ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
熊川さんの発言を受けた僕は、多分すごい顔をしていたと思う。
ここで江間の名前が出ることも、彼女が彼の名前を出すことも、僕とひよりさんが付き合っていることを公表しない理由を言い当てられたことも、全部が驚きでしかない。
何故、熊川さんは江間の名前を出したのか? まさかとは思うが、彼と交友があるのだろうか?
驚きのあまり、硬直してしまっていた僕が理由を尋ねれば、熊川さんは険しい表情を浮かべながら話をしてくれた。
「なんか、江間くんの中では尾上くんは複数の女の子と付き合ってる浮気男になってて、私はその被害者の一人になってるっぽいんだよね」
「えっ!? な、なんで!?」
「私の場合はほら、テスト勉強とバイトの助っ人のお礼ってことで水族館のチケットをプレゼントしたことあったでしょ? 江間くん、私が尾上くんにチケットを渡したところを見てたみたいでさ。私が尾上くんに何かを貢いでるって勘違いしてたんだよね」
「ああ、あの時の……!」
熊川さんに言われて、僕は少し前のそのやり取りを思い出す。
確かにあの時の彼女は一度チケットを持ってくるのを忘れたことを申し訳なく思っていたようで、僕に対してしきりに頭を下げていた。
その場面を見ていた江間は、どうしてだか僕が熊川さんに金品を貢がせてると思い込んだみたいだ。
「っていうかヤバいよ。あいつ、ひよりの家の写真とかデート中の二人の写真とかを隠し撮りしてた。これが尾上くんの浮気の証拠だって、堂々と見せてきたもん」
「なっ……!?」
僕が浮気しているだとか、そういう妄想を働かせるだけならまだいい。
だが、ひよりさんに被害が及ぼうとしているのなら話は別だ。
土曜日に僕がひよりさんの家に出かけた時と日曜日のデートのどこかで、江間は僕たちを隠し撮りしたのだろう。
前者はまだ家がすぐ近くだったからという言い訳ができるが、後者に関しては間違いなくひよりさんを尾行した上で盗撮している。
(どこだ? どこであいつは僕たちを撮影した? 少なくとも、バスや店の中じゃないはずだ)
狭いバスやレストランの中ならば、江間が居ればすぐに気付く。
その後のウインドウショッピングの間も江間の気配を感じなかったし、可能性があるとすれば色んな意味で落ち着いていなかったひよりさんと合流直後の段階だ。
つまり江間は朝、ひよりさんが出かけるところを見て、彼女を追跡したのだと……どう考えてもストーカーとしか言いようがないその行いに僕が怒りと恐怖を覚える中、熊川さんが言う。
「ねえ、江間くんはどうしてあんなことするわけ? 尾上くんかひよりと何かあったの?」
その質問に対して、僕はすぐには答えられなかった。
ただ、間違いなくこれは共有すべき話だと考えた僕は、ひよりさんたちが戻ってきた段階で改めて話をしようと判断したところで、あることに気付く。
「熊川さんは江間と話したんだよね? あいつに何もされなかった?」
「あっ、うん。偶々、遊佐くんが通りかかってさ。あいつを引き離してくれたんだ」
「そっか。なら良かった……!」
ひよりさんにストーカーまでするような男だ、熊川さんにも相当しつこく絡んだのだろう。
女の子である熊川さんが江間に危害を加えられていなかったか心配だったが、バスケ部の遊佐くんが間に入ってくれたおかげで助かったという話を聞いた僕は、ほっと胸を撫で下ろした。
「ごめん。悪いんだけど、ひよりさんが戻ってきたら今の話をもう一回してもらえる?」
「う、うん。別にいいけど……」
この情報はひよりさんと共有しておいた方がいい。彼女の身に迫る危険を把握してもらうためにもそうしようと考えた僕が熊川さんにお願いをしたところで、屋上の扉が開いた。
少し早いが、ひよりさんたちが戻ってきたのかと思って振り返った僕は、そこに彼女以外のもう一人の人物がいることに気付き、目を丸くする。
「遊佐くん……?」
「おう、悪い。ちょっとお前を探してたんだ」
ひよりさんと鉢村さんと一緒に屋上にやって来た遊佐くんが、神妙な表情を浮かべながら僕へと言う。
その後、僕と熊川さんを包んでいた微妙な雰囲気を感じ取った彼は、色々なことを察したのかこう言葉を続ける。
「熊川さんから江間の話、聞いたみたいだな。俺も今さっき、あいつと話をしてきたんだよ」
「江間と? どうして遊佐くんが……?」
「熊川さんは知ってるだろうけど、ちょっとしたいざこざがあってさ。そのことについて釘を刺しに行ったんだ。そん時の様子がおかしかったから、尾上と七瀬さんに話しておこうと思って」
暗いような、困っているような表情を浮かべた遊佐くんが僕たちへと言う。
ため息を吐いた後、彼はここに来る前に江間と繰り広げた会話について話してくれた。