ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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親にも全部バラされた……(仁秀視点)

(そんなわけない。全部俺の妄想だったなんてあり得ない。俺は、俺は……!)

 

 その日はもう、何も手が付かなかった。自分自身に何度もあれは妄想ではないと言い聞かせる俺の頭の中では、疑問がぐるぐると渦巻いている。

 

 尾上は俺からひよりを寝取った浮気男じゃなかったのか? 二奈とのやり取りがどうして消えているのか? なんで誰も俺の言うことをわかってくれないのか? 何もかもがわからない。

 そんなことを考えている間に授業は終わって、そのまま学校から飛び出した俺であったが、まっすぐ家に帰る気にはなれずにあてもなくその辺をぶらついていた。

 でも、そんなことに意味はない。結局は家に帰らなくちゃならないんだから。

 

 時刻が夜に差し掛かり始めた頃、俺はようやく自宅の玄関の扉を開いていた。

 まだ憂鬱な気持ちも疑問も消えてはいなかった俺は母親に挨拶をせずに自分の部屋に向かおうとしたところで、ドスドスという荒い足音が聞こえてくる。

 

 驚いて足を止めた俺が見たのは、リビングから鬼の形相を浮かべながらこちらへと向かってくる母親の姿で……その光景にビビって動けなくなった俺へと、母が怒鳴りながら猛烈な張り手を繰り出した。

 

「仁秀っ! あんた、何やってんのっ!?」

 

「ぎゃっ!?」

 

 もう何年も喰らっていなかった母親の全力のビンタを受けた俺は、頬に走った痛みに情けない悲鳴を上げてその場に尻もちをついた。

 なんでこんなに怒っているんだと異変に驚いて何も言えなくなっている俺に向け、母は顔を真っ赤にしながら大声で叫ぶ。

 

「どうしてあんた、浮気なんてしたの!? 幼馴染だったひよりちゃんを傷付けて、どうして今の今まで平気な顔をして生活できてたのよ!?」

 

「えっ!? ど、どうしてそれを……!?」

 

「全部、ひよりちゃんのお母さんから聞いたわよ! あんたが一年前からひよりちゃんと付き合ってたことも、他の女に浮気してひよりちゃんを捨てたことも、ひよりちゃんに付き纏ってるってこともね!!」

 

 母親の答えに愕然とするしかなかった俺だが、考えてみれば当然のことだ。

 ひよりから絶縁を告げられた際、これ以上付き纏った場合はお互いの両親に報告すると宣告されていた。その状態で俺が尾上とのデートに向かうあいつのことを盗撮していたと遊佐や熊川から教えられたら……ひよりは当然、宣言通りに俺のしたことを親に報告するだろう。

 

 少し考えればわかることだったが、さっきまでの俺にはそれを考える余裕がなかった。

 ようやくこの当然の流れに思い至った俺が青ざめる中、母親が大声で怒鳴り散らす。

 

「あんたが部活を休んでることはわかってた。お父さんに相談したら、男には色々あるから放っておけって言われたから、そっとしておこうと思ったけど……まさかそれが、ひよりちゃんにストーカーするためだっただなんて……!」

 

「ち、違う! 俺はひよりを助けようとしたんだ! 俺からひよりを奪った尾上から、ひよりを守ろうとしたんだ! 確かに俺は浮気したけど、ひよりとはすぐに元通りの関係になれるはずだったんだ! それを尾上が邪魔して――ぎゃぁっ!?」

 

 俺には俺の正義があった。ひよりを監視してたのも、全部はあいつのためだった。

 そのことを伝えようとした俺だったが、全てを言い終わる前に再び母親がビンタをかましてくる。

 そのまま何度も何度も頬を張られた俺は、何も言えずに母親の言葉を聞き続ける羽目になった。

 

「浮気したけどすぐに元通りになる? あんた、どこまでひよりちゃんを馬鹿にするの!? どこに浮気して自分を捨てた男と喜んでよりを戻そうとする女の子がいるのよ!? 自分がどれだけひよりちゃんを傷付けたか、まるでわかってないじゃないの!」

 

 バチン、バチィン! と音が響く。

 何度も何度も頬を張られ、叱られ続けた俺は、ようやく折檻から解放されると共に涙を流しながらその場に蹲ったが……母親は、俺以上に涙を流していた。

 

「なんでこんな子になっちゃったのよ……? どこで育て方を間違えたの……?」

 

 先ほどまでの荒れ狂う怒りが消えた母親の声からは、後悔と悲しみの感情だけが残っている。

 涙し続ける母は蹲ったままの俺を見下ろすと、静かな声で言った。

 

「明日、お父さんと一緒にひよりちゃんのご両親と話をしてくるわ。これからしばらくは自由なんてないと思いなさい。それに、この程度で許されたとも思うんじゃないわよ」

 

「うぅぅぅぅぅ、うっ、ううっ……!!」

 

 冷ややかだが情を捨てきれない、だからこその深い悲しみがその声からは感じられた。

 実の親ですら味方になってくれないという現実に直面した俺は、ただただ近いうちに訪れるであろう審判の日を想像し、その恐ろしさと絶望に泣きじゃくることしかできなかった。

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