ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「そうね。懐かしいし、こんな気持ちにさせてたんだって理解しちゃうと、申し訳なくなっちゃうわね」
くすくすと笑いながらの妻の言葉に、私も小さく笑みを浮かべてしまった。
私たちの方はひよりと雄介くんのような大恋愛というわけではないが、二人と同じように恋人として関係を紡ぎ、こうして夫婦になるまで歩き続けてきたという自負がある。
二十年ほど前に出会い、数年のお付き合いを経ての結婚……妻の両親への挨拶の時には、とても緊張したものだ。
そのことを振り返ると同時に、私は渋い表情を浮かべながら言う。
「そうか、既に雄介くんは私たちに挨拶をしてるんだな……」
「結婚の挨拶は別でしょうけど、両家顔合わせに近いこともやっちゃったわね。なんだか、あわあわしてた昔の私たちとはスピード感が違うって感じがするわ」
交際の挨拶はまあ別として、ストーカー関連の話の際に私たちと顔を合わせてから普通に良好な関係を作り上げるくらいにはなっているし、母親の真理恵さんや弟くんたちとも既に家族ぐるみで食事をしたという実績ができている。
これが半年程度の期間で達成されていることに気付き、改めて驚く……というよりも若干引くレベルで関係が進展していることに気付いてしまった私は、冷や汗を流しながら妻へと言った。
「本当に、とんでもないスピード感だな……今の若い子たちはみんなこうなのか……?」
「いや、間違いなくあの子たちが特殊だと思うわよ……? 付き合う経緯から特殊だったし……」
我が娘ながらちょっと怖くなってきた。平然と彼氏の家に泊まりに行くひよりもひよりだが、それを受け止めてしまっている雄介くんも割と異常な気がする。
この感じでクリスマスに突入したら……と若干怯える中、私と似たようなことを思ったであろう妻が強引に話題を切り替えてきた。
「そ、そう言えば、今年のクリスマスは休みがもらえたのよね! あなたはどう?」
「えっ? 珍しいな、お前がこの時期に休みをもらえるなんて……!」
「クリスマスイブは一日中動きっぱなしになるだろうから、その代わりみたいね。喜ぶべきかわからないけど、悪いことじゃないでしょう?」
普段から忙しい妻だが、何かしらのイベントがあると仕事がさらに忙しくなる。
そんな彼女がクリスマスに休みが取れたことに驚いた私は、脳内で自分のスケジュールを確認してから質問に答えた。
「頑張れば早めに帰れそうではあるが……ひよりが喜ぶかなぁ……?」
「ひよりが? どうして?」
「いや、だってクリスマスだぞ? 恋人と二人で過ごしたいと思うんじゃないか? 私たちもそうだっただろう?」
実体験だからこそ共感してもらえるであろう意見を妻に伝える。
クリスマスイブは二人で夜遅くまで過ごし、翌日も一緒に過ごす……という聖なる夜の鉄板デートプランは、いつの時代も変わらないはずだ。
ひよりと雄介くんも同じようなことを考えているだろうし、そんな状況で親がクリスマスの日に家にいるとなったら、気軽にお泊りもできないのでは……? と考える私であったが、妻が驚いた様子でこう言ってきた。
「あら? 私もひよりもあなたに言ってなかったかしら?」
「ん? 言ってないって、何をだ?」
「今年のクリスマス、ひよりと雄介くんは出掛けるつもりはないみたいよ。お家デートする予定だって」
「えっ!? な、なんで!?」
「なんでって、雄介くんが目を怪我したことは流石に知ってるでしょう? 片目が塞がった状態でデートするのは負担になるだろうし、危ないから、外出は避けようって話になったのよ」
「そ、そうだったのか……!!」
そういえば、確かにそんな話を聞いたような気がする。
怪我をした雄介くんには悪いが、妻から二人のクリスマスの予定を聞けて安堵してしまった。
「お家デートってことは、尾上さんの家にお邪魔するのか? あちらのご家族のご予定は……?」
「真理恵さんも弟くんたちもお休みだって。流石に一家そろって口裏を合わせて、ひよりたちを二人きりにするようなことはしてないと思うわよ?」
確かに真理恵さんたちならそんな嘘を吐くことはなさそうだ。
ということは、本当に二人はクリスマスに一線を超える予定はないらしい。
抱えていた悩みが一気に解決してしまったことに安心すると同時に脱力した私が奇妙な感覚に変な笑い声を漏らす中、妻が言う。
「まあ、あなたの気持ちはわかるけど、ひよりの前で変なことは言わないようにしてね? あの子、結構残念がってたし……」
「あ、ああ。わかっているさ。それにしてもそうか、クリスマスは両家の全員の予定が空いているのか……」
私にとっては吉報でも、ひよりたちにとっては悪いニュースだ。二人の気持ちを考えずに喜んでしまっては、それこそ父親失格だろう。
というわけで、それはそれとしてという感じで解決した問題をどこか遠くへ蹴っ飛ばした後、あることを思い付いた私は早速それを妻に相談し、案を練っていくのであった。