞を送りたくなるし、そういう青年だからこそひよりも惚れ込んでいるのだろうと思う。

 

 優しいだけでなく場の空気に流されない理性を併せ持ち、色んな意味で娘を大切にしてくれる好青年……娘の恋人としては間違いなく最高ランクだと断言できる。

 こう言うのは何だが、あのまま仁秀くんと付き合い続けなくって本当に良かった。もっと後、例えば結婚した後で彼が浮気をしたりなんかしたら、それこそ取り返しのつかないことになっていただろう。

 

 という話はさておき、改めて雄介くんが娘の恋人になってくれて良かったと認識できたまではいいのだが……それはそれとして、私にも悩んでいることはある。

 ちらり、とカレンダーを確認した私は、十二月という大きく書かれた文字を見て、心臓がギュッと縮こまるのを感じた。

 

(十二月……クリスマス……恋人たちが騒がしくなる夜……!!)

 

 こういうことを考えるのはおせっかいだし、良くないとは思う。

 しかし、やっぱり親としては我が子……特に娘の()()()()()ことに関しては、色々と思うことがある。

 

 順調にお付き合いを重ね、関係を深めていけば、当然ながらそういう話にもなるだろう。

 クリスマスなんて絶好の機会だし、恋人同士という関係の男女からしてみれば特別な日として意識することも間違いない。

 

 わかっている、こんなことを考えるのは良くないということは。

 だがしかし……どうしたって頭の片隅に浮かび上がってしまうものがある。

 

 もしも娘がクリスマスの日に出かけ、帰ってこなかったら……雄介くんとのデートが長引いていたら……親として、どんな反応をすればいい?

 無反応で何事もなかったかのように過ごすのがベターなのだろうが、多分私は激しく動揺する。無理だ、普通に。平静を保てる自信がない。

 かといって怒る理由なんて微塵もないし、ヒステリックになるのも父親として情けないことこの上ないだろう。

 

 どっしりと構え、平然としているのがあるべき姿だというのはわかっているが……()()()の到来がどうしても恐ろしく感じてしまう。

 

(あんなに小さかったひよりがなぁ……これが、我が子の成長というものか……)

 

 赤子の頃から愛情を惜しまずに育て、その成長を見守ってきた娘が、高校生になって恋人まで作った。

 私が知らなかっただけで幼馴染だった仁秀くんとも付き合っていたわけだし、ひよりは私が想像している以上に大人として成長していたということなのだろう。

 

 もう娘も小さかった赤子ではない。自分の足で立ち、歩いていける大人になりつつある。

 小さなあの手を握り、隣を歩くのは、親である私ではなく恋人である雄介くんの役目になりつつあるのだと……そうは思いながらも、やはり気分は上がらない。

 

 クリスマス、ああクリスマス……こんなにも憂鬱な気分で迎える聖夜が未だかつてあっただろうか?

 これが娘を持つ父親の苦悩かと、そう思いながら私も出勤の支度を整える。

 

(不安だ……私は十二月二十五日以降、平静を保てるだろうか……?)

 

 目下最大の不安を抱えながら車に乗り込んだ私は、大きなため息を吐きながら職場へと向かうのであった。

 

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