余命僅かって理由でパーティーメンバー全員追放したら訳わからんことになった 作:大蛇丸Daisuke
ウチは天才魔法使い
だからこそ、ウチは魔法が好きじゃなかった。
メルティ・アバルダス。
ウチは望まれて生まれてきたわけじゃなかった。
公爵家の当主と、しがない平民の侍女との間に生まれてきたのがウチだった。
公爵と平民じゃ、あまりにも身分が違いすぎる。
本来なら妾にも慣れない身分だったのに、公爵家当主──父上は母を周りの反対を押し切って妾として娶った。
当たり前の話よね。
そんなことしたらさ、正妻から母が疎まれ憎まれることなんて明白だ。
聡明な公爵。そう言われているはずの父上は、愛に呑まれて正気を失っていたのだ。
「妾のクセに……ッッ!! 卑しい血が半分流れているお前など、死んでしまえば良いッッ!!!」
ウチが三歳の頃。
たまたま出くわした正妻──シンディ・アバルダスはウチに向かって憎しみを迸らせながらそう言った。もう、父上からの愛が向かないことを分かってしまっているから。
「でも、残念なことね。生憎とわたくしの息子は魔術の才を授かったの。きっと将来の当主はあの子になること間違いないわ。そうなったら……公爵家はわたくしのモノになる……!!」
ベラベラと公爵家に叛意があることを喋るものだ、と当時のウチは呆れた目線をシンディに向けていた。きっと三歳の子どもに何もできまいと決めつけた上で怒りをぶつけているのだろうが。
現にそれは間違っていない。
ここでウチが父上に密告し、父上が激昂してシンディに何かしたもんなら憎しみは再び燃え上がり、ウチや母に被害が向かうことは間違いない。
三歳ながらウチはそのことを理解できた。
そんな矢先、ウチが5歳になった頃。
この国では、5歳を迎えた瞬間に【精霊の儀】と呼ばれる精霊を呼び寄せて祝福を受ける儀式をすることになっている。
そして、祝福を授けた精霊の格によって魔術の才能が分かるという寸法になっていた。
……もうここまで言えば分かるだろう。
ウチはシンディの息子よりも絶大な魔術の才を授かった。
【輝炎】と呼ばれる最上位精霊の一つに数えられる精霊に祝福を授かってしまったのだ。
「おおお、よくやった!! よくやったぞメルティ!! お前は我が公爵家の娘として相応しい成果をあげてくれた!! ……ふふ、これでアシュルに当主を渡さなくて済むわ……ふふふ」
やけに嬉しそうな表情でそんなことを宣った父上。
最後の言葉もウチは聞き逃すことはなかった。
父上はこの魔術の才と言う武器を使って、ウチを公爵家の当主に押し上げることを画策しているようだった。
──マズイ、と傍らで息子とともにいたシンディの表情を伺った。
「──ひっ」
……ウチは忘れない。
「どこまでもぉぉ……ッッ、邪魔をするぅぅ…………ッッ!! 許さない許さない許さない死ね死ね死ね……ッッ」
あれほど人の顔は醜く歪むのだと。
憎しみはこれほど積み重なるのかと。
だからこそウチはその場で決めた。
「父上。ウチは公爵家の当主になるつもりはありません」
「め、メルティ、何を!!」
慌てる父上。
それもそのはずだ。
【精霊の儀】には公爵家に連なるものが列席することもあって、この場での宣言には今後を左右するほどの意味がある。
「王国法に従って言えば、貴族家当主の継承権は長男が優先されます。ウチが授かった【輝炎】には劣るといえど、アシュル様の授かった【緑翠】も精霊の格としては上位のもの。ウチはアシュル様が公爵家の当主になるべきだと進言いたします」
「なっ……な……」
ぱくぱくと空いた口が塞がらない父上。
いい気味だと思った。あなたの行動が結果的にウチと母にいらない憎しみを買わせて不幸にするんだ。
「ぷっ……」
そしてウチは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で放心しているシンディを見て思わず噴き出してしまった。
隣りにいたシンディの息子……アシュルもぼけぇっとした表情で突っ立っている。
……これで母とウチは安心して過ごすことができる。
父上の愛がもうシンディには向かずとも、シンディには未来の公爵家当主の母という栄光が待っている。
ウチと母を害することはきっと無い。
そう、安心して十年が経った。
