ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「さて、今日の晩ご飯を何にするかだけど……」
「むっふっふ~! それならもう決まってるんだよね~! はい、これ!」
弟たちを軽くシバいた後、キッチンにて冷蔵庫の中身を確かめつつ夕食のメニューを考えていた僕は、不意にひよりさんからとあるものを見せつけられた。
彼女の手にはかなりお高めなお肉のパックが握られており、カルビやタンの他にもハラミや豚トロのような色んな種類の肉が用意されているではないか。
「それ、どうしたの!? なんでこんなにいっぱい……!?」
「そりゃあ、来週はいい肉の日だからね! 先取りだよ、先取り!」
何故だか来週の十一月二十九日、いい肉の日を出してきたひよりさんがえっへんと胸を張る。
お肉がいっぱいあるのは嬉しいが、どこからどうやってこの肉が用意されたのかがわからずに困惑する僕へと、彼女は今度こそ詳しく解説をしてくれた。
「いや~! 実は結構前にお父さんとお母さんが仕事関係のパーティーに参加したみたいでさ、そこでお肉券を貰ってきたんだよ! そのまますっかり忘れてたらしくて、気が付いたら利用期限間近でさ~……いっぺんにお肉を頼んだはいいけど、流石に食べきれない量になっちゃったから、是非ともおすそ分けとして受け取ってってことで、持ってきた!」
「そうなんだ……ありがたいけど、ちょっと豪華過ぎないかな……?」
このお肉たちは吾郎さんと睦美さんからのご厚意とのことだが、基本贅沢とは縁がない僕たちにとってはちょっと引くくらいにすごいものが並んでいる。
A5ランクだとか特選なんとか牛だとか、テレビの向こう側でしか見たことのないワードが並んでいると、喜びよりも緊張の方が前に出てしまう。
本当にいいのかな……? と思いつつも、ここまできたらありがたくご厚意に乗っかった方がいいだろうなと割り切ることに決めた僕へと、ひよりさんが言った。
「というわけで今日はこのお肉を使って焼肉パーティーをしようよ! あとは野菜を用意すれば完璧でしょ?」
「そうだね。吾郎さんと睦美さんに感謝して、ご馳走になろうか」
幸い、野菜ならば結構な量がある。ちょっと買い出しに行く必要もあるかもしれないが、ただ野菜をカットするだけで夕食の用意が終わるのなら楽でいい。
「もしかしてこのお肉があるから、雅人たちに悪乗りしたの?」
「う~ん、半分はそうかな? もう半分はいい肉の日が来週で、その日はバスケの練習が入ってるでしょ? だから当日には焼肉パーティーなんてできなさそうだったし、前倒しでやっちゃおうっていうノリ!」
確かにひよりさんの言う通り、二十九日には大会に備えての練習がある。
また遅くまでやることになるだろうし、銭湯に行く可能性もあるから、当日焼肉をするのは無理だろう。
「色々気を遣わせちゃってごめんね。あと、いつも本当にありがとう」
「気にしないでよ、あたしが好きでやってることだし、こうしてお義母さんたちと一緒に食卓を囲むのも好きだしさ」
お肉たちを冷蔵庫にしまいながら、ひよりさんが小さく笑みを浮かべて言う。
優しい彼女に巡り合えたことを喜びつつ、この幸せを噛み締める僕であったが……その気持ちをぶち壊す一言が響いた。
「でも、雄介くんにとっては残念だったかもね! こっちのお肉で片付けられちゃうわけだしさ!」
「こっちのお肉……? え? どういう意味?」
「ほら! ここにもいいお肉はあるでしょ!?」
と言いながら、ひよりさんが自分のお尻をぺんぺんと叩き、胸を持ち上げてみせる。
にへらと笑った彼女は太腿を撫でると、うんうんと頷きながら僕へと言った。
「一昨日の膝枕から察するに、雄介くんは程良く肉が付いてる女の子が好きみたいだしね。ちょっとむちっ♥ としてるあたしとか、美味しそうだと思うでしょ?」
「誤解だけど? そういう感情は抱いたことないんですけど?」
「なるほど、程良くむちっとしてる女の子が好きだって部分は否定しないと……そりゃあ、おっきなお尻が好きにもなるよね! 納得だ!」
「ぐっ……!」
先日の反撃か、普段よりも火力と過激さが高い発言をしてくるひよりさんのからかいに言葉が詰まる。
まあ実際、ガリガリの女の子よりも健康的な女の子の方が見ていて安心するし好みではあるから言い返せないところがある僕が口を閉ざす中、ひよりさんが言う。
「雄介くんは妹系はあまり好みじゃなくって、むちむちな子が好みと……! 割とあたし、好みに当て嵌まってるんじゃない!?」
「そりゃあね。でも、僕はひよりさんの明るいところとか、優しいところとか、他にもいっぱい、色んな好きなところがあって、君の全部が好きだから付き合ってるってことを忘れないでほしいな」
「わかってるよ! 見た目だけで好きになってもらったなんて思ってないから!」
ひよりさんはすごくかわいいし、僕の好みも間違ってないが、大事な部分だけは注意させてもらおう。
その言葉に嬉しそうに笑った後、ひよりさんは上機嫌にこう言ってきた。
「あたしも雄介くんの好きなところ、いっぱいあるよ。お互いに言い合ってみる?」
それはバカップルって家族に言われるやつじゃないかと思いながらも、それも悪くないかなとも思ってしまう僕がいた。