余命僅かって理由でパーティーメンバー全員追放したら訳わからんことになった   作:大蛇丸Daisuke

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光滅の魔女 シンリー

 わたくしは神に選ばれし人間()()()

 だからこそ、わたくしは神が嫌いでした。

 

 

 シンリー・ミストルス。

 わたくしは聖都ミルスの法皇の三女として生まれました。

 聖都とは世界最大の宗教【ミルス教】を国教とした宗教国家であり、聖都の皇帝とはすなわちミルス教のトップに位置する法皇さまのことです。

 

 生まれた時のことはよく憶えておりませんが、どうにもわたくしは光輝きながら生まれてきたらしく、光の神であるミルス様のお膝元で……しかも法皇の娘として生まれてきたわたくしに大いなる期待を寄せるのは当然の話でした。

 

 生まれた時から蝶よ花よと周りから愛されて育って、わたくしは何一つ不自由などしませんでした。

 欲しい物があれば一声かけるだけで簡単に手に入る。

 食べたいものがあれば言った日の夕食にそれが出る。

 

 しかしながらわたくしは、それがどうにも────()()()()()()仕方なかったのです。

 

 蝶よ花よと愛される。欲しいものは簡単に手に入る。

 それの何が楽しいと言うのでしょうか。

 

 わたくしは生まれた時から、何かに打ち込んで達成感を覚える機会を常に搾取されてきたのです。努力の喜びを、苦労を、何一つ感じることなく育ってきたのです。

 

「お前を何も考える必要が無いんだ。シンリー、お前は神に愛されて生まれてきたんだ。将来、聖女になるために」

 

 呪いのようにお父様から何度も言われてきた言葉が蘇ります。

 

 聖女とは神の寵愛を受けし存在のこと。

 逸話には死者蘇生すらも叶うと言われるほどの回復魔法を操り、慈愛ある心をもって人々を癒し続けたと言われた聖人のこと……。

 

 お父様は【精霊の儀】にて必ずわたくしが聖女の資質を授かると信じて疑っていないようでした。

 

 だからこそ……そうですね。

 【精霊の儀】でわたくしではない平民の少女が聖女の資質を授かった時のお父様のあの愕然とした表情は……少し見物だったでしょうか。

 

 

「ふざけるな!!! わ、私は周りの者に我が娘こそが聖女の資質を授かると言い回っていたのだぞ!! は、恥をかかせおって……!! 回復魔法ではなく光魔法だと!?!?」

 

 ミルス様は光を司る神であるものの、この国で言う光とはすなわち回復魔法を指すことで、わたくしが授かった光魔法の才能というのはお父様にとっては都合が悪くて仕方ないものでした。

 "光"と言っているのにそれを否定するのは、ミルス教の教義としてはどうなのでしょうか? と純粋な疑問を覚えながら。

 

「お、おのれ、お前は事故で死んだことにする!! 二度とその顔を私に見せるな!!!」

 

 本当に殺さないのは父親としての最後の慈悲だったのでしょうか。

 そうしてわたくしはとある一室に監禁されました。

 生活に不自由はしませんでしたが、外に出ることの一切を禁じられたのです。

 

「別に、全てがどうでも良いのですけれども」

 

 どのみちわたくしは生まれながらにやり甲斐を搾取されてきた人間です。それが再び奪われたとしても、わたくしには全てがどうでも良いことでした。

 

 生まれた時からわたくしは無駄に賢かった。  

 だからこそ、全てを理解して諦めるのは簡単でした。

 

 人は落差に弱いと聞きます。

 ですが、蝶よ花よと愛されている時すらも"幸"と感じることはなかったわたくしにとって、監禁されたとて落差を感じることはありません。

 元々わたくしは自由が無かったのだから。

 ただただ監禁する箱が変わっただけ。それに過ぎない。

 

「ふ、ふふ……この小説のように、誰かが都合良く助けてくれることなど、ありはしないですのに」

 

 退屈な監禁生活を支えていたのは、市井に溢れる様々な本でした。学術書から魔法書、はたまた冒険譚や恋愛劇など様々な種類の本。

 その中でわたくしは恋愛劇を好んで読んでいました。

 

 現実にそんなことは起こり得ない。

 だからこそ、創作物として読むには丁度良かったのです。

 

 ですがまあ……わたくしにも普通の女の子みたいな感性はあったようでして。

 

「わたくしにも白馬の王子様が……あり得ませんか」

 

 期待はしません。今更そんな期待は。

 ですが、妄想くらいは許してほしいものです。監禁生活は酷く退屈なのですから。

 

 

「ああ……そうですね。現れるとするならば、エルフ……エルフが良い。永劫の若さと美貌が約束される美しいエルフが……」

 

 なんてことを考えながら過ごすこと17年。

 わたくしはすでに22歳と立派な大人への成長していました。

 

 その間ずっと部屋にいました。

 

 ですので──わたくしがその……かなり太ってしまうのは当然の話と言いますか……。

 

 ああ、勿論部屋には備え付けのトイレとシャワーはありましたから、清潔感には問題はありませんよ?

