ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ひよりさんとお祭りとかき氷

「雄介くん、あそこにかき氷屋さんがあるよ! さあ、食べよう!」

 

 キラキラと瞳を輝かせるひよりさんが指差す先には、縁日の定番であるかき氷の屋台があった。

 確かにあれを食べないとお祭りに来た感じがしないよなと思った僕は、ちらりと遊佐くんたちの様子を伺う。

 

 見た感じ、彼らは型抜きに没頭しているようで、まだまだ移動する気配はない。

 これならばかき氷を買ってくるだけの時間は十分にあるだろうと判断した僕は、ひよりさんに向かって頷くと共にかき氷の屋台に並んだ。

 

「そういえばだけど、甚平似合ってるね! 雄介くんの部屋に飾ってあったポスターの選手のユニフォームと同じ色だ!」

 

「あはは……! 別に狙ったわけじゃないんだけどね」

 

 屋台に並んでいる間、ふと僕の方を見たひよりさんが笑顔で言う。

 確かに黒に白の差し色がちょこちょこと入っているこの甚平はあのチームのユニフォームの色と似ているなと思っている間に順番が回ってきて、僕たちはお金を渡して山盛りのかき氷を受け取った。

 

「雄介くん、シロップの味は何にする?」

 

「う~ん……メロンかな~?」

 

 どうやらここの屋台は店先に置いてあるシロップから好きなものを好きなだけかけていいようだ。

 イチゴにメロン、ブルーハワイにレモンやらのシロップを見つめながら、適当にメロン味のシロップを大盛りのかき氷へとかけていく僕の隣では、ひよりさんがイチゴ味のシロップを自分のかき氷にかけていた。

 

「ひよりさん、イチゴ好きだね。なんか、見る度にイチゴ味のものを食べてる気がする」

 

「あはは、確かに! スイーツバイキングもこの間のかき氷も、どっちもイチゴ関連だね!」

 

 真っ赤に染まったかき氷に使い捨てのスプーンを突き刺し、口の中に放り込む。

 ん~っ、という満足気な呻きを漏らしたひよりさんは、同じくメロン味のかき氷を食べる僕へと声を弾ませて言った。

 

「この間の専門店のかき氷も美味しかったけど、お祭りで食べるならこっちだよね~! うまうま~!」

 

「そんなに急いで食べると、頭痛くなっちゃうよ? 気を付けてね」

 

「大丈夫だって! そんな子供みたいな失敗するわけないじゃん!」

 

 パクパクと美味しそうにかき氷を食べるひよりさんをそんなふうにからかってみれば、彼女は笑顔でそう答えた後でふざけた様子で早食いしてみせ……直後、顔色を変えて頭を押さえ始めた。

 やっぱりそうなったかと苦笑しつつも気遣いをしながら話をしていた僕は、こちらを見ていたひよりさんが不意に吹き出したことに困惑し、彼女に尋ねる。

 

「ひ、ひよりさん? どうかした? 僕の顔に何かついてる?」

 

「いや、顔じゃなくって……雄介くんの舌、緑色になってるの面白いな~って!」

 

「舌……?」

 

 そう言いながら僕が手にしているかき氷のカップを指差したひよりさんの様子を見て、何が起きているのかをようやく理解する。

 どうやら、今の僕の舌はメロン味のかき氷のシロップのせいで緑色に染まっているようだ。

 

 昔、弟たちとシロップの色に染まった舌を見せ合って大笑いしたなと懐かしい思い出を振り返る中、ひよりさんもべーっと自分の舌を見せつけてくる。

 

「ねえねえ! あたしの舌、どうなってる?」

 

「ん? う~ん……あんまり変わってないかな? ほんのり赤っぽくなってる感じ」

 

「ありゃりゃ、残念。やっぱイチゴ味のシロップって変化少ないな~」

 

 少し残念そうにしつつ、舌を出しているひよりさんをじ~っと見つめる僕。

 その視線に気付いた彼女は恥ずかしそうに舌を引っ込めると、僕を見上げながらこう言ってきた。

 

「ちょっと、見過ぎだって……! あたしからしたこととはいえ、恥ずかしいじゃん……!」

 

「あはは、ごめん。ひよりさんの舌、ちっちゃくてかわいいな~って思ったら、つい」

 

「んっ……! なんか雄介くん、浴衣も食べる姿も舌も、あたしの何を見てもかわいいって言うじゃん」

 

「好きな女の子はどんな姿でもかわいく見えるんだよ。浮ついた男心ってやつ」

 

「あぅ……! なんか最近、雄介くんの愛情表現が直球になり過ぎてる気がするんだけど……? いや、嬉しいけどさ。攻守が逆転されててちょっと悔しいんだよなぁ……!!」

 

 そう言いながら、ひよりさんがわずかに中身が残っているかき氷のカップを赤くなった頬に当てる。

 熱くなってしまったそこを冷ましながら、悔しそうに僕を見つめる彼女に余裕の笑みを返す僕の耳に、遊佐くんの声が響いた。

 

「良し! 型抜きは全員失敗したな! そろそろ行くか!! あっ、トイレは今の内に行っておけよ? もう少ししたら、花火の時間だからな!」

 

 失敗したのに良し、なのかと苦笑しつつ彼の方を見ていた僕は、再びひよりさんに裾をくいくいと引っ張られて彼女へと振り向いた。

 そうすれば、少し恥ずかしそうにしながらこちらを見上げるひよりさんの姿があって、僕は彼女へと問いかける。

 

「ひよりさん、どうかした? トイレに行きたいとか?」

 

「そ、そうじゃなくって……悪いんだけど、遊佐くんに歩くペースを落としてくれるよう、頼んでもらえないかな?」

 

「歩くペースを?」

 

「うん。男子たちのスピードに合わせるの、ちょっとしんどくってさ……」

 

 ひよりさんのその言葉に、僕はああと呟きながら納得する。

 僕は既に癖みたいな感覚で彼女の歩く速度に合わせるようになっているが、他の男子たちはそうじゃない。ふざけ合いながら、はしゃぎながら、ずんずん先へと進んでしまう。

 

 元々、小柄なせいで歩幅も小さいひよりさんだが、今日は浴衣や履物といった慣れていない服装もあってか普段よりもさらに歩くペースが落ちている。

 多分だが、他の女子たちもそうなのだろう。熊川さんや鉢村さんといった体力がある子たちを除くと、女子たちの顔色にはわずかにだが疲弊の色が浮かんでいた。

 

「わかった、ちょっと言ってくるよ」

 

「ありがとう。あと、ごめんね」

 

 謝る必要なんてないのに、と軽く手を上げてひよりさんに伝えた僕は小走りで遊佐くんの下へと駆け寄る。

 トイレに行くクラスメイトたちを確認し、彼らを見送っている遊佐くんの肩を叩いた僕は、振り向いた彼へとひよりさんからのお願いを伝えた。

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