ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
――大体の物事において、勢いで押し切るというのは大事だ。割と上手くいくし、場合によっては完全にこちらのペースに持ち込める。
実際、膝枕を要求されたひよりさんはそこそこの回数経験したはずのこの行為を恥ずかしがっているようで、普段とは違った雰囲気を見せていた。
「う~……なんかちょっと恥ずかしいんだけど……?」
「何回かやったことあるでしょ? ひよりさんから言い出したことが大半だし、その時は気にしてなかったじゃない」
「それはそうなんだけどさぁ……! 今日は勝手が違うっていうか、なんていうか……」
ころんと彼女の膝の上に頭を乗せて寝転がった僕は、心地良い寝心地とひよりさんの反応を堪能しながら彼女と会話する。
例にもよって巨大山脈に遮られているせいでひよりさんの表情は伺えないが、声の感じからして多少なりとも赤くなっていることはわかった。
(にしても、ここまで落ち着いて膝枕してもらうのは初めてだな……)
今まではひよりさんの脚の感触だったり、見上げたすぐそこにある大きな山々の光景だったりに心を乱されて落ち着く暇なんてなかったが、こちらがペースを握っている今は普段とは違う。
柔らかく心地良い太腿の感触だとか、ひよりさんの反応を落ち着いた状態で感じることができる僕は、反撃中ということも忘れてこの幸せを噛み締めていた。
「本当、ひよりさんは優しいよね。恥ずかしがってるのにこうして僕の要望に応えてくれるんだからさ」
「それは……あたしだって雄介くんのこと触っちゃったし、こっちだけ断るのはズルいじゃん?」
「ふふふ……っ! 律儀だね。でも、そのおかげでこうしてゆったりできるし……なんだか眠くなってきちゃったかも」
「……いいよ、寝ちゃっても。あたしもなんだかんだ、幸せだしさ」
(多分口に出したら怒られるので黙っておくが)ひよりさんの脚は肉付きが良く、改めて枕として使わせてもらうとその柔らかさのおかげで寝心地はかなり良い。
そこから優しく頭を撫でられたりすると眠気が込み上げてくるわけで……このまま目を閉じれば夢の世界に旅立ってしまえそうだ。
だがしかし、今回は反撃のためにこうしているわけだから、眠るわけにはいかない。
あともう少しだけ前回の屈辱を晴らすべく、僕は頭を撫でてくれるひよりさんへと言った。
「そういえば、一つ気になってることがあるんだけどさ……ひよりさん、どうして七日には何もしなかったの?」
「えっ……? あ、あ~……? ど、どういう意味かな~? あたし、よくわかんないな~!」
「十一月七日はいいおなかの日でしょ? そこをスキップするなんて、どうしちゃったのかな~って思ってさ」
「ううっ……! それは、そのぉ……」
十一月四日はいいお尻の日、十一月八日はいいおっぱいの日、ひよりさんが僕にからかいを仕掛けてきたこの二つの日の間にある十一月七日は、いいおなかの日として知られていることを軽くいい○○の日について調べた時に知った。
ひよりさんがこの日をスルーしたことを知った僕は、同時にその理由も察していたのだが……敢えてそのことは言わず、彼女へと尋ねる。
「結構、お腹をアピールしたコスプレもあると思うんだけどね。へそ出しの衣装とか、かわいくて普段とは違う雰囲気もあって、見てみたいって思ったしさ。そういうことにひよりさんが気付かないわけがないから、敢えてスルーしたと思うんだけど、違う?」
「いや、まあ、その、ねえ……?」
「お腹が冷えるからとかじゃないだろうし、コスプレ衣装が見つからなかったとかでもない気がする。となると、ひよりさんが七日に何もしなかった理由は……お腹を見せたくなかったからじゃないかな?」
「うぐぅ……っ!!」
察していた理由はドンピシャだったようだ。お腹を見せたくなかったという僕の言葉に肥えにならない呻きを漏らしたひよりさんががっくりと脱力したのがわかる。
ただ、これ以上の反撃は彼女を傷付けるだけだし、そもそも僕にはひよりさんに対して嘘を吐けるはずもないわけで……ここからは素直に思っていることを言うことにした。
「やっぱりな。ひよりさんは気にし過ぎなんだよ。別に太ってもないし、最近はマネージャーとして動いてくれてるから運動不足ってわけでもないでしょ?」
「そうかもしれないけど、やっぱぷにってるって思われたらショックだしさぁ……!」
「前にも言ったでしょ? 女の子はちょっとふっくらしてるくらいがちょうどいいんだって。そもそも僕はどんなひよりさんだってかわいいと思ってるから、不健康にならないくらいの体重増加なら気にしたりなんかしません」
実際、ひよりさんは大食いだが太っているわけではない。古い言い方をすると、ボンキュッボンというやつなのだと思う。
胸とお尻が大きいせいで体重もそれなりになってしまうだけで、むしろお腹がどうこうと心配し過ぎて痩せようとすると逆に不健康になってしまいそうで心配だ。
「本当に体重が気になったりしたら相談してよ。一緒にダイエットするからさ。でも、僕は今のひよりさんのお腹は十分いいおなかだと思うよ。自信持って、ひよりさんはすごくかわいいんだからさ」
「あぅ……あ、ありがとう……」
恥ずかしそうに呟いたひよりさんが、自分のお腹へと僕の頭を導く。
右耳が触れたお腹は柔らかいけどほっそりしていて……やっぱり気にし過ぎてるんだなと思った。
「全然気にするレベルじゃないよ。いいおなか、いいおなか」
「……♥」
むしろもう少し肉を付けてくれた方が安心だなとは思いつつも、そこは女の子の事情とかもあるだろうしと思い、黙っておいた。
僕の頭を撫でることを再開したひよりさんの小さな手の温もりと膝枕の心地良さを堪能しながら、反撃が成功したことにちょっといい気分になる。
彼女のお腹に触れている右耳がきゅんっ♥という音を拾ったような気がしたが、多分勘違いだろう。
とりあえず、前回の借りは返したぞと思いながら、僕はかわいい彼女とイチャイチャできるこの時間を楽しんでいくのであった。