ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
(俺は間違ってない。俺は間違ってない。間違ってないはずなのに、どうして……?)
ひよりに裏切られ、学校の連中にも裏切られ、家族にも裏切られた俺は、あてもなく町を彷徨った果てに花火大会の会場に辿り着いていた。
縁日の賑やかさと明るさに釣られてふらふらとその中に紛れ込めば、楽しそうな客たちの笑顔が目に入ってくる。
友達と、家族と、恋人と……一緒に祭りを楽しむそいつらの顔を見続けている間に悔しさと苦しさがこみ上げてきた俺は、ぐしゃりと拳を握り締めると人気のない林へと駆け込み、項垂れながら息を吐いた。
「なんでこうなったんだ? どうして……?」
ほんの二、三か月前まで、俺は幸せだった。
バスケ部のエースとして期待されて、ひよりと二奈という二人の女の子と付き合って、モテ男として何一つ不満のない日々を過ごして……輝かしい高校生活を送っていたはずだ。
でも、今の俺は独りぼっち。付き合っていた彼女は寝取られたり連絡が取れなくなっていて、少し前まで期待の眼差しを向けていた部活の仲間たちも今や俺を無視する始末。
挙句の果てに、家族まで俺を信じなくなってて……楽しかった毎日が嘘であるかのようなどん底の日々を過ごしている。
どうしてこうなった? どこで道を間違えた?
何がどうなってこんなことになっているんだと思いながら再び縁日へと視線を向けた俺は、そこを歩く人たちの姿を見つめながら苦悶の呻きを漏らす。
「ひより……!」
いつからだろう? あいつと一緒に祭りに行かなくなったのは。
昔はひよりの親とウチの両親と一緒に花火大会や祭りで遊んだ記憶がある。
だけど、小学生の頃にはもうそれぞれの友達と遊ぶようになって、中学生になる頃には完全に男女のグループで分かれてた。
それを打破できる機会があったとすれば、去年だったのかもしれない。
晴れて恋人になって、付き合うようになったのだから、二人で花火デートを楽しめば良かった。
でも、この祭りは中学の連中も遊びに来てたから、それでひよりと付き合っていることがバレてからかわれるのが嫌だった。
だから結局、去年の夏祭りもそれぞれの友達と遊びに行ったんだっけか。
(今頃ひよりは尾上と遊んでるんだろうか。俺ともしなかった花火デートを、二人で――)
少し前、遊佐から言われたことを思い出す。
僕が先に好きだったのに……じゃない。俺が先にひよりと付き合ってたんだ。
花火デートも俺がするはずだった。お泊りもセックスも俺がひよりとするはずだった。なのに、なんでこうなってる?
ひよりと付き合っていたのは俺だ。それなのに、どうして尾上がひよりと幸せに、楽しそうにしてるんだ?
あいつは……俺からひよりを奪った、最低最悪の寝取り男じゃあないか。
(なんで誰もわかってくれない? どうして俺ばっかり不幸になる? 悪いのは、全部尾上なのに……!!)
悔しい。つらい。悲しい。酷過ぎる。
俺は被害者なのに、誰もそれをわかってくれない。父親は共感を示してくれるけど、母親を前にすると何も言えなくなって駄目だ。
気が付けば、俺を導いたはずの祭りの賑やかさと明るさが俺のことを苦しめるようになっていた。
縁日を楽しむ人々の顔を、楽しそうなその表情を見ては言いようのない虚しさを感じていた俺は、あるものを目にしてはっと息を飲んだ。
「に、二奈……? それに、あれは……!?」
縁日を楽しむ人たちの中にあった、見知った顔……バスケ部のマネージャーにして、俺の彼女の紫村二奈がそこにいた。
その隣にはバスケ部のキャプテンの姿もあって、二人はとても親し気な雰囲気で並んで歩いている。
よく見れば、二奈はキャプテンの腕に自分の腕を絡めて、胸を押し当てていて……上手く言えないが、誘惑するような眼差しを向けてもいた。
「なっ、なんで……? どうして……?」
二奈は俺の彼女のはずだ。それなのに、どうして俺に黙って他の男と二人きりで遊びに来ている?
連絡先やトーク履歴が消えていることも含めて、わけがわからないことばかりの状況に陥ってしまった俺は、二奈がキャプテンの肩に自分の頭を乗せるようにもたれ掛かる様を目にして、力なくその場にへたり込んでしまった。
「ま、また……奪われた。俺の、彼女を……他の男に寝取られたぁ……!!」
今の二奈の様子と、連絡が取れなくなったことを考えれば全部わかる。二奈はバスケ部のキャプテンに奪われたんだ。
俺が尾上を警戒している間に、他の男が二奈に手を出していた。最後に二奈に会った時にはもう、ほとんど寝取られ寸前だったんだ。
好きな女を寝取られて悔しがるだけの情けない男……遊佐を説得しようとした時に言った言葉を思い出した俺は、他でもない自分がそれに成り下がっていることを自覚すると共に涙を流しながら地面へと拳を叩きつけた。
「うぅぅぅぅぅ……! ぐすっ、ひっく……! うあぁぁぁ……っ!!」
悔しかった。苦しかった。友達も信頼も楽しい日々も彼女も、全部を失ったことがつらくてつらくて堪らなかった。
いったい、どうしてこうなった? なんで何もかもを失う羽目になった? どうして誰も、被害者である俺を慰めてくれるどころか離れていくんだ?
気が付いた時にはもう悲しいという感情だけが心を占めていて、涙や鼻水といった全てが体からとめどなくあふれていく感覚に抗う気にもなれなくて……俺はそのまま、泣き続けた。
やがて、見回りに来た祭りの運営委員に見つけられ、本部へと連れて行かれる時もその後も……もう何も考える気持ちになれなくて、ただただ無気力に呟きながら涙を流し続けるのであった。