その間、勝手なことをしてくれたと怒り狂った父上によってウチは厳しい魔法の修行をさせられていた。せめて当主にはなれずとも他のことで役に立ってくれと言わんばかりに。
修行は順調だ。順調すぎた。
ウチは周りでは計り知れないほどに才能があったから。
簡単だったから、ウチは魔法が酷くつまらないものだと思っていた。
それでも母の役に立つならそれも仕方ないか、と。
☆☆☆
「今日でメルティも15歳。成人になったわね」
「うん、ママ。ウチはもうお酒だって飲めるんだよ」
「そうね、飲みましょうか」
母は
ウチの大好きな優しい母の表情だ。
初めて飲んだお酒の味はよく覚えている。
普段飲むものとは少し違くて、体が少し熱くなる感触があった。
母もウチと飲むお酒が美味しかったのか、ごくごくと飲み進めていった。
「私も、公爵家当主の母親になれるかもしれなかったのに」
「え──」
ポツリ、と酷く惜しげな声音で母は言った。
ナニヲイッテイル。
「ねえ、メルティ。どうして当主になることを拒んだの? あの時あなたがそんなことを言わなければ私は今頃……当主の母親に……あの人の正妻にだって慣れたかもしれないのに」
その言葉にウチは視界が真っ暗になったような錯覚を覚えた。
どうして、ねぇ。なんでそんなことも分からないの。
「ママ、だってウチが当主になったらウチもママもすごい恨みを買うのよ? 毒を盛られたり、暗殺されたり……」
「…………」
母は考え込むようにその場で少し黙った。
そして、まるで名案を思いついたと言わんばかりに明るい声で言った。
「そうよ!! 危ない奴らは全員燃やし尽くせばいいじゃない!! ──あなたの【輝炎】で!! ふふ、当主になるのよ? あの人だってきっと許してくれるはずよ!! そうよ、最初から気に入らないあのシンディとかいういつまでもあの人に縋り付くクソ女なんて燃やしてしまえば──」
「……あっ」
────同じ、表情をしていた。
憎しみが詰まった。
あの時のシンディのような、醜い表情を母は浮かべていた。
そこに我が子を想う心優しき母はいない。
ただ、ウチの【輝炎】という力しか見ていない母がいた。
☆☆☆
「……はいっ、ただいま冒険者の登録が完了いたしましたっ。パーティー募集はされますでしょうか?」
「いい、ソロでやるわ」
「で、ですが初心者時代のソロが一番危なくて……」
「いらないわ。ウチってどうも、天才みたいだから」
皮肉な笑みを浮かべて言うウチに、
そう、ウチは天才なの。
魔法の才に恵まれて、何でもできるの。
だからこそ、ウチは何でもできるから孤独なの。生まれた時から、孤独であるしかなかったの。
☆☆☆
あの時、成人を迎えた日。
母とお酒を酌み交わした後のことはあまり覚えていない。
適当な返事をその場で返して、急いで荷物をまとめた気がする。
そして、夜闇に紛れてウチは15年育った公爵家を独りでに後にした。
魔法は嫌いだ。ウチの全てを不幸にしたから。
それでも、この力があれば一人で生きていくに困ることはないと分かっていたから。
「お前がメルティってヤツ? なんかウチって天才なんだよねー!! とか言ってソロで依頼受けて森バチボコに燃やして怒られてた魔女って」
──冒険者になってから一ヶ月。
ウチの目の前に胡散臭そうな笑いを浮かべたエルフの青年が現れた。
言っていることは事実だけど、どうにも人を小馬鹿にしたような言い方だ。
「……それが何か? 文句でもあるわけ?」
「いやあるだろ。まず森を燃やすなよ。貴重な薬草とか燃えちまったらどうすんだよ」
「……今度から気を付けるわ」
「4回森を燃やしたヤツの気をつける、って言葉に信用は無いんだよね!!!」
……正直言うとぐうの音も出ない正論だった。
でも当時死ぬほど荒んでいたウチにとって周りの人間は全員敵でしかなく、エルフの青年にも口煩い変な奴と鬱陶しく思っていた。
「じゃあなんなの? 冒険者辞めろって?」
「言っとらんわ。なに、お前って炎魔法以外使えないの?」
「そうよ。何か悪い?」
「良かったなぁ、洞窟の探索依頼とか受けてなくて。秒速で死んでたぞおい」
ははは、と笑いながら馴れ馴れしく肩を叩いてくる青年にウチは心底イラッときた。うるさい、やかましい、余計なお世話だ。
そう言葉が出かかったタイミングで、青年は言った。
「ギルドからの依頼でな。俺がお前に冒険者としてのノウハウを教えろとのことだ」
