余命僅かって理由でパーティーメンバー全員追放したら訳わからんことになった   作:大蛇丸Daisuke

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主人公の掘り下げを他者視点でやっていくムーブ。


握撃の魔女 アンネ

 私には何も無か(・)っ(・)た(・)。

 だからこそ、誰よりも自信が無かった。

 

 アンネ・ニャストラル。

 私は人里から遠く離れた山に昔から住んでいる部族──ニャンピオ一族の族長の娘として生を受けた。

 ニャンピオ族は高い身体能力を持つ獣人族で、成体になれば身体能力強化魔法無しで大岩すら素手で打ち砕くと言われているほどに力が強い。

 この力に身体能力強化魔法が乗れば、小さな山程度であれば崩壊させることができるとも言われている。

 

 だからこそ、ニャンピオ族では力こそが正義だった。

 頭の良さ? 身長? 体重? 魔力? ……全て違う。

 

 一族ではどれだけ他の事柄で優れていても、力が無ければ一人前とは見なされずに恥知らずとして冷遇される。

 頭の良さだって魔力だって、"力"であることには間違いないのに。

 

 物理的な力のみを重視する脳筋一族。

 それが私の生まれた世界だった。

 

 

「……っ、なんと、か弱きことか……! 族長、この娘は筋繊維の密度が従来のニャンピオとは一線を画すほどに弱い……!」

「まさか、俺の娘が悪魔憑きになるとはなァ……」

 

 悪魔憑き。

 それは数十年に一度、一族の特徴である力強さを引き継がれずに生まれてきた赤子を指す言葉であり、悪魔に憑かれて力を奪われたと表する言葉だ。

 

「……娘だろうと一族の掟には従わねェとなァ」

「悪魔憑きは冷遇する。単純ゆえに、その掟は重い……」

 

 悪魔憑きは冷遇する。

 それが一族の掟だった。

 

 悪魔の憑いた者に優しくすることは、すなわち悪魔に与することと同義。それゆえに冷遇し、これ以上一族に悪魔憑きが現れないようにするという掟がある。

 

 

 ──だからこそ、私は生まれた頃から温かな愛情を向けられたことが無かった。一度も無かった。

 常に誰かの冷たい視線が突き刺さる。

 

 その代わりに私は常に生かされていた。

 雨風が隙間から絶え間なく吹き込んでくるボロ小屋に、1日1本の残り物のパン。ほぼ裸同然の麻布で出来た服。

 そして、ある程度の常識と文字の読み方を教えてもらった。

 

 今思えば、教育などは本来悪魔憑きに与えられるものではない。

 だから、きっと父親からの不器用な愛情だったのだろうと思う。

 

 悪魔憑きは15歳になると、外の世界に放流される。

 きっと外の世界で生き残れるよう、父は私に最低限度の教育を受けさせたのだと思う。

 

 教師役は酷く嫌そうな表情だったけれど。

 

☆☆☆

 

 5歳の頃。

 【精霊の儀】を受けずとも精霊を授かった私は、自身に莫大な魔術の才能があることを知った。

 それでも、この村では魔術なんて何の役にも立たない無用な長物であることを察していた私は、このことを誰にも言わなかった。

 

 だから私は、一人で黙々と魔術を修行した。

 それだけが救いだった。それ以外に私ができることなんて何も無いのだから。

 

 

「──ふぅ、ケツに火が付くとはまさにこのことだな」

「…………なに、してるの。誰……?」

 

 13歳の時、村から少し離れた森で魔術の修行をしていた私の元に、エルフの青年が現れた。──お尻に火が付いた状態で。

 どうして燃え盛ってるのに冷静なんだろうか。

 

「【消火】! よう、こんなとこでなにしてんだ。ここらは魔物が強くて危険な地帯だぜ?」

「……村が近くにあるから」

「ははーん、ニャンピオ族か。あそこの生まれなら強いだろうし大丈夫か」

 

 ずきっと、胸の痛みが迸った。

 村の人たちからの冷たい視線と罵りには慣れていたけれど、知らない人に役立たずだと思われるのは少し辛かった。

 けれど私は自嘲するように薄ら笑って言った。

 

「私は……悪魔憑きだから」

「んぁ……? 悪魔の気配なんてしねーけど? あー、ちょっと見せてな」

 

 青年は私を観察するようにジーッと見つめ始める。

 少し居心地悪さを感じていると、青年はポンッと手を打つと得心がいったように笑って言った。

 

