ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「料理はどうしようか? やっぱり、鶏の丸焼きがクリスマスらしくていいかな?」
「でも、切り分けたりするの大変そうじゃない? 人数も多いから、用意するのも大変そうだし……」
「オードブルを買ってくるのが無難とはいえ、あまりにも露骨だと尾上さんたちも反応に困るだろうしな……」
「そんな真剣過ぎると逆に良くなくない? ホスト側がそんなだと、雄介くんたちも緊張しちゃうでしょ?」
ある日の夜、お風呂から上がったあたしがリビングに戻れば、そんな話をしている両親の姿が目に映った。
まだ時間はあるはずだが、かなり真剣にクリスマスパーティーについて話をしている二人へと声をかければ、こちらを見た両親が難しい顔でこう言ってくる。
「それもそうだが、こういうのはなかなか難しいんだよ。塩梅というか、なんというかだなぁ……」
「ひよりの言う通り、気合いを入れ過ぎると尾上さんたちが緊張しちゃうっていうのもわかるのよ。でも、だからといってこちらから誘ったっていうのに、気の抜けたおもてなしはできないでしょう?」
「そんな気張らなくても自然体でいいと思うけどな~……雄介くんやおか……真理恵さんなら、そう言ってくれると思うけど」
危うく、両親の前でお義母さん呼びをしそうになったあたしが上手いこと軌道修正をしながら応える。
色々と悩んでいるおかげであたしの失態に気付かないでくれた両親もまた、その意見を受けた上でこう述べてきた。
「だがなあ、自然体だからってこっちが平凡過ぎる料理なんて出したら、尾上さんたちを軽んじてるような感じになってしまうだろう? それだけは絶対にマズい」
「こういうことって初めてだから、やっぱり難しいわね……娘の彼氏とそのご家族をどうもてなせばいいのかしら?」
子供の頃、江間家と合同でクリスマスパーティーをしたこともあったが、そんなの幼稚園とか小学生の頃の話だ。
確かに高校生になり、娘の恋人という関係の男の子とその家族を招待してのパーティーなんて特殊も特殊だなと考えるあたしの前で、両親はさらに混迷しながら話を続けていく。
「ただ食べるだけじゃなく、おしゃべりもするでしょうし……冷めたら美味しくなくなる料理とかは避けた方がいいわよね……?」
「やっぱり寿司か!? こういう時は寿司がいいのか!?」
「いや、それだと完全に結婚のご挨拶じゃん。別にあたしはいいけど、クリスマスパーティー感は薄くなってない?」
段々と話が大袈裟になっていく両親に待ったをかけつつ、軌道修正を図る。
この緊張感は完全に娘の結婚を目前にした親のそれだなと考えながら、あたしは二人へと言った。
「クリスマスパーティーにぴったりで、そこそこ豪華な感じで、取り分けるのが簡単なメインディッシュでしょ? だったらローストビーフとかどう?」
「ローストビーフ……! 確かに立派だし、クリスマスにぴったりじゃないか!」
「鶏の丸焼きと違って冷める心配もないしね。余ったらお土産として持ち帰ってもらってもいいし、多めに用意しても大丈夫そうなのもいいと思うわ」
昔の記憶を引っ張り出し、クリスマスで家族で一緒に食べたローストビーフを提案すれば、お父さんもお母さんも笑顔で賛成してくれた。
これで両親の悩みの種が解決できたなと喜びながら部屋に戻ろうとしたあたしであったが、そこでまた両親が相談をし始める。
「よし、メインディッシュは決まった! 次はオードブルだな!」
「もう一つのメインであるケーキもどうするか決めないとね! それとお酒も!」
「真理恵さん、お酒は何が好きなんだろうな……? クリスマスだし、赤と白のワインを用意しておけば大丈夫か……?」
「子供たち用の飲み物も必要よね? ノンアルコールのシャンパンとか?」
「う、う~ん……?」
どうやらメインディッシュが決まっても、他にも頭を悩ませることはたくさんあるようだ。
ここまで気合いを入れている両親を見るのは珍しい。というより、初めて見るかもしれない。
(そんなに大事なことなのかな? 娘の彼氏を家に迎えるのって……?)
ほぼ毎日のように雄介くんの家に通っている身からすると大袈裟に思えるが、あれが世間一般の親の反応というやつなのかもしれない。
そういう部分を飛び越えて、平然とお泊りするようになっているあたしの方がおかしいのかと認識を改めながら、また会議が煮詰まったら助け船を出そうと、あたしは両親の話を静観しつつ、二人を見守る選択をするのであった。