「そんなのお断り──」
「おおっと、生憎とお前に拒否権はねぇぜ。じゃなきゃ冒険者資格剥奪するってよ。どうにも見る限り、頼れるとこ無いんだろ? 初心者冒険者なんてあんま稼げねーしな」
「…………チッ」
「口が悪いちびっ子だぜまったく……」
またも正論を言われてイラッとくるウチに青年は小さい子どもと接するような口調でやれやれと呆れて笑う。
その余裕ある表情が、どうにもウチには癇に障った。
しかし青年の言う通り頼れるところが無いウチは従うしかなかった。
……けれどウチは天才だ。
どうせすぐに色々とデキるようになって青年は用済みになる。
今までと変わりはしない。
だってウチは望んでない天才なんだから。
☆☆☆
──一ヶ月後。
「──誤射ァァァッッ!!!! あっつ!! いった!! お前なんで毎回俺のケツに魔法当てんの!?!? ケツに恨みとかトラウマあったりすんの!?!?」
「ち、違うわよ!!! アンタが毎回射線にいるのが悪いんでしょ!?!?」
「避けてるよねェ俺ェ!? 魔法がひん曲がって俺のケツを追尾してんだけどォ!?」
「知らないわよっ!!!!」
ぜんっぜんデキるようにならなかった。
どうにもウチは長らく一人で修行していた弊害もあって、周り(※環境も含む)を慮ることができないようだった。
最近はようやく森に引火しないように調整できるようになったけど、なぜかその代わりに青年のお尻が犠牲になっていた。
「教えたよな?? 魔力を調整、放った魔法をしっかりと制御したら、燃やすものを燃やして燃やしたくないものを燃やせないようにできるって。お前、どれだけ俺のケツ燃やしたいの?」
「アンタのケツなんかに興味無いわよ!!!」
ああ、もう、いつぶりだっけ。
こんなに喉を枯らすように叫んだのは。
青年はイライラしてるみたいだけど、正直に言うとウチはこのやり取りをちょっとだけ面白いと思っていた。
毎回お尻に魔法が当たる度に飛び上がって消火する彼の様子が、ウチはおかしくって仕方なかった。
……ん、というかなんでウチの【輝炎】受けて平気なのかしら……。
「ハァ……まあ、前よりも制御できるようにはなったしな。俺のケツで森の環境が保たれてるって考えたらまあ……良くはねぇけどなァ!」
「んもう、わざとじゃないってば……ふふ」
「へいへい、美少女の笑顔が見れるようになって俺は満足ですよー、っと」
「なっ」
ボっ、と頬が赤くなる。
投げやりな彼の言葉に、胸がザワザワとしていた。
……初めてだったから。
対等に接してくれて、ウチのダメなところを指摘してくれた。
そんな人は今までいなかった。
だって、ウチは天才で、何でもできるから。
でも違った。
ウチは天才
今は普通の……魔力の制御が苦手なただの魔女でしかない。
【輝炎】だろうが何だろうが、彼はそんなこと気にしない。
そのことに気が付かせてくれたんだ。
その時から彼はウチの恩人で、大切な冒険者仲間で。
────手放したくない男の人だ。
☆☆☆
だから当然だった。
「──俺の寿命が尽きかけている。もう長くは生きられない」
そう言われた時、心臓がキュッとして。
冷や汗が額から垂れて。
──絶対に嫌だ、って強い感情が浮かんだ。
「やりたいことがあるんだ」
そう言われて、ウチは止めなかった。
恩人たる彼のやりたいことは応援してあげたかったから。
それに──
その気になれば会いに行ける。
「ウチだけが場所が分かる。つまり、あの二人よりも先に彼を手に入れることができるかもしれない……」
エルフの寿命を解決する。
彼はやりたいことを叶える。
その後はウチに時間を譲ってもらおう。
……んふふ、もしかしたら血はあらそえないのかもしれないわね。
ウチは彼に執着してる。
手放すつもりなんて、無いんだから。
輝炎の魔女 メルティ
・だいたいなんでももやせる。
・主人公のケツに誤射してた魔法は一般人が当たったら消滅するレベル。
・クソ強い。
・元々何かに執着、依存するタイプ。
・一ヶ月の間、自分を優先してくれて魔法の楽しさを身を以て(物理)教えてくれた主人公に執着心が湧く。その後諸々あって手放したくなくなった。
・メルティを失った公爵家はその後色々あって没落したとか何とか。
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