海を歩み水底に還る   作:イエローケーキ兵器設計局

3 / 3
 急遽決まった"呉急行"。行き先は……呉鎮守府。そして邪魔するものは何時だって……


3.クレ・エクスプレス

 あっという間に1週間が過ぎた。お風呂問題も食料補給問題も解決し、補充の提督はようやく着任するんだとか。本土から連絡があったらしい。ただ、問題もあって……どうやら人員輸送用のシーレーンを塞がれてしまっているという。そしてどうやって行くのか、という問題に直面した私たちは……。

 

「セヴァストポリ〜防弾板の固定を確認してくれ〜」

 大型の四発機"深山"に乗ることにした。こんな巨体をどこに置いてあったんだろうとか、なぜあんなに砲爆撃されていたはずなのにこんなにも綺麗なのかとか、気になりはしたけれど整備する妖精さんの顔を見て心の内に留めておくのが吉だとわかった。胴体側面に内張りされた防弾板はもともとなかったものを大急ぎで増設したらしく切削粉や注意書き、下書きの痕跡がそのまま残っていた。

「セヴァストポリさん、防弾板の固定が終わったことを伝えておいてください」

「了解しました」

 加賀さんはあの日こそ取り乱したものの、それ以降は安定していた。

「おっと、すまんな。ありがとう、セヴァストポリ」

 姉さんは爆弾倉に軽空母型の艤装を固定していた。万が一、敵襲にあった時に必要だろうという。海上投下でもするのだろうか?

「妖精さん、整備はバッチリだよ。ありがとう」

 胸を張る妖精さんの頭を撫でる姉さんと、飛行計画を打ち合わせする加賀さん、そして……私は敵襲に備えて機銃の点検。

 

 全てが終わって周囲が見やすい昼過ぎに離陸しようと滑走路に出た時、モンタナさんが走って走って、主脚から機内に飛び乗ってきた。座席は幸いにもまだあるので座ってもらう。

 

 離陸滑走を始めた機体はするすると滑走路を滑る。滑ってぐーんっ、と機体が持ち上がる。

 

 岩礁を越え、島を越え、少しずつ日が傾き出したであろう頃、私達は想定外の暗雲に包まれていた。

「予報にはなかった雲です」

「参ったものだ」

「目印が見えな……きゃっ!」

「掴まって!」

 激しく揺れる機体。宙を舞う鉛筆。浮きそうになる腕で抑えつける地図。乱気流によって機体は激しく揺さぶられていた。急激な機首の上げ下げと横滑り、これも自然現象らしい。あっ、雷が。

 

 暗雲を抜けると私達は知らない空域に居た。

「ここは……」

 巨体を支える地表が雲と霧に隠れて見えないくらい天高く、自機が飛んでいる高度10000m帯(※計器故障の可能性)すらも優に超える山脈がそこにはあった。さっきまでは海面から3000m位の高さを飛行していただったはずなのに……なぜ?

「セヴァストポリ、地図を確認してくれ。ここがどこなのか知りたい」

「了解」

 言われるがままにモンタナさんと地図を見るもこんな地形は初めて見たからどこなのかわからない。

「ガングート、残念だけどここは……何あれ!?」

 航法士席の窓から窓の外を高速で飛行する物体が2つ見えた。そしてそれはモンタナさんも同じだった。

「セヴァストポリ、迎撃準備!指示があるまで撃つな!」

 その時だった。

「伏せて!」

 モンタナさんに(また)頭を抑えられて机の下に隠れると、ズガン!ズパン!という大きな音とともに機体の外板に大穴が開いてしまった。開いてしまったのではなく開けられた、ではあるけれど"開いてしまった"。お陰で雲と戦友になれそうだ。

「ひ、ひぃぃぃ!」

 怖いんですか?と聞くとモンタナさんはゆっくりと落ち着いてきた様子で、怖くないの?と私に聞き返した。私は……あれ、なんで怖くないんだろう?

