ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「美味しかった~! 本当、こんなに美味しいお肉をお腹いっぱい食べれて、本当に幸せだったよ」
「にししっ! 雄介くんたちが喜んでくれて嬉しいよ! これで大会に向けて、英気も養えたかな?」
「もちろん。ありがとうね、ひよりさん」
豪華な焼肉パーティーは大盛況の内に幕を閉じた。
こんな豪勢なパーティーは初めてだったし、大量のお肉を思う存分食べられたことに僕も家族も大満足だ。
パーティーの立役者であるひよりさんに感謝しつつ、彼女の言葉に奮起した僕は間近に迫った大会に向けて俄然やる気を漲らせる。
忙しいせいで最近はデートにも行けていないが、それでも献身的に僕を支えてくれるひよりさんに一層強い感謝を抱いていたのだが……そんな僕の耳に雅人の嘆きが聞こえてきた。
「ひ~ん! 肉は美味かったけど、どうして俺が一人で後片付けをしなくちゃいけないんだよ~!?」
「文句言ってないでキリキリ働け~! 働かざる者、食うべからずだぞ~!」
「もう食べた後だから微妙におかしいけどね~!」
焼肉で使ったホットプレートや食器類を一人で洗う雅人へと、大我と母がヤジを飛ばす。
文句を言い続ける雅人は、自らの不幸を呪いながらこう言葉を続けた。
「うぅ……どうして俺がこんな目に……? とってもアンラッキーマンじゃねえか……」
「美味しいお肉を食べられたんだからアンラッキーではないでしょ?」
「だとしてもなんで片付けを俺一人に押し付けるんだよ!? おかしいだろ!?」
「いや、だって今日はいい兄さんの日だろ? 俺にとっては雄介だけじゃなくってお前も兄なわけだし、雄介が飯の準備してくれたんだから、雅人もそれと同じくらいの仕事をしなくちゃ駄目じゃね?」
「畜生め! 三男の立場を利用する弟なんて大っ嫌いだ! バーカ!」
呪いの言葉を叫びながらもホットプレートを洗う雅人がギリギリと歯軋りをする。
自分も兄であることを忘れたツケが回ってきたなと僕が考えている間にも、台所からは怨嗟の呟きが聞こえてきていた。
「くそう……! なんかないのか? 合法的に弟をボコれる日は? いい兄さんの日ならぬ、悪い弟成敗の日とか存在してないのか……?」
「その場合、お前も僕に成敗される可能性があることを忘れるなよ?」
「そもそも雅人じゃ大我に敵わないでしょ? 返り討ちに遭うのがオチよ」
「(首の骨が折れる音)」
「正論で心を折りに来るのは止めろ! 繰り返す! 正論で俺の心を折りに来るのは止めろ!!」
一の発言が三倍のツッコミとなって返ってくる状況に耐えられなくなった雅人の逆ツッコミが響き渡る。
そうした後、こちらを見た弟は手もみをしながらわかりやすく僕に媚びてきた。
「お兄様、お兄様……! いい兄さんの日なんだから、家族に仕事を押し付けられている弟を助けてくださいますよね? ぐへへ……!」
「お前も僕に仕事を押し付けてきたけどな。自分にお鉢が回ってきた瞬間に超高速掌返しするなよ」
「そう言わないでくださいよ、お兄様。ね? ねっ?」
全力で僕に媚びる雅人であったが、そこでひよりさんが僕の腕を取ると、ぎゅっと抱き締めながら言った。
「ごめんね、雅人くん! 今は食後の夫婦の時間だからさ……雄介くんは貸してあげられないや!」
「ひよりちゃんがそう言うなら仕方ないわね。諦めなさい、雅人」
「肉を奢ってくれた義姉さんには逆らっちゃ駄目だろ。一人で頑張れよ、雅人」
「グエ~ッ!」
この状況では逆転は不可能だと悟ったのだろう、奇怪な悲鳴を上げた雅人がキッチンで倒れ込む。
そのまま涙を流し始めた弟は、何度目かわからない呪いの言葉を呟き始めた。
「次男だ、このポジションが悪いんだ……! 俺は次男だから我慢ができないんだ……! 家族からの理不尽な仕打ちにも兄夫婦のバカップルっぷりにも耐えられない……! 誰か俺に心の強さと愛をください……!!」
なんかちょっと可哀想に思えてきたが、これもいい兄さんの日を利用して僕に仕事を押し付けてきた罰だと考えて手は貸さないことにした。
「うえ~ん! もういい兄さんの日なんてこりごりだよ~!」
……という、何のギャグマンガだよとツッコミを入れたくなるような叫びを上げながら、雅人は片付けを進めていく。
これで十一月にある『いい○○の日』に関する一連のお話にも綺麗なオチがついたと、この時の僕は思っていたのだが……?