「生まれつきの力を魔力に変換して生まれてきたのか! そりゃ悪魔じゃなくて神子(かみご)だぜ! お前は生まれながらに神に祝福されて生まれてきたんだ。ニャンピオの一族は魔法使えねーけどお前は使えるだろ? そういうことだ」

「神子……そ、そんなわけないよ!! 私は生まれた時からずっと役立たずで悪魔で、死ぬべきだって言われてきて……!!」

 

 久しぶりに感情を表に出した。

 青年の言葉を信じることができなかったから。

 生まれた時からずっと悪魔憑きだって冷遇されていたのに、いきなり祝福されて生まれたなんて言われても……もしもそれが本当だったなら、私の今までの人生はなんだったのか。

 

 ぐちゃぐちゃになった頭の中で、私は青年の言葉を否定する理由を探し続けていた。

 

 けれど彼は言った。

 

「生まれによって文化風習は違う。ニャンピオじゃそうだったかもしれねぇが、少なくとも俺のいた場所はお前を冷遇することは無い。第一な、死ぬべきヤツなんてこの世にはいないよ」

「…………っ」

 

 生まれて初めて向けられた慈しみ。

 私は、その時初めて嬉しさから涙をこぼした。

 

「……お前、俺と一緒に来るか? 魔法の修行も個人じゃ限界はある。俺が教えてやるよ」

「……うんっ」

 

 私はその時即答した。

 初対面でも理解できた。このよく利く鼻は嘘をついているかどうかを見分けることができる。

 青年が全て本心から……善意から言っていることが私には分かった。

 

 だから信じてみたかった。

 この青年と一緒にニャンピオ以外の外の世界を歩みたいと私は思えたのだ。

 

 ──しかしそうは問屋が卸さない。

 ざっ、ざっと足音が聞こえる。

 

「困りますよ。悪魔憑きを勝手に連れ出そうとするなんて」

 

 現れたのは嫌そうな顔をしながら教育してくれたニャンピオ族の青年だった。……きっと教師兼、監視役でもあったのだと思う。

 

「悪魔憑きだか何だかこっちにゃ関係ねーんだよ。双方で合意が取れたんだから外野は口出さないでもらってもいいですかー?」

「っ、このエルフ風情が……! これは我が一族の問題だ! 貴様こそ部外者は黙ってろ!!」

「自分の行動は他者には縛れない。この女の子が俺と来ると決めたからには、もう誰にも縛ることなんてできやしねぇのさ」

 

 どうして初対面の私をここまで真剣になって助けてくれようとしているのかは私には分からない。

 けれど、彼が他人の不幸を自分のように悲しんで、他人の理不尽を共に怒ってくれるような優しい人なのは分かった。

 

「……はっ、その立ち居振る舞い。お前は前衛だろ? だとしたら身体能力、技術ともにニャンピオには敵わない。まあ、尤も、魔法使いであっても負けることは無いがな」

  

 ニャンピオの青年は馬鹿にするように笑う。 

 ……確かにエルフの青年が前衛であるなら、力という強大な種族特性を持つニャンピオには絶対に敵わないし、普段魔法をバカにしていることもあって、魔法使いにも負けるわけないという余裕を感じる。

 

 しかしエルフの青年は、私を見て安心させるように笑うと言った。

 

「御託は良いから掛かってこいよ。それともなんだ? にゃんにゃん鳴いて尻尾を巻いて逃げるか?」

「き、貴様ぁぁああっ!!!」

 

 ニャンピオの青年がゴウっと唸りを上げて突撃する。

 足元の地面が抉り取れるほどの速度。あの勢いに当たってはひとたまりもないだろう。

 

「あ、あぶないっ」

 

 思わず悲鳴が漏れ出る。

 ──が、ニャンピオの青年はエルフの青年が指をかざした直後、空中で身動きが取れずに固まっていた。その表情は驚愕に固まっている。

 

「な、何をした……」

「良いことを教えてやろう、若造。世の中にはな、詠唱を破棄して即座に魔法を発動する《クイックスペル》って技術がある。だがしかし範囲が狭く、余っ程のバカじゃなければ当たることはないんだがね。──力一辺倒のバカじゃなければねぇ?」 

「き、貴様ぁぁあっ!!」

 

 はっはっは、と笑ったエルフの青年は、次の瞬間私の手首を引っ掴むと、その場からスタコラサッサと逃げ出した。

 どうやらあの魔法は足止めして逃げるために使ったものらしかった。

 

 しっかし……私を常にバカにしながら冷たい視線を向けてきた男の悔し顔というものは……少しだけ胸がすく思いがした。

 

 

☆☆☆

 

「…………また変なの拾ってきたのね」

「あらあら〜」

 

 こうして私は青年の──センセーのパーティーに入ることになりました!!!

