波導使いを経てXYの主人公に転生したけど、取り敢えず最強目指す 作:バイオブロリー
俺の一日は朝日が昇る前から始まる。
夜明け前に目を覚ますとまず基礎的な体力トレーニングを行い、次に波導使いとしての技術的な鍛錬。
それから瞑想を経て心身を整えた後に朝食を摂り、それからセレナと一緒にサイホンレーサーになる為の朝練が殆ど毎日欠かさずに行われていた。
我ながら中々ハードなスケジュールだと思いつつも、前世からの慣れもあって特に苦痛に感じる事はない。
それに俺の波導使いの力には他と少し異なる秘密があった。
前世では兎に角生き残る確率を少しでも高める為に必死で力を磨く中で、前々世の記憶を持つ俺が有していたアドバンテージ。
それは気やチャクラといったポケモン以外に登場する波導に似た概念の能力も試行錯誤出来た事だ。
勿論そんな都合よく全てが転用できる訳ではなかったが、中には僅かばかりの例外もあった。
その最たるものが『ジョジョの奇妙な冒険』における波紋法だ。
波導と同じく振動に基づいた力という類似点から、呼吸法ではなく波導によって血液に発生させる特別な波紋を再現。
吸血鬼に対する特効性は確かめようがないが、それ以外は波紋法と殆ど同質の力を俺は実現していた。
波紋法は元来の波導を遥かに超えた生命エネルギーの活性化を促し、著しい身体能力の向上を齎す。
それに加えて怪我の治療も可能となるので、多少無茶なトレーニング程度では何ら身体に問題は生じない。
また潤沢な生命エネルギーは波導にも還元される事となり、結果的に波導使いとしての力も大きく上昇する事となった。
波導使いと波紋使い。
俺はこの二つの力を併せ持っていたからこそ、前世の最期では伝説のポケモンを相手に曲がりなりにも足止めする事に成功したのである。
流石に今世でもあんな経験をしたいとは微塵も思わないものの、俺自身の主人公かもしれないという立ち位置や世界の在り様を考慮するなら色々と備えておくに越した事はないだろう。
このように波導使いとしての修行を続けると同時に、俺は改めてポケモンに関して学び直す日々を送っていた。
二度ある事は三度あると良く言うとはいえ、更に次の人生まで俺が記憶を引き継ぐかは定かでない。
そんな中で少なからず自分の道を選べる今世において、本当に俺がしたい事は何なのか?
そう自問すれば答えはやはりポケモントレーナーになる事だった。
母さんが俺にサイホンレーサーとして大成する事を期待しているのは十分理解しているが、それでも自分の夢を簡単に譲ることは出来ない。
母さんに認めて貰う為にも、俺は本気で上を目指す為の準備に取り掛かっていた。
ポケモンの知識をしっかりと身に着ける事は大前提として、ポケモンバトルのルールに対する理解も深めておく必要がある。
そうこうしていると日々はあっという間に過ぎていき、気付けば俺は九歳になっていた。
カロス地方ではトレーナーとしてポケモンを所持する事が許されるのは十二歳から。
そして旅立ちまでちょうど後三年を迎えた春先、俺は運命的な再会と出会いを果たす事になる。
この日は起きた瞬間から、何やら妙な胸騒ぎがあった。
胸騒ぎと言っても不安を煽るようなものではなく、何か良い事が起きる前触れのような予感めいた感覚。
その直感に従って俺は早々に身支度を整えると、日課であるトレーニングに出掛ける。
いつも通り家を出ると、まずは一時間余りのランニング。
まだ日も出ておらず星明り以外は殆ど真っ暗に近いが、波導で周囲を探る訓練も兼ねているので問題はない。
敢えて足場が悪い場所を選定したコースを俺はスピードを一切緩めることなく駆け抜けてゆく。
しかしその途中で俺はある異変を捉えた。
少なくとも今回の転生を経てからは感じた事がない桁外れに強い波導。
前世の経験を踏まえるなら、これ程の波導を持つ者へ迂闊に近づくような真似は決してしない。
だが自然と俺の足はランニングのコースを外れて、その波導の主に向かって突き進んでいた。
そんな事は有り得ないという疑念と、決して拭い切れない懐古の念。
二つの思いが鬩ぎ合う中、俺が辿り着いた先で目にしたのは……。
「……そうか、こういう事もありえるのか」
気付くと俺は星明りも遮られる鬱蒼とした森の中にいた。
その中で生い茂った木の葉の隙間を縫うようにして差し込んだ一筋の光。
ちょうどその光明に照らされた先にポケモンのタマゴが佇んでいる。
さっき俺に届いた波導は間違いなくこのタマゴのものだった。
ただしタマゴである事からも察せられるように、先程のような強い波導はもう感じない。
ならばあの強烈な波導は何だったのか?
