ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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江間の奴、今そんなことになってるのか……

 それからも僕たちはフットサルにテニス、ゴーカートやローラースケートなんかの色んなアクティビティで遊び続けた。

 ひよりさんとは二人きりで過ごす時間はほとんどなかったものの、クラスのみんなと一緒に楽しいひと時を過ごせたと思う。

 

 そして、楽しい時間というのは往々にしてあっという間に過ぎるものだ。

 僕がみんなと合流する時間が遅めだったということもあろうのだろうが、想像していたよりもずっと早くに解散の時間になってしまった。

 

 男女に分かれて更衣室に向かい、着替えを終えて……色々とやることがあるであろう女子たちを缶ジュースを片手に待っていた僕は、不意に遊佐くんに声をかけられ、彼の方を向いた。

 

「尾上~! わざわざバイト終わりに来てくれてありがとうな! お前との1on1、楽しかったぜ!」

 

「僕の方こそ楽しかったよ。今度は最初から参加したいな」

 

「そうだな! ここ、運動系のアクティビティの他にもゲーセンとかカラオケとかあるからさ、次はそっちで遊んでみようぜ! つっても、暫くはテスト期間だから、それが終わってからになるんだろうけどさ」

 

 僕と同じくジュースを手に声をかけてきた遊佐くんが、明るい雰囲気で話をしていく。

 ふざけたノリをすることもあるが、爽やかで明るい陽キャ的なこっちの性格が素なんだろうなと思いながら彼を見つめていた僕へと、遊佐くんはため息交じりに言った。

 

「にしても……お前がバスケ部に入ってくれれば良かったんだけどなぁ。インサイドガチガチに固めてくれる万能プレイヤーなんて、マジで最高じゃん」

 

「あ~……ごめんね。色々事情があってさ」

 

「わかってるよ。ただ、今ウチも微妙な感じでさ……あんまこういうの良くないとは思うけど、少し愚痴聞いてくれるか?」

 

「僕で良ければ話を聞くよ。何かあったの?」

 

 渋い表情を浮かべながら深いため息をこぼす遊佐くんの態度が気になった僕は、彼の話を聞くことにした。

 サンキュー、と愚痴に付き合ってくれることへの感謝を述べた後、遊佐くんは憶えのある名前を出しながら話を切り出してくる。

 

「尾上、A組の江間って知ってるか?」

 

「ああ、うん。知ってるよ。江間仁秀でしょ?」

 

 その名前が出た時、ドキッとしたことは確かだ。

 今よりおよそ一か月ほど前、付き合っていたひよりさんを浮気という形で裏切って捨てた江間のことは、そう簡単に忘れられる相手じゃあない。

 

 あれからもひよりさんに色々とちょっかいをかけてきたが、彼女にはっきりと拒絶されたことで大人しくなってきたと思っていた江間の名前が飛び出してきたことに静かな驚きを感じる僕へと、遊佐くんが言う。

 

「あいつ、入学直後は結構ぶいぶい言わせてたっていうか、次期エースとして顧問の田沼とか先輩からも期待されてたんだよな。実際、身体能力はある方だったしさ。でも、なんつーか……結構身勝手なところがあって、俺はあんまり好きになれなかったっていうか……いや、これは関係ねえか。忘れてくれ」

 

 江間への個人的な嫌悪感を示した遊佐くんの気持ちが、僕には理解できるような気がした。

 彼女であったがひよりさんへの仕打ちもそうだが、それ以前にバスケの試合の中で彼の身勝手さというものを目の当たりにしたことがある。

 

 中学三年生の夏、最後の大会……江間がエースを張っていたバスケ部との試合の中で、僕は彼とマッチアップすることになった。

 その試合の中、僕と彼は何度も一対一の形で勝負をすることになり、身長差のおかげで僕は彼の上からシュートを決め、逆に江間のシュートを何度も止めることで、流れを引き寄せたことを覚えている。

 

 普通、そうなった時は無理に一対一の勝負に固執せず、仲間たちと一緒にチームでオフェンスをすべきだ。

 国民的なバスケットボール漫画の中でも、相手との勝負に固執せずにチームが勝つために泥に塗れる選択をした主将がいるように、攻めも守りもチームで臨まなくては勝てる試合も落としてしまう。

 

 しかし、江間が選んだのはチームメイトと足並みを揃えて戦う道ではなく、自分が僕に勝つために無理な1on1を仕掛け続ける道だった。

 彼にもエースとしてのプライドや責任があったのかもしれない。しかし、そんなことをしていてはチームが勝てるはずもなかった。

 

