ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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告白後はトラブル続き

「……はぁ~っ。よ、よかった……」

 

 OKの返事を貰えた僕は、思わず安堵のため息を吐きながら脱力してしまった。

 一気に体から力が抜けていく中、そんな僕の反応を見たひよりさんがくすくすと笑いながら言う。

 

「そんなに緊張してたの? あたしにフラれるかもって思ってた?」

 

「や、約束が約束だし、まだ心の準備ができてないって言われるかもなって……唐突過ぎだったし、十分にその可能性もあったから、OKしてもらえて本当にほっとしたっていうか……」

 

「あははっ、そっかぁ……! うん、そうだよね。色々と気を遣わせちゃったね」

 

「い、いや! そんなことないよ! むしろ僕の方がひよりさんに気を遣わせちゃってたと思う!」

 

 気が抜けたり、慌てたり、自分でも感情の振れ幅が凄いなと思った。

 そうやってわたわたとした後でひよりさんと視線を合わせた僕は、お互いにぷっと噴き出してから笑い合う。

 

「ふ、ふふふ……っ! あたしたち、恋人になったんだよね? でもなんか、何も変わってない感じがすごいや」

 

「まあ、元々が付き合ってたのと同じようなことしてたわけだし……変わらなくて当たり前なんじゃない?」

 

「それもそうか! ふふっ! でも、恋人か~! ……ヤバい、顔がにやけちゃう……!!」

 

 ほっぺたを押さえ、ニマニマと笑う顔をどうにかしようとしているひよりさんは、とても嬉しそうだった。

 以前から好意は伝えていたし、告白もしたようなものであったが……こうして、正式に恋人という関係になることで喜びを感じているのは僕も同じだ。

 

「ねえ、雄介くん……あたしも頑張るから。彼女として、雄介くんのことを幸せにできるように頑張る」

 

「……僕も頑張るよ。ひよりさんのこと、これまで以上に笑顔にできるように頑張る。彼氏としてね」

 

 友達から恋人へ、関係性が多少は変わっても僕のやることは変わらない。

 これまで以上にひよりさんのことを幸せにするだけだと、僕のことを幸せにすると言ってくれた彼女へとそう伝えれば、ひよりさんは落ち着かない様子でバタバタし始めた。

 

「うわ~っ! ヤバいっ! 今さらドキドキしてきた~! う~っ! 顔の熱さがすご――あっ!?」

 

 顔を押さえたり、足をバタつかせたり、テーブルを叩いたり……と、落ち着かない感情をどうにか処理しようと体を動かし続けていたひよりさんであったが、腕を大きく動かした際にテーブルに置いてあったグラスを倒してしまった。

 中身がまだ十分に残っていたそれは倒れると同時にひよりさんと彼女が抱えているぬいぐるみ、そして絨毯へとオレンジティーをぶちまける。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「うへ~、ちべたい……! や、やっちゃったなぁ……!」

 

 オレンジティーの冷たさで顔の火照りが引いたというわけではないが、流石に僕も告白後のどうこうとかの話をしている場合ではなくなってしまった。

 さっきまでとは別の意味で慌ただしくなった状況の中、僕とひよりさんは事態の収拾に動いていく。

 

「雑巾とかってある? 絨毯を拭いておかないと……」

 

「そっちは大丈夫! 後で洗っておくから、気にしなくて大丈夫だよ! それより、イルカちゃんが~っ!」

 

 確かにまあ、コーヒーやジュースをこぼした時よりかはマシだし、サイズも小さな絨毯は洗うのも簡単なのだろう。

 そっちは気にしなくていいと言ったひよりさんは、自分と一緒に被害に遭ったピンクのイルカの方を心配しているようだ。

 

「とりあえず、僕は出ていくよ。ひよりさん、着替えた方がいいでしょ?」

 

「そうだけど……ごめん、雄介くん! ちょっとこの子と一緒にシャワー浴びてきてもいい?」

 

「うえっ……!?」

 

 ぱんっ、と手を合わせながら頭を下げたひよりさんの発言に、目を白黒させて慌てる。

 イルカのぬいぐるみや服の濡れ具合なんかを考えれば、そうしてもおかしくはないかとは思いつつも家の中に二人きりの状態で彼女がシャワーを浴びるというシチュエーションには、何か動揺してしまうものがあった。

 

「うっ、うん。だ、大丈夫だよ。僕はグラスを片付けておくから、ゆっくり体を綺麗にしてきてね……!」

 

「ありがとう! ごめんね!」

 

 僕からの了承を受けたひよりさんが大慌てで服をしまっているタンスを開く。

 真っ先に一番上の段を開けた彼女が、薄いピンク色の下着を取り出す様を目にして慌てて目を逸らした僕は、無心でテーブルを拭き、片付けに没頭することにした。

 

「本当にごめんね! 悪いけど、グラスを台所まで持って行ってもらえると助かります!」

 

「あ、ああ、うん。わかったよ」

 

 片腕に濡れたイルカのぬいぐるみを、もう片方の腕に先ほどの下着を含む着替えを抱えたひよりさんがそう言ってばたばたと足音を響かせながら階段を下りていく。

 目に焼き付いてしまった彼女の下着のサイズの大きさにちょっとだけ悶々とした気持ちを抱えた後、それを振り払った僕は二人分のグラスをトレーに乗せ、階段を下りていった。

 

(え~っと、台所はこっちかな……?)

 

 初めて来る家だが、大体の間取りというのは予想できる。

 廊下を歩く際、ひよりさんがシャワーを浴びている風呂場のすぐ近くを通る時には緊張したが……他は問題なくグラスを運ぶことができた。

 

「グラス、ありがとうね! パパっと浴びて出るから、部屋でゆっくりしてて!」

 

「慌てなくていいから、ゆっくり体を洗ってよ。僕のことは気にしないで」

 

「う~ん、あたしの彼氏は優しいな~! ……どうせなら、雄介くんも一緒にシャワー浴びる? 楽しく体の洗いっこでもしちゃう?」

 

「そういうことはしないって話をしたばかりでしょうが! まったく、浮かれ過ぎだって……!」

 

 告白が上手くいったことや、恋人になったことへの余韻に浸る暇もなかったなと苦笑しながらシンクの中にグラスを置いた僕は、あまり勝手に人の家の台所用品に触れるべきではないなと判断し、そのまま上に戻ることにした。

 その際に足音を聞いてシャワーを浴びながら声をかけてきたひよりさんへとツッコミを入れた僕は、脱衣所の横を通り過ぎて階段の方へと歩いていく。

 

 玄関のすぐ横にある階段を上って、ひよりさんの部屋へと向かおうとした僕であったが、その時、ガチャリという音が響いた。

 驚いた僕が振り向けば、玄関の扉がゆっくりと開く様が目に映って……一人の女性が家の中に入ってくる。

 

「ひより、家にいるの? 電子レンジ、取りに行って――」

 

 ひよりさんの名前を呼んだその女性は、玄関のカギを閉めて振り返ったところで僕の存在に気付いたようだ。

 驚いた様子で僕を見つめ、同じく驚きで硬直していた僕と視線を交わらせた彼女は、動揺をありありと浮かび上がらせた声で僕に問いかけてくる。

 

「あ、あなた……誰?」




宣伝になっちゃって申し訳ないのですが、書籍版第2巻ではこの辺りのお話が大きく変わっています。
正直、web連載の時にお話を重くし過ぎたというイメージがあったので、そこを払拭しつつ納得していただけるような甘い展開にしてみました。

とりあえずこちらのweb版を楽しんでいただいて、その後で興味があったら書籍版も楽しんでいただけると嬉しいです。
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