 内気だった性格はすっかり鳴りを潜め、私は今までの反動でとっっても元気になったのです!!

 

「センセー!! どうしてメルティさんの魔法は毎回センセーのお尻ばっかり狙うのでしょうか!!」

「俺が知りたいんだよそんなことはよォ!!」

 

 センセーは恩人です。私の人生を変えてくれた。

 不幸でしかなかった私の人生を、尊敬できる恩師と──信頼できる仲間に囲まれた素晴らしい人生に変えてくれたのです!!

 

 だから私は決めました。

 救ってくれたこの人生、私はセンセーのために使ってみせようと。

 

 センセーの言うことはなんだって聞きますし、どんな命令でも喜んで従ってみせます。……本当はえっちな命令とかもされたいですけれど……そんな気配は全然ありませんし……。

 

 まあ、ともかく私はセンセーとメルティさんとシンリーさんとずっと一緒に過ごすのです!!!

 

 

☆☆☆

 

「──俺の寿命が尽きかけている。もう長くは生きられない」

 

 目の前が真っ暗になりました。

 大事なものが手のひらから零れ落ちる感触。

 

 喪失なんてものじゃありません。  

 センセーの死はすなわち、私にとっても死。

 

 エルフであるセンセーが、まさか私より先に死んでしまうなんて思いもしなかった。……センセーが死んだら私もすぐに後を追って……。

 

「……分かった。アンタがそこまで言うならウチは邪魔しない。──死の間際までウチらに付き合えなんて言えないじゃない」

 

 メルティさん、どうしてそんなことが言えるんですか。

 一番最初のセンセーのパーティーメンバーですよね……?

 そんなの私よりもずっと辛いに決まっていますよね!?

 

「め、メルティさん……!! ……いえ、そうですわね。わたくしは恩人たる貴方の意思に従おうと思います。……せめて、神のご加護があるように祈らせてください」

 

 シンリーさん、あなたもどうして……?

 恩人なのは私も一緒です。私たちは恩人であるセンセーに一緒に報いろうって約束したじゃないですか!!!

 

「アンネ、お前は俺がいなくても十分にやっていける。お前をバカにしていた奴らが今のお前の実力を見たらどう思う? ──腰抜かして平服するだろうぜ!! ……それくらいお前を強くなったんだ。だからさ、俺の出番はここまでだ」

 

 ──そんなこと言わないでよ。 

 センセーはここにいてくれるだけで良いんだから。

 

 諦められない。諦めきれない。

 そんな想いを抱えて辺りを見渡したその時、私は気づいてしまいました。

 

 メルティさんは冷静に装いながらも瞳の奥にグツグツと煮え滾るような激情が渦巻いていて、シンリーさんはニコニコと笑いながらも痛いほどに自身の拳を握り締めていて……。

 

 私は安心してしまいました。

 

 

 

 この人たち、私と同じでまったく諦める気ないじゃないですか。

 

 そうですよね、諦めるわけないですもんね。

 なんだ、安心しました。

 

 きっとお二人は離れていてもセンセー感知できる能力を有しているのでしょう。なら私は安心してお二人の意思に添うことができる。

 

 

「……うん、分かった。ごほん──不肖、このアンネ、センセーの前で見苦しい姿をお見せしましたっ!! 私は……センセーから教わった色々なもので……っ、きっと強くなってみせると……っ、ち、誓いましょう!! ずずっ……!」

 

  

 ──これからも、一緒に強くなりましょうね、センセー。

 

 

 

 私、じゃなきゃ本当に監禁しちゃうかもしれないですから。




アンネ・ニャストラル。

・だいたいなんでもつぶせる。
・クソ強い。
・主人公のことを父親と思ってるけど、この娘は父親に発情するタイプ。純愛だね。
・幼少期の壮絶さの反動で主人公と出会ってから敬語系元気っ娘に変貌した。余裕が無い時は昔の性格に戻る。
・今の力ならニャンピオ一族まとめて皆殺しにできるくらいには強くなっている。

 ニャンピオって言葉の響き、可愛くない?
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