ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「お兄様、お兄様。今日はお日柄も良く、なんかもうすごく良い日ですね」
「本当に素晴らしい日だとは思いませんか、お兄様? それはそれとして、今日は何の日だかわかります?」
「うわぁ……」
僕がひよりさんへの反撃を成功させてから、また数日が過ぎた。
学校やバスケの練習で慌ただしい日々を過ごしていた僕にとって久々のオフである日曜日を楽しんでいたところ、弟たちが奇妙な言葉使いで話しかけてきたではないか。
一目でわかる作り笑いを浮かべ、こちらのご機嫌を取るようなことを言ってくる雅人と大我の姿に、僕は薄気味悪さを抱いてしまう。
しかもまた今日は何の日かという質問かと、最近ひよりさんとよくしているやり取りを思い返しながらため息を吐いた僕は、カレンダーを見つめながらその質問に答えた。
「何の日って、勤労感謝の日だろ? カレンダーにも書いてあるじゃないか」
今日は十一月二十三日、勤労感謝の日……働いている人たちに感謝する祝日だ。
いまいちどう感謝すべきかはわからないが、とりあえず休みが増えるのは嬉しい。明日も振り替え休日だし、やっぱり祝日っていいよな~と思う僕であったが、弟たちはチッチッチッ、と舌を鳴らしながら首を振ってきた。
「違う、そうじゃない。リズムに乗せて歌いたくなるくらいそうじゃない」
「今日が十一月二十三日なのはわかってるんだろ~? もっと他にあるじゃんかよ、ほら!」
「ええ……?」
どこか強引に話を進めようとしてくる弟たちに若干引きつつ、正解を当てないと解放されないことを悟った僕が改めてカレンダーを見やる。
ここ最近ひよりさんとしているクイズに合わせて、十一月を『いい』と読むことにした僕は、続く二十三日の読み方をしばし考えた後、再度ため息を吐いた。
「……もしかして、いい兄さんの日ってことか?」
「イグザクトリー。正解でございます」
「というわけでいい兄さんの雄介! 今日の晩飯の当番、よろしくお願いしま~す!」
「おい、ふざけるな。何を体よく僕を利用しようとしてるんだよ。っていうか、だったらいい兄さんである僕を敬えって」
僕が正解を見つけた途端、弟たちが調子よくそんなことを言ってくる。
堪らずツッコミを入れる僕であったが、そこで二人に助け舟を出す助っ人が現れた。
「いやいや、ちょっと考えてみようよ、
「ゆう……お兄、ちゃん……?」
ちょっとスルーできない言葉が聞こえたような気がした僕が弟たちの背後に視線を向ければ、サッと退いた二人の間から髪をツインテール(普段と違うように見えた)に纏めたひよりさんが姿を現したではないか。
えっへんと胸を張った彼女は、僕を上目遣いで見つめながら口を開く。
「お兄ちゃんは最近、バスケばっかりで家のことをお義母さんや弟くんたちに任せっきりにしてたんだからさ、ここで少し恩返ししておくべきじゃないかな?」
「あの、ひよりさん? なんでお兄ちゃん? あと、髪型変えた?」
「うん! だって今日はいい兄さんの日だし、昨日はいいツインテールの日だったからね! 合わせ技でいってみました!」
昨日は本当に忙しかったから何もしなかったわけだが、そのせいで二日分のいい○○の日がまとめてやってくるとは思わなかった。
もしかしてひよりさん、昨日、若干放置気味になってしまったことを怒ってるのかな……? と嫌な予感を覚えた僕がごくりと息を飲む中、弟たちが言う。
「そうだそうだ~! 義姉さんの言う通りだぞ~! 俺たちに感謝して崇め奉れ~!」
「たまの休みくらい飯を作れ~! そういうふうに家事に非協力的な態度を取ってると、義姉さんに愛想尽かされるぞ~!」
「愛想は尽かさないけど家族は大事にした方がいいと思うな! というわけで今日は一緒にご飯作ろうよ、雄介お兄ちゃん!」
「ぐぬぅ……」
毎度のことだが、ひよりさんと弟たちが連携すると非常に厄介だ。どこからどう手を付けたらいいのかがわからなくなる。
っていうかひよりさんはただ一緒に料理したいだけだよな……? と彼女の胸中を察しつつ、それに関してはやぶさかではない僕も同意しようとしたのだが……その前に大事な取引をしておくことにした。
「……わかった。でもその代わり、ひよりさんに一つお願いがあるんだけど」
「おっ? なに?」
「そのお兄ちゃんっていうの、やめて。なんかこう、上手く言えないけど……いつも通りの方が嬉しい」
お兄ちゃん呼びされると距離を感じてしまうからなのだろうか? 少しドキッとした部分もあるが、僕としては普通に雄介くんと呼んでもらえた方が嬉しかったりする。
なので、夕食を作る代わりにお兄ちゃん呼びをやめてほしいとお願いすれば、ひよりさんは腕を組んだ後で大きく頷いてくれた。
「おっけ~! 雄介くんは妹萌えするタイプじゃない、と……! 貴重なデータが集まったよ!」
「うん。それは良かった……のかな……?」
嬉しそうに笑うひよりさんにそう答えつつ、首を傾げる。
そんな僕のことを見てにやにや笑う弟たちに目潰しで制裁を加えた後、僕は彼女と一緒に作る夕食のメニューを考えていくのであった。