ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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七瀬さんが家に来ちゃった

(どうしてこうなった……?)

 

 本日何度目かもわからない自問自答を繰り返しながら、僕は野菜を切っていた。

 

 見慣れた我が家のキッチン。僕と母が綺麗に使ったり掃除しているおかげで清潔さを保てているそこに、見慣れない人物の姿がある。

 ちらりと横を向けば、ピーラーでジャガイモの皮を剥いてくれている七瀬さんの姿があって……小さな彼女と横に並びながら料理をする僕は、静かにパニックになっていた。

 

「いや~、ごめんね! あたしが作るとか言っておきながら、結局メインは尾上くんに任せちゃってさ~!」

 

「い、いや、こうして手伝ってもらえてるだけで十分助かってるよ」

 

 実際、今日は普段よりもスムーズに食事の準備が進んでいる。

 単純に人手が倍だということもそうだが、面倒な下ごしらえを七瀬さんが手伝ってくれていることがかなり大きかった。

 

 この調子なら、かなり早くに出来上がりそうだと考える僕へと、七瀬さんが言う。

 

「ジャガイモの皮剥き、終わったよ! 次は何をすればいいかな?」

 

「えっと……じゃあ、鍋を出しておいてもらえるかな。あと、カレールーを割っておいてもらえると助かる」

 

「オッケー! お鍋、お鍋……!」

 

 コンロの下にある引き戸を開き、カレー用の鍋を探す七瀬さんを見つめながら、僕は彼女が皮を剥いてくれたジャガイモを切っていく。

 火を入れた時に軽く溶けてしまってもいいようにやや大きめにカットしたそれをボウルに入れた後、材料の最終確認を行う。

 

「うわっ! もう切ったんだ? 手際いいね~!」

 

「もう何年もやってることだから。慣れだよ、慣れ」

 

 中学時代から、家の手伝いはよくやっていた。料理もプロ並みとは言わないが、この程度ならば慣れたものだ。

 七瀬さんの方も少しおぼつかない手付きではあったが、見事にサポートしてくれた。おかげで普段よりずっと楽ができて、本当に助かっている。

 

 鍋も大きくて厚めのものを取り出してくれたし、もしかしたら彼女も料理の心得があるのかもしれないなと思いながら、僕はその中に次々と材料を放り込んでいった。

 

「尾上くんち、チキンカレーなんだね。お肉がごろっとしてて美味しいよね!」

 

「うん。というより、牛肉は高くて買えないからね……大体が豚か鶏だよ」

 

 ……僕の家には、父親がいない。ずっと前に、事故で亡くなった。

 それからは母が仕事と家事を両立させながら一人で僕たち兄弟を養ってくれている。

 

 そんな母の姿を見ていたから、僕も中学生でバスケットはやめようと決めていた。

 少しでも母の負担を減らすために家事やアルバイトをしようと思ったし、何より部活動はお金がかかる。

 

 弟たちにもこれから受験が待っていることを考えると、家計的な負担は少しでも減らした方がいいはずだ。

 

 とまあ、そんなこんなで材料に火をかけ、そこに水を加えて煮込んで、浮いてきたアクを取って……と、調理を続けていった僕は、頃合いを見計らってカレールーを投入する。

 

 七瀬さんが割ってくれたルーが溶けていくにつれ、キッチンにはカレーのいい香りが漂い始めて……料理の完成を感じさせる雰囲気もまた漂い始めた。

 

「うわ、いい匂い……! お腹空いちゃうね~!」 

 

「あとはこのまま弱火で煮込んで完成かな。申し訳ないんだけど、適度にかき回しながら鍋の様子を見ててもらってもいい?」

 

「もちろん! 任せてよ!」

 

 えっへんと胸を張った七瀬さんに鍋を任せ、おたまを手渡す。

 台を用意した方がいいかとも思ったが、流石にそこまで小さくはないようで、普通に鍋の中を見ることができていた。

 

 こうして手伝ってくれる人がいると本当に助かるなと思いながら、僕は炊飯器のスイッチを入れる。

 

「ちょっとだけ多めに炊いたけど、これで足りるかな……?」

 

「わかる。カレーの日ってついついご飯を多く食べがちだもんね」

 

「いや、それもあるけどさ。今日は七瀬さんの分もあるから、もう少し多く米を炊いた方が良かったかなって」

 

「えっ……? あ、あたしの分もあるの?」

 

「うん。折角だし食べていきなよ。僕の家族も普通に歓迎してくれるだろうしさ」

 

 面倒な連中だけどね、と付け加えつつ七瀬さんへと僕が言う。

 流石に作るだけ作ってもらって、料理ができたらはい、さよならというのはこっちとしても後味が悪い。

 

 七瀬さん側がNGを出したとしても、カレーなんだから余ったとしても問題はないし……感謝を込めて、夕食に誘わせてもらおう。

 

「あ、でも、七瀬さんの都合が悪かったら遠慮しなくていいからね? ご両親も心配するだろうし……」

 

「ううん、大丈夫! うち、共働きでさ。家に帰ってこないことも結構あるんだよ。今日もそうだから……ありがたく、ご一緒させていただきます!」

 

 夕食のお誘いを、七瀬さんは笑顔で受け入れてくれた。

 楽しい気分になってくれたらいいなと思いながら僕が笑顔を浮かべる中、がちゃりという音と共にこちらへと足音が近付いてくる。

 

 ただ、数が想像していたよりも多くて……弟たちがいっぺんに帰ってきたのかと考えていた僕の前に、予想外の人物が顔を出した。

 

「ごめん、雄介! 遅くなるって言ってたけど話が変わって、早く仕事終わっちゃった! 早く帰らせちゃってごめ、ん……!?」

 

「あ、えと、はじめ、まして……」

 

 勢いよくドアを開けて姿を現したのは、僕の母だ。

 帰宅早々に謝罪をしてきた母は、キッチンでカレー鍋をかき回している七瀬さんと目を合わせると、ぴたりと動きを止めた。

 

 ギギギ……と、油が差されていない機械のようなぎこちない動きで首を回して僕を見て、再び七瀬さんへと顔を向けた後……信じられない勢いで振り返った母は、大声で叫んだ。

 

「雅人! 大我! 雄介が女の子を連れ込んでる!! 警察呼んで!!」

 

「いや、なんでだよ!?」

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