ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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僕の彼女、可愛い

(落ち着け。気合いを入れろ。あれ? なんか早速矛盾してないか?)

 

 ――ひよりさんの家にお邪魔した翌日……つまり、晴れて僕と彼女が恋人という関係になった次の日の日曜日、僕は待ち合わせ場所である駅前でそわそわとした気分を抱えたまま、変なことを考えていた。

 今日はひよりさんとデートをする日。恋人になって初めてのデートに出かける日だ。

 

 だから気合いを入れたいという気持ちはあるのだが、昨日の出来事があるからこそまずは落ち着かなければならないという気分にもなっている。

 一応、ひよりさんからは【お母さんはわかってくれた】との報告を受けているが……やっぱり不安だ。

 

 とは思いつつも、この微妙な空気を残したままにするのは良くないということも理解していた。

 だからこそ、僕は今日、こうしてひよりさんをデートに誘ったわけで……あの何とも言えない雰囲気を一日熟成させて月曜日に学校で顔を合わせた時のことを考えると、やっぱり早めに不穏な空気は払拭しておくべきだと思ったからこそこうしたわけだ。

 

 つまりは恋人になっての初デートをひよりさんに存分に楽しんでもらえるように気合いを入れなければならないわけで、そのためには昨日から続いているこの落ち着かない雰囲気をどうにかしなければならないということでもある。

 家族からも「なんかすごい顔してる」と言われたことを思い返しながら、どうにかひよりさんが来る前に自分自身を戒めなければと思っていた僕であったが、ちょうどそのタイミングで背後から声が響いた。

 

「雄介く~ん! お待たせ~っ!」

 

「あ゛っ! お、おはよう、ひよりさ――」

 

 気持ちを固める前にひよりさんが来てしまったことに驚いた僕が濁った声を漏らしながら振り向く。

 そのまま、落ち着かない胸中をごまかすようにして腕を上げ、大きな動きでリアクションを見せようとしたのだが……その動きは、途中でぴたりと止まってしまった。

 

「おはよう! 遅くなってごめんね!」

 

 そう、僕に言いながら手を合わせてくるひよりさんは、なんだかいつも以上に眩しく見えた。

 胸元と肩口にフリルの付いたオフショルダーの黄色いブラウスに茶色のベルトを巻いた白のミニスカートを合わせた格好をしている彼女の姿は、夏らしさも大人っぽさもかわいさも全てが爆発しているように思える。

 

 肩も脚も胸元も見えている露出の多い格好にドキッとしてしまったりだとか、他にもブレスレットなんかの細やかなアクセサリーを着けていたりだとか、素足が見せるサンダルから夏っぽさを感じたりしていた僕は、ひよりさんの髪を纏める黄色いヘアゴムを目にして赤くなった頬をごまかすように口元に手をやった。

 

「どうしたの? 口なんか押えちゃって……?」

 

「いや……ひよりさん、いつも以上にかわいいなって思って……」

 

 視線を泳がせながらの僕の妙なリアクションを疑問に思ったであろう彼女に正直な思いを伝えれば、一瞬ぽかんとした後で嬉しそうに笑ってくれた。

 その場でくるりと回ったひよりさんの姿と、ふわりと浮くスカートを見る僕へと、にししと笑った彼女が言う。

 

「そりゃあ、いつも以上に気合いを入れてきたからね! なにせ、恋人になってから初めてのデートだもん!」

 

「そっか……その、嬉しいよ。気合を入れてくれたことも、そのヘアゴムを使ってくれてることも、すごく嬉しい」

 

「あたしの方こそ、出会ってすぐに褒めてもらえて嬉しいよ~! 頑張った甲斐があったな~って思えたからさ!」

 

 今日のデートを特別なものだと思ってくれていることや、そのためにいつも以上に気合いを入れておめかしをしてくれたこと。何より、僕がプレゼントしたヘアゴムを使ってくれていることを嬉しく思った僕は、ぎこちないながらも感謝と喜びの気持ちをひよりさんに伝える。

 ひよりさんの方も僕の本音が駄々洩れになっているリアクションやその言葉を喜んでくれたようで、明るい笑顔を見せてくれていた。

 

(ヤバい。改めて自覚してしまったけれど……こんなにかわいい女の子が、僕の彼女になってくれたんだよな……)

 

 奇跡である。一生分の運を使い果たした気分と言っても差し支えない。

 前世でどんな善行を積んだら、こんなに幸せな目に遭えるのだろうか? ちょっと僕には想像ができない。

 

 気が付けば、僕の心の中からはひよりさんと合流する前に抱えていた焦りだとか不安といった感情は消え去っていた。

 今の僕の心にあるのは純然たる()()()()()だけで、程よく気合いを入れて、このかわいい彼女との初デートを楽しもうという思考になっている。

 

「じゃあ、早速だけど行こうか。今日はバスで移動だから、こっちだね」

 

「はいは~い! りょうか~い! と、その前に……何か忘れてない?」

 

「え? 何かって……?」

 

「……ん」

 

 できる限り平静を保ちつつ、ひよりさんを案内しようとしたところで、彼女が意味深なことを言ってきた。

 戸惑う僕に対して手を伸ばしてきた彼女は、上目遣いでこちらを見つめながら言う。

 

「手……繋ぐの忘れてない?」

 

「~~っ!!」

 

 少し恥ずかしそうにしながらも小さな手を伸ばしてくるひよりさんのいじらしさだとかかわいらしさを目の当たりにした僕の口から、変な声が漏れた。

 先ほどまで口元を覆っていた手で彼女の手を取れば、ひよりさんはまたしても嬉しそうに微笑みながら僕の隣へと並んでくる。

 

「よ~し、完璧! それじゃ、行こっか!」

 

 ひよりさんの歩幅に合わせて、彼女の手を握りながらバスターミナルへと歩いていく。

 彼女の足取りが軽く、そして弾んでいることを見て取る僕の胸も同じように明るく弾んでいて……先ほどまでとは違う、いい意味での落ち着かない気分を抱えたまま、僕は目的地へと向かっていくのであった。




宣伝みたいになっちゃうんですけど、単行本だと色々変更が入っております!
恋人になる点はそのまま! ただ、睦美の反応や初デートの行先が変わってたりするので、そういった違いを楽しんでいただけたらな~と……!

とりあえず、web版のお話をお楽しみください!
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