 ですが、そこまで広くない部屋で十分な運動をすることはできませんでしたし、自己を磨き上げる意味を監禁生活に見出すことができなかったゆえの怠惰と言いますか。

 

「こんなわたくしを見て救い出してくれる白馬の王子様はいませんわね」

 

 なんて自嘲をしていた。

 そんなある日────、

 

 

「うおあぁぁぁああ!!!! あのバカ野郎め俺じゃなきゃ完全に死んでるぞクソッタレ!!!」

 

 パリーンっ!! と小気味良い窓が割れる音とともに、一人の青年が部屋に転がり込んできました。

 

 くすんだ青色の髪に美しい翡翠色の瞳。

 エルフの特徴的な尖った耳と、均整の取れた体つき。

 

 その青年は、わたくしが望んだ白馬の王子様でした。

 ……侵入方法と言葉遣いで大きく減点でしたが。

 

 青年は驚いた顔をするわたくしを見るなりバツの悪そうな表情をしました。

 

「あ~~~、驚かせたよなマジでごめん。一応怪しいもんじゃなくてな……冒険者なんだけど仲間の魔法に被弾したらここまで吹っ飛んできちまったもんで……」

「よく死にませんでしたわね!?」

 

 そんなことあります??

 私の監禁されている場所は街の端っこの尖塔の一部屋です。

 確かに青年が飛んできた方向は魔物が多く潜む森で、冒険者の方々にとってはホットスポットですが……最上階まで飛ばされる魔法に被弾して無傷とはそれいかに……。

 

「……えーと、あの。弁償とか勘弁していただけるとありがたいなぁって……あ、あと怪我してない? 大丈夫?」

「ふふ……飛び込んできた方法とは違って随分と腰が低いのですわね」

「いやアレは不可抗力っていうかさぁ」

 

 ははは、と笑う青年にわたくしは久しく躍らなかった胸がドキドキと鼓動を奏でていくのを感じていました。

 ──白馬の王子様だ。白馬には乗っていないし王子様でも無さそうだけれど……おまけにわたくしを助けに来たわけではないとしても、わたくしはそう感じていました。

 

 だってカッコいいんですもん。

 

 外見も服装も完璧で……ん?

 

「なんでケツ丸出しですの!?!?」

「あぁ。いつものことなんだ。気にしないでくれ」

「無理がありますわよ」

 

 王子様はお尻の部分が焼け焦げていて、ぷりっと二つに割れたお尻が丸出し状態にありました。……いつものことってどういうことですか?

 

 えぇ……と困惑するわたくし。

 すると、居心地悪そうな顔をした青年が「よいしょ」と腰を上げるとわたくしから視線を外した。

 

「じゃ、色々と邪魔して悪かったな。俺はそろそろ──」

「──ま、待ってください!! わたくしを……わたくしを連れて行ってください!!!」

「ほぇ?」

 

 ──千載一遇のチャンス。

 脳裏にその言葉がよぎる。

 

 思わず呼び止めたわたくしに、青年は呆けた表情をしながら首を傾げた。

 

 そして、動きの止まった青年にわたくしは事情を説明する。

 親から期待されて育ったが、期待に添えなかった結果としてこの部屋に監禁されてしまったこと。

 

 わたくしが法皇の娘ということは隠して事情を説明した。

 

 ……きっと、見ず知らずの人がそんな厄介事の塊みたいなわたくしのことを助けることは無いと、わたくしは分かっています。

 騎士でも王子様でもない冒険者。

 

 彼にわたくしを助ける義理も無ければ何も無い。

 きっとわたくしが逃げたと分かれば、お父様は自身の醜聞を隠すためだけに連れ戻そうとしてくる。そうなれば追われる身だ。

 

「いえ……すみません。わたくしを助けてしまえばあなたも追われる身になってしまう。……すると、この周辺で活動することはもうできないでしょう。……無理なご相談をしました。今のことは全て忘れてくださ…………い……?」

 

 ────気づくとわたくしは青年に抱き抱えられてました。

 はえ……? お姫様抱っこ?

 

 今のわたくしはお姫様ではなく豚ですが。

 

 

「俺は基本的に自分を覆い隠して嘘を付く女の子が苦手なんだ。お前の()を俺が破って期待させちまった分、救い出す義理が俺にはある」

「────っ」

「しっかり掴まってろよ」

 

 ふっ、と笑う青年の姿に──わたくしは見惚れてしまった。

 容姿の美しさじゃない。その青年の、あまりにも優しさに溢れた笑顔にわたくしは救われて──惚れてしまったのです。

 

 

 

「────ぎゃぁぁあ!!!!」

「ひっでぇ悲鳴」

 

 

 飛び降りる際に全力で悲鳴をあげてしまったのはわたくしの人生における最大の失敗でしょう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

