ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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娘の成長について、妻と語り合おう

「おかえりなさい、あなた。今日もお疲れ様」

 

「そっちこそ、お疲れ様。ひよりはどうしてる?」

 

「もうとっくに帰ってきて、寝るところよ。まだ雄介くんとお話してるかもしれないけどね」

 

 その日の夜、仕事を終えて帰ってきた私は、一足先に帰宅していたであろう妻の睦美とそんな会話を繰り広げていた。

 今日も雄介くんのお宅にお邪魔したであろう娘のことを思いながら、妻と話を続けていく。

 

「尾上さんたちには本当にお世話になっているな……ひよりもほぼ毎日のようにお邪魔しているようだし、食費としていくらか包んで渡した方がいいんじゃないか?」

 

「私もそう考えて、真理恵さんに提案したんだけどね。私たちも楽しんでるし、そんな気を遣わないでくださいって言われちゃって……」

 

「そうだとしても、お世話になりっぱなしっていうのは申し訳ないだろう。真理恵さんもしっかりした方だし、話せばわかってくれるはずだ。近々、時間を取って話し合いをしようじゃないか」

 

「そうね……でも、私たちとあちらのお宅の都合が合う日ってなかなかないのよね……」

 

 ひよりが尾上さんのお家にお世話になっている理由であり、諸々の元凶である共働きという部分が問題だと、妻の言わんとしていることを理解した私は頷く。

 妻も私も、職場では相応の地位に就いている身だ。休日出勤も当たり前にあるし、こうして家に帰ってくる時間もかなり遅い。

 

 ひよりが小さな頃は気を遣っていたが、成長してからは娘を一人で家に残すことも多くなっていたと思う。

 我ながら、よくもまあ真っすぐに育ってくれたと……尾上家と比べて希薄に思える我が家の親子の思い出や繋がりを振り返りながらため息を吐いた私へと、妻がこう言ってきた。

 

「あなた、最近ため息が増えたわね。何か悩み事?」

 

「ああ、いや……仕事で少し、な……」

 

 まさか、娘とその恋人の関係の発展が順調過ぎることに悩んでいるだなんて言えない私は適当にごまかそうとしたのだが、長く連れ添った妻にはそんな私の嘘など通用しなかったようだ。

 目を細めた彼女は、少し圧を含ませた声で私へと言う。

 

「そうじゃないでしょう? 最近、ひよりのことをすごく気にしてるし、あの子のことで何か悩んでるんじゃないの?」

 

「あ、ああ……」

 

 鋭い妻の言葉に、隠し事はできないなと苦笑した私は観念し、本当のことを話した。

 何とも情けないことだと思いながら胸の内を吐露した私へと、少し悩んだ後で妻が言う。

 

「まあ、わからなくはないけどね。私たちもそういう時期があって今があるんだから、受け入れなきゃいけないでしょう?」

 

「もちろん、そのつもりさ。ただやっぱり、言葉にし難いモヤモヤ感があってなぁ……」

 

 何度も言うが、雄介くんのことを認めていないわけではない。むしろ娘の恋人としては最高以外の何者でもない青年だと思っている。

 真面目で誠実な人柄に加え、礼儀正しさも面倒見の良さも兼ね備えている上に娘を何より大切にしてくれる、超が何個付いても足りないくらいの優良物件だ。

 加えて、尾上さん一家も娘に良くしてくれているし、家族全体で見ても最高以外の言葉が出てこない。

 

(駅から徒歩五分。敷金礼金無料。商業施設、公園、学校、病院も周辺に有り。治安も日当たりもいい上にトイレ風呂家具冷暖房完備の格安新築物件レベルだな……)

 

 なんだかもう、逆に申し訳なくなるレベルですごい気がする。普通に不動産屋に入居者募集の張り紙があったら、希望者が続出するだろう。

 唯一のネックとなり得るのは長男という部分くらいのものだが、ひより自身が彼の母との関係が良好な時点であってないようなものだ。

 

 それに加えて、仕事で多忙な私たち夫婦に代わって、ひよりに家族の団欒を味わわせてくれている。

 ストーカー問題をはじめとした数々のトラブルに見舞われた際にも娘を守るために頑張ってくれたし、文句の付け所がないどころかいくら感謝してもし足りないくらいだ。

 

 そんな雄介くんが相手でもこんなことを考えてしまうのだから、私は相当に心が狭い父親なのだろう。

 贅沢を言うなと妻にも叱られてしまいそうだなと思ったのだが、睦美はそんな私の心境に理解を示してくれた。

 

「寂しいものよね、娘の成長を実感するのって……嬉しいことでもあるけど、どんどん私たちの手から離れていくんだもの。まだ子供だと思ってたのに恋人まで作って、毎日楽しそうにしちゃって……いいことなのに、少しだけ寂しくなっちゃうのよね」

 

「……私たちの親も、こんな気持ちだったのかな? あれから十年以上経って、ようやく理解できるようになったということか」

 

 

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