 「お前のためにチームがあるんじゃない。チームのためにお前がいるんだ」……これもまた、先に挙げたバスケット漫画の有名な台詞だ。

 試合の中で僕は江間に何度か抜かれることがあったが、チームメイトがそれをカバーしてくれた。

 一対一で僕に勝てたとしても、その後ろにいる四人と勝負して勝てるはずがなかった江間はそれでも無理な攻めを続け……結果として、僕たちに完敗を喫したあの夏の試合のことを、僕はまだ覚えている。

 

 遊佐くんが言っている江間の身勝手なところというのは、そういう部分を指しているんだろうなと考える僕へと、彼は話を続けていった。

 

「実はあいつ、最近調子崩してるんだよ。それだけだったらまだしも、部活をサボるようになってさ。もう最悪だって」

 

「えっ? そうなの?」

 

「ああ。もう二週間くらいはそんな感じだったかな? そんなんだから連休中にあった練習試合にもベンチ入りすらさせてもらえなくて、それで拗ねてまた部活に来なくなって……負のループっていうの? もう田沼も先輩たちも呆れちまってるよ」

 

 江間がそんなことになっているとは思いもしなかった僕は、その話にかなり驚いていた。

 同時に、ふと抱いた疑問があった僕は、それをそのまま遊佐くんへと質問としてぶつける。

 

「誰か、江間に連絡とかしてないの? マネージャーの柴村さんとかさ……」

 

「あれ? 尾上、柴村さんがバスケ部のマネージャーってよく知ってたな?」

 

「ちょっと小耳に挟んでさ。それで、どんな感じなの?」

 

 バスケ部には江間の浮気相手であり、今は正式な彼女になったはずの柴村二奈がいる。

 彼女が調子を崩した江間を励ましたり、支えたりはしていないのかと考えた僕が遊佐くんへと尋ねてみれば、彼はジュースを一口飲んだ後、こう答えてくれた。

 

「柴村さんも田沼に言われて最初こそ連絡してたみたいだけど、最近はもう諦めてるよ。他は特にって感じかな……?」

 

「そっか……柴村さんも、そんな感じなのか……」

 

 遊佐くんの反応から察するに、彼は江間と柴村さんが付き合っていることを知らないのだろう。

 おそらく、二人は周囲に自分たちの関係を秘密にしているのだと思う。

 

 目に見える部分での接触が少ない理由はそこにあるのかもしれないし、周囲にバレないように裏でこっそりと連絡を取り合っている可能性もあるが……それならば、わかりやすい江間が気落ちしたままというのは妙だ。

 浮気相手でもいいから付き合ってほしいと詰め寄ったにしては柴村さんの行動も冷淡過ぎやしないかと考える僕へと、空き缶をゴミ箱に放り投げた遊佐くんが言う。

 

「江間が調子を崩してサボり始めた頃は田沼もイライラしてたし、先輩たちもそれに当てられて不機嫌になっててさ。そんなだからバスケ部は今、色々ガタガタなんだよ。もう少しで三年の先輩も引退して新チームになるけど、こんな状況じゃあマズいよな……」

 

「……大変だね。部外者の僕が聞いても、そう思うよ」

 

「ごめんな、こんなつまんねえ話聞かせちゃってさ。お前がバスケ部にいてくれたら雰囲気も結構変わったんじゃないかなって、そう思ったんだよな」

 

 ――色々と、思うところはある。もしかしたら、江間が調子を崩した原因が僕にあるのかもしれないとも思った。

 遊佐くんとの会話を終え、僕が色んなことを考える中、着替えを終えた女子たちが合流すると共にひよりさんが声をかけてくる。

 

「お待たせ、雄介くん! 何を話してたの?」

 

 笑顔で話しかけてくるひよりさんを見つめ返しながら、今の話は彼女に聞かせない方がいいと思った。

 別にひよりさんが江間が不調に陥っている話を聞いて、彼への想いをぶり返させるとは思っていない。ただ純粋に……この話を聞いた彼女の笑顔が曇る様を、僕が見たくなかっただけだ。

 

「大した話じゃないよ。次に遊びに来た時は、カラオケとかゲームセンターに行ってみようって話してただけ」

 

「おっ、いいね! 暑くなってきたら体を動かすのもしんどくなるし、あたし的にも大賛成!」

 

 これは過去の男のことを考えてほしくないという、僕の醜い嫉妬心なのかもしれない。

 ただ、少なくとも今は……この楽しそうにはしゃぐひよりさんの笑顔を壊す必要はないはずだ。

 

「まあでも、テストが終わらないと遊びにも来れないけどね。そこは忘れたらダメ」

 

「ぐわ~っ! めんどくさい~! それは忘れちゃいたいって~!」

 

 おどけ、笑い、凹みながらも楽しそうにしているひよりさんへと、僕も笑みを向ける。

 自分自身が独占欲を隠せなくなってきていることを自覚しつつある僕は、浮かべている笑みに自嘲も含めながら、それでも彼女と楽しく話を続けるのであった。

 

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