「ふーん、その豚を新しいパーティーメンバーにねぇ?」

「ぶ、豚……これから痩せますので……」

 

 青年のパーティーメンバーに女性がいたことは少しだけガッカリしましたが、どう見ても子どもにしか見えなかったのでそこら辺は大丈夫でしょうかと失礼なことを思いました。

 そうしたら百倍くらい失礼なことを言われてしまいました。

 

 まあ今のわたくしは豚で間違いありませんが。

 ……まずはパーティーメンバーたる赤毛の女の子……メルティさんと打ち解けなければなりませんわ……と発奮したところで、青年がメルティさんにわたくしの事情を伝えます。

 

 すると、だばー、と涙を流してメルティさんはわたくしの肩をポンポン背伸びしながら触れてニッコリと笑顔を向けてきました。

 

「勝手に期待されるのは辛いわよね。わかる、わかるわ……豚とか言ってごめんね。これからは一緒のパーティーよ」

「め、メルティさん……!!」

 

 や、やさしい……。

 わたくしは一瞬でメルティさんを好きになってしまいました。失礼なこと考えてごめんなさい……。

 

「さ、打ち解けたところでまずはシンリーの特訓だな」

「ええ、何でもしますわ〜!」

「うん、じゃあ死ぬほどキツイけど頑張ろうな」

「えっ」

 

 

 そうして始まった特訓は想像を絶する辛さでした。

 辛い、痛い。筋肉痛がヤバい。

 

 けれども、搾取されていたやり甲斐が今の環境にはあまりに溢れていました。辛くて痛いけど、わたくしは楽しくて仕方ありませんでした。

 

 

☆☆☆

 

「こりゃ驚いたな……」

「シンリー、あんた全然前と違うわよ」

 

 特訓を初めて半年。

 わたくしはすっかり痩せていました。

 

 鏡で見た自分の姿は本当に自分なのかと疑うほどでした。

 その美貌は疑うまでもなく、青年が若干わたくしの顔をチラ見して頬を染めるくらいには効果的なものでした。

 

 ふふふ、これならお姫様として、相応しいでしょうか?

 

 わたくしの未来はずっと明るい。

 この人たちといる限り。

 

 そう、思っていました。

 

 

☆☆☆

 

 だからこそ。

 

「──俺の寿命が尽きかけている。もう長くは生きられない」

 

 そう言われた時は、まるで自身の半身が失われるような喪失感と絶望が襲いかかってきて。

 

「きょ、教会の聖女さまなら……!!」

 

 かつて捨てた聖都に頼ることすら考えるほど……青年が助かるのであればまた監禁生活に戻っても良いと思えるほど……わたくしはもう青年がいないとダメな体になっていました。

 

 ……絶対に助けてみせますわ。

 決められた寿命を乗り越える話なんて、どこにでもありふれている。きっと方法を探せば。

 

 ()()()()()使()()()()()

 

 

 ……メルティさんがパーティーの追放を受け入れた時、わたくしは彼女が本心からそう言っていることではないのを見抜くことができました。

 なぜなら、恐らくパーティーで一番青年に執着しているのはメルティさんのはずです。

 

 恐らく彼女には、何らかの方法で青年の位置を捕捉する手段があるのでしょう。

 

 

 

 ──無論、わたくしにもあります。

 光魔法【旅の灯火】。

 

 本来は道案内をする魔法を独自改良したわたくしは、この魔法を【ストーカー魔法】と名付けました。

 

 名の通り、これは魔法をかけた人物を永劫に捕捉し続けて位置を知らせることができるものです。

 

 生憎と正確な座標を伝える追跡魔法ではないので【空間魔法】で転移することはできませんが……追いかけるには十分な魔法です。

 

 ……今はとりあえず好きに動いてくださっても構いません。

 ですが、わたくしはあなたを絶対に諦めることはない。

 

 もう好きになってしまった。

 あの時わたくしを世界一カッコいい言葉で救ってくれた。

 

 あぁ、どうしてパーティーを追放された程度で諦めなければならないのか。

 

 絶対にあなたを手に入れます。

 ……まあ、その中にメルティさんもアンネさんも入れても良いと思えるほどには二人のことは好きですがね。

 

 

 ふふふふふふふふ……待っていてくださいね。

 わたくしはあなたを必ず救ってみせます。

 

 この命に代えてでも。

 

 




光滅の魔女 シンリー

・だいたいなんでもしょーめつできる。
・クソ強い。
・誰よりも神に愛されたが、誰よりも神に人生を狂わされた。
・17年も監禁されて正気を保ってたのはすごい。
・主人公のことを純粋に一番好きなのはコイツ。
・自分をその時一番欲しい言葉で救ってくれて、尚且つパーティーにも入れてくれて。彼女の努力を一番側で支えた主人公のことを手放す気は一切ない。
・メルティとアンネのことも大好き。
・主人公はバカではあるが、何となくシンリーが聖都の中で特別な存在であることは把握している。
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