ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ひよりさんと僕と彼女の家
ひよりさんの家に行くことになった


 ――ひよりさんとの水族館デートから、二週間ほどの時間が過ぎた。

 季節は完全に夏に突入し、みんなも学校の制服を衣替えして……と色々な変化が起きているが、僕たちの関係はそのままだ。

 

 色々と思うことがあったり、悩んだりしている僕だが、そういう姿をひよりさんには見せないように気を付けている。

 ただ、どこかで話をする必要があるんじゃないかな……とも思っている僕は、この複雑な心境を抱えたまま、日々を過ごしていた。

 

 そんな僕たちの関係が少しだけ変わるきっかけが訪れたのは、ある夏の日。

 その前日、僕は家族にちょっとした報告のようなことをしていた。

 

「母さん、明日なんだけど、ちょっとひよりさんと出掛けてくるね」

 

「はいはい、わかったわ。晩御飯、どうする?」

 

「家で食べるよ。昼、ちょっと買い物に付き合ってほしいって言われてるだけだから、遅くはならないと思う」

 

 金曜日の夜、僕は翌日の予定について母に報告をしていた。

 明日もひよりさんと出掛けるという僕からの報告を受けた母は、嬉しそうに笑いながらこう言ってくる。

 

「だったら、ひよりちゃんもうちに誘ったら? 久しぶりに一緒にご飯食べましょうよ!」

 

「あ~、それは無理かな。さっき買い物って言ったけど、正しくは荷物の受け取りでさ……」

 

「ん? どういうこと?」

 

「ひよりさん家の電子レンジ、前々から調子が悪かったんだけど、それが急に壊れちゃったんだって。それで、注文してた新しい物が明日届くらしいんだけど、ご両親はどっちも仕事で受け取りに行けないらしくてさ……」

 

「あら、休日出勤なの? 大変ね……電気屋さんに届けてもらえばいいのに」

 

「僕もそう思ったんだけど、ひよりさんの家のやり方に口を出すわけにもいかないでしょ? それでまあ、僕が荷物を運ぶ要員として駆り出されることになったってわけ」

 

「なるほどね……ん? ちょっと待って。それってつまり――」

 

 ひよりさんを遊びの帰りに家に連れて来いという母へと、それが無理な理由を語る僕。

 そんな僕の話に納得した母であったが……何か違和感を覚えて唸り始めた次の瞬間、僕の背後から弟たちが顔を覗かせた。

 

「おい、それってよ……両親が居ない義姉さんの家に、雄介が遊びに行くってことじゃね?」

 

「ああ、うん。そうなるね」

 

「おいおいおい! マジで? マジか? マジックだ! ショータイムじゃねえか!!」

 

「ここか!? 祭りの場所は!?」

 

 妙なテンションで叫んだ後、いつも通りに謎のダンスを踊り始めた弟たちを一瞥した僕は、深いため息を吐いた。

 母もまた弟が言ったシチュエーションに気付いたようで、若干の焦りを見せながら僕に言ってくる。

 

「大丈夫なの? あちらのご両親はそのことを知ってるの?」

 

「どう、なんだろう……? 誰かに手伝ってもらえって言われたって、ひよりさんは言ってたけど……」

 

 ――多分、ひよりさんのご両親が言っていた()()というのは、江間のことだと思う。

 ご両親は幼馴染であったひよりさんと江間が付き合っていたことも、江間が浮気をして彼女を裏切ったことも知らないのだろう。

 

 僕たちが抱えている色々と複雑な事情を思って表情を曇らせた僕のことを見た母は、何かを感じ取ったのか目を細める。

 そうした後、僕にこんな質問を投げかけていた。

 

「ねえ、雄介……あなた、何か悩んでるんじゃない?」

 

「……うん、ちょっとね」

 

「じゃあ、話してごらんなさい。無理にとは言わないけど、つっかえてることがあるなら話せば楽になるでしょう?」

 

 その母の言葉に、踊っていた弟たちも騒ぐのを止めて僕の方を見る。

 少し恥ずかしいなと思いながらも家族の気遣いに感謝した僕は、息を吐いた後で抱えている悩みを吐露していった。

 

「実は……ひよりさんとの関係に悩んでいるっていうか、このままでいいのかなって思っててさ……」

 

「このままでいいのかって、どういう意味だよ?」

 

「……やっぱり、あんたたちまだ付き合ってなかったのね」

 

「えっ!? うそぉ!?」

 

 驚きのあまり、声を裏返した雅人の素っ頓狂な叫びが部屋に響く。

 うるさいと大我に頭を叩かれた次男は、軽く謝罪した後で僕へとこう言ってきた。

 

「いや、でもだったら簡単な話だろ? 告白して付き合えばいいだけじゃん! ひより義姉さんもあんな感じだし、万が一にも断ったりなんかしないでしょ~!」

 

「……そんなの雄介もわかってるだろ。その上でそうしないってことは、それができない事情があるってことじゃね?」

 

「あっ、なるほど……!!」

 

 当然のリアクションを見せた後、これまた当然の答えを口にした雅人であったが……色々と察した大我にツッコまれ、ばつが悪そうに口を閉ざした。

 僕が次男へと若干の申し訳なさを感じる中、ここまでの話を聞き、僕の反応を見ていた母が言う。

 

「……この感じ、あんたがヘタれてるわけじゃないわね。ひよりちゃんの方に何か事情があるってことか」

 

「………」

 

「そして、それはおいそれと誰かに言っていいような事情じゃあない。大体わかったわ」

 

「すげえ、流石は母者」

 

()()()()()()、で本当に事情をほぼ完璧に把握できてるの、流石だよな」

 

 息子として、母の察しの良さに僕たちが驚く中、咳払いをした母は僕を見つめながら口を開き、助言をしてくれた。

 

「雄介、母親としてあなたの性格はよくわかってるわ。あなたは鈍くてヘタレなところもあるけど、真面目で優しい子よ。だからこそ、どうしてあなたがこのタイミングでそんなことを思うようになったのかっていうのも、お母さんはわかってる」

 

「………」

 

「あなたのその想いは、ひよりちゃんの事情を無視した自分勝手なものじゃあない。あの子のことを考えた上で抱えているものよ。お母さんが保証してあげる。だから、ちゃんとぶつけてきなさい。きっとあの子もわかってくれるわ」

 

「……うん。ありがとう、母さん」

 

 少しだけ、そう言ってもらえて元気が出た。

 まだ弱々しいが確かな笑みを浮かべた僕へと、今度は弟たちが言う。

 

「よくわかんねえけど……頑張れ! 弟として、応援してるぜ!」

 

「まあ、兄貴は性格は間違いなくいいし、そんな兄貴が真剣に悩んだ上で出した答えなら、義姉さんも納得してくれると俺も思うよ」

 

「……サンキュー」

 

 軽く手を上げて弟たちに応えつつ、息を吐く。こんなにもいい家族に囲まれて幸せだと、そんな思いを噛み締める。

 どうにか、この気持ちを伝えられるといいなと思いながら……僕は、明日へと想いを馳せるのであった。

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