ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ただの友達、じゃないよな……

「へい! 特製豚骨醤油チャーシューメン特盛り野菜マシと豚骨醤油ラーメン、お待ち!」

 

「きゃっほ~い! 待ってました~! いっただっきまーす!」

 

 水族館を出て、電車に乗って……それから少し歩いた僕たちは、最近利用している学校の近くのラーメン屋にやって来ていた。

 

 ピーク時を少し過ぎているおかげかお店はそこそこ空いていて、カウンター席に腰掛けた僕たちの前に店主さんが注文の品を置いてくれる。

 最初は体格から僕の方が特盛のラーメンを食べるのだと勘違いしていた店主さんも、常連客となった今ではひよりさんの健啖家っぷりを理解していて、彼女の前に特盛ラーメンを置くようになっていた。

 

 そうして、僕たちがラーメンを食べ始める中、それなりに気心知れた関係になっていた店主さんが話しかけてくる。

 

「二人とも、今日はデートの帰りかい? 土産物の袋を見る感じ、行先は『夏風オーシャンパラダイス』か」

 

「そうです! 楽しく遊んできました!」

 

「はははっ! 仲が良くて何よりだ。あ、これサービスな」

 

「すいません、ありがとうございます」

 

 コトン、と音を響かせながら僕たちの間に唐揚げの皿を置いてくれた店主さんへとお礼を言う。

 その後、ホクホク顔で料理を食べるひよりさんを一瞥した彼は、今度は僕に向かって話しかけてきた。

 

「彼女ちゃん、随分とご機嫌だな。いいことでもあったのかい?」

 

「単純に楽しかったっていうのもありますけど、久々に二人で出かけられたことが嬉しかったってこともあるんだと思います」

 

「あ~……学生さんはこの時期、テストとかあるもんなぁ。そりゃあ、楽しくデートなんかしてらんねえか」

 

 そう呟きながら納得した様子を見せた後、店主さんが厨房へと引っ込む。

 彼との話を終えた僕がラーメンをすする中、今度はひよりさんが小さな声でこう言ってきた。

 

「ふふふ……っ! ()()()()、だって。やっぱ周りからはそう見えるんだろうね~……!」

 

 唐揚げをサービスしてもらった時よりも嬉しそうな顔でそう言いながら、また一口ラーメンをすするひよりさん。

 そんな彼女の横顔を見つめながら……僕は、少しだけ迷いのようなものを抱えていた。

 

(そうだよな。周囲からはそう見えるだろうし、実際にそれに近しいことを僕たちはしている。だけど、()()()()()なんだよな……)

 

 二人きりのデート。手を繋ぐ。膝枕。お揃いの物をプレゼントし合う。

 他にもハグやあ~んに間接キス、定期的に家に遊びに来たりお泊りまで経験した僕たちだが、名目上は今も『ただの友達』だ。

 

 この前、遊佐くんからもそれでただの友達は無理があると言われたし、チケットをプレゼントしてくれた鉢村さんも熊川さんも半ば恋人くらいのものだと思って僕たちを見ているのだろう。

 

 ここまで関係を進めておいて、ただの友達を名乗り続けていいのだろうか?

 

 あの日に言った、江間との関係を過去のものだと思えるようになるまでひよりさんを幸せにし続けるという言葉も、そうなった時にちゃんと気持ちを伝えて関係を先に進めるという言葉も、全部嘘にするつもりはない。

 江間とのいざこざの傷跡が未だに残っているであろうひよりさんを焦らせるつもりも、無理に恋人という関係になろうとも、僕は思っていない。

 

 ただやっぱり、この関係をただの友達という言葉で表すことには違和感があった。

 違和感……いや、嫌悪感といった方が正しいかもしれない。

 さりとてこの感覚をどうひよりさんに伝えるかだとか、問題の解決方法は何なのかという部分に関しては答えが出ないままだ。

 

(ひよりさんはどう思ってるんだろう? でも、質問して妙なことを意識させるのも悪いしな……)

 

 過去を振り切ったり、彼女の気持ちが落ち着くまで待つ気持ちは当然ある。

 だからこそ、それとは別の感覚でもあるこの話を無理に出した結果、ひよりさんが焦ったりしたら嫌だという気持ちが強い。

 

 そうやって僕が悩む中、戻ってきた店主さんが僕たちの前にぴらりとチラシを置いてきた。

 

「食事中に悪いな。お二人さん、甘いものは好きか? そうだったら、ここがおすすめだぜ」

 

 そう言いながら店主さんが差し出してきたチラシを覗き込んだ僕たちは、それがかき氷専門店の宣伝チラシであることを理解した。

 シーズンの到来に合わせて様々な種類のかき氷を用意しているというチラシの文言を見て、興味を示した僕たちへと店主さんが話を続ける。

 

「ここ、知り合いの店なんだ。人気のかき氷屋だけど、予約も受け付けてるから夏のデート先としてはうってつけだと思うぜ」

 

「かき氷……! 他のお店ではなかなか取り扱ってないし、専門店の味も気になるね!」

 

「おっ、そうか。なら、このチラシあげるからよ、予約取って行ってみるといいぜ」

 

「わ~い! ありがとうございます!」

 

 店主さんからチラシを受け取ったひよりさんが、僕の方を向く。

 笑顔の彼女は嬉しそうにしながら、僕へとこう言ってきた。

 

「ふふふ……! 次のデート先も決まっちゃったね。いつ頃行くか、話し合って決めよっか!」

 

 どこまでも楽しそうで嬉しそうな笑顔を浮かべるひよりさんへと微笑みながら頷きつつ、僕は思う。

 やっぱり、こうして自然とデートが決まる関係は『ただの友達』ではない。

 

 どこかでこの関係について見直さなければならないなと考えながら……今日は楽しかったデートの思い出を大事にすべく、その思いをラーメンのスープと一緒に飲み込むのであった。

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