それは他ならぬ俺を呼んでいたのだという事が今は確信を持って断言できる。
まだタマゴが孵るには時間が掛かりそうだが、この波導の持ち主を俺が間違える筈がなかった。
まだ人とポケモンが隔たれていた時代。
しかし中には例外もあり俺と相棒もその一例だ。
同門の波導使いとして共に学び時には競い合いながら、いつしか俺達は互いに唯一無二の存在となっていた。
しかし俺達がずっと共に在る事を世界は許さなかったのだ。
俺達が暮らしていた地方に突如として舞い降りた災厄。
あまねく生命に対して死を振り撒く災厄を前に、人もポケモンも生き残る為には他の地へ逃げ延びる他なかった。
だが人智が及ばない強大な力を持つ存在が相手では、それを成し遂げるのも容易ではない。
災厄を少しでも足止めすると同時に、当てのない旅路における人々やポケモンの護衛。
波導使いの古き誓約に従って俺達はその任を請け負う事になり、そこで俺と相棒の道は分かたれたのだった。
そして現在、このタマゴから発せられた波導は間違いなく相棒と同じものである。
まだタマゴであるせいか波導を読んでも相棒の心の内を全て察する事は出来ないものの、喜びの感情で満ち溢れていることは間違いない。
もちろん俺も同じ思いであり、まさか転生して再び相棒に巡り合えるとは思ってもみなかった。
これがもし神様の思し召しなのだとしたら、粋な図らいに感謝せざるを得ない。
尤もその神様があの存在なのだとすれば、少なからず邪推も抱かずにはいられないが……。
とにかく相棒の顔を早く見たいという思いが募るが、こればかりは変に焦っても仕方ない。
無事に生まれるその時まで今は静かに相棒の事を見守っておく事にしよう。
俺はタマゴを抱きかかえると、今日のトレーニングはひとまず切り上げ家へと帰るのだった。
家に帰ってセレナが起きてきてからは、それはもう大変だった。
兄妹の内一人だけが珍しいものを持っていれば羨ましがるのも当然と言えば当然であり、俺が持ち帰ったタマゴを見てズルいズルいと喚き立てられたのである。
しかし普段は何だかんだセレナを甘やかしてばかりの俺も、今回ばかりは譲ってやる訳にはいかない。
そして俺が珍しく言うことを聞いてやらなかったもんだから、セレナは余計にご立腹の様子であった。
「だったらアナタもカルムと同じように早起きして、一緒に走ってきなさい!」
だが我が儘を見かねた母さんの怒声を以って、セレナも押し黙る他なかった。
可哀想ではあるが、致し方ない。
ただ以前までと違って最近のセレナが本気でポケモンに興味を持ち始めたのは確かだ。
俺が将来の為に色々とポケモンに関する調べ物をしていると、大半はその隣でセレナも一緒に勉強するようになっている。
それはきっとポケモンが大好きなサトシと頻繁に交流を持つようになった影響もあるのだろう。
今回の件も只の我が儘で済ませてしまうと、セレナの今後に影を落としかねない。
取り敢えず俺はセレナと一緒にタマゴの面倒を見ることを提案すると共に、もし同じような機会があれば次はセレナに譲ることを約束した。
セレナもそれで一応は納得してくれたようで、早速タマゴを探しに行こうと急かされる。
「二人ともちょっと待ちなさい!今日はお隣さんが新しく引っ越してくるから、一緒に挨拶するって話を忘れたの?」
「そんな話されてたっけ?」
「全く!カルムもしっかりしてるように見えて、自分が興味ない事以外は全然話を聞いてないんだから!そこのお嬢さんがカルムと同い年らしいから、仲良くして頂戴って話したでしょ?」
……反論したい所だが、本当に記憶がない。
それから少し時間が経ってチャイムが鳴り、まず最初に母さんが玄関に向かう。
しかし挨拶しろいう話だったのに何時まで経っても呼ばれないので、俺はセレナと一緒に様子を確認しにいく。
そして俺達が顔を出すと同時に玄関で固まっていた母さんに続いて、その場にいた全員が固まる事になるのだった。