「あれはなんだ!」

 姉さんの叫びが風の吹き込む機内でもはっきりと聞こえた。インカムがあってもなかなか煩いはずなのに。そして機内は一瞬暗くなって、すぐに明るくなった。

 

 空飛ぶクジラ……いや、巨鳥……怪鳥が上を通過した。そしてその後ろを煙を曳く飛翔体が追いかける。

 

「回避する!」

 急旋回でそれを避けた私達は、天地がひっくり返ってしまう。そしてひっくり返った世界で怪鳥に随伴する所属不明機が形の違う所属不明機を攻撃、火を吹かせて追い払うまでを見た。

 

「ガングート、正面にあの暗雲が」

「よ、よし……掴まれ!また揺れるぞ!」

 

 再び暗雲を抜けると夕方の空に、凪いだ海、いつもの海が広がっていた。

 

 黄昏時を迎え日が沈む中、松山飛行場に満身創痍ながら到着、なんとか着陸した。加賀さんも私達もいつの間にかガラス片や金属片等で傷を負っていた。傷は姉さんは一番酷かったかもしれない。姉さんは右目を基地でもらった眼帯で保護していた。

「ん?これか?あー……ガラス片が目に入ってな。まあ、数日もあれば直るだろう」

 

 厳重な身体検査の後、応接間に通されると一人の女性将校が執務机の向こうに座っていた。向かって左……ヒト一人分離れたところにも机があって艦娘が一人立っていた。おそらくこっちの彼女は副官なんだろうなと思う。執務机の向こうの将校も立った。

「本日、貴官の護送を担当させていただきます、父島第一艦隊旗艦、ガングートであります」

 姉さんが敬礼をすると将校も敬礼する。これが答礼……。

「夏姫少佐だ。よろしく頼む……その目はどうした?申してみよ」

「実は少し道中で問題が発生いたしまして」

「むむ……大淀、少し外す」

「はっ、承知しました」

「ガングート、着いてこい」

「了解」

「大淀、彼女達にお茶を頼む」

 

 

「これがウズワルですか……失礼いたします」

 目の前のソファーに腰掛けた大淀さんは物静かな艦娘で、まるで置物のようでもある。

「呉鎮守府へようこそ、と言いたいところですがここは松山航空基地なので……松山へおいでぞなもし、でしょうか」

 訂正。意外とお喋りさんなのかもしれない。

 

 

 10分経った。まだ帰ってこない。

 

 20分経った。帰ってこない。

 

 30分経った。いらいらする。

 

「セヴァストポリ」

 急な呼びかけに驚いてしまった。私を呼んだのは左隣に座っていたモンタナさんで、何故か手を握られていた。

「セヴァストポリさん」

 それに触発されたのか加賀さんも私の右手を握る始末。向かいに座る大淀さんが少し笑っていたのが少し恥ずかしい。

「仲がよろしいんですね……あっ、特に変な意味じゃなくて」

 まるで姉妹のようで羨ましいです、と付け加えられるまでモンタナさん達の表情が少しだけ強張っていた。

 

 1時間経った。姉さんが夏姫少佐と戻ってきた。姉さんも少佐も表情が少し険しかった。

「帰るぞ、明日から海域調査だ」

 

 滑走路に向かう中で誰も口を開くことはなかった。

 

 来たときより人員が1人増えた深山のエンジンは素直に掛かった。損傷した個所は丁寧に塞がれ、修復度はもはやほぼ新品同然。調子が良い、と姉さんが呟く。

 

「お元気で。おやすみなさい」

 それが大淀さんの提督に掛けた今日最後の言葉。彼女はさっさと降機した。邪魔にならないように。

 

 昇りかけだった月がすっかり昇って、滑走路が闇に包まれてしまっても私達の旅は始まらない。

 エンジンが四基とも火が入って規則正しく回りだした。かなり暫くして機体が滑り始める。積み荷はいつでも投下できるように調整された軽空母の艤装が一つと、内容は知らないがうっかり投下されないよう固定された木箱が4つ。

 

「離陸します、席から動かないでください。ポーボイズを起こしてみんな纏めて死にたいのなら止めませんが」

 滑走路を目指し、機体が滑り始める。窓から目を離し、地図を挟んだ向かいを見ると、座っていた夏姫少佐が目を輝かせた。

「わぁ……」

「飛行機は初めてでありますか?」

「そんなに固くならなくて良いよ、それこそ……敬語はここでは辞めてほしいくらいかな、それで……うん、初めて」

「……よく提督になれましたね」

「よく言われるよ。それにしても君のお姉さん……だよね、ガングート少佐って」

「ぶーっ……!しょ、少佐っ!?」

 思わず噴き出してしまった。

「あれ?知らなかったの……彼女は人間の将校の階級を持ってるよ、それも海軍少佐……まあ、本人は嫌がってるみたいだけどね」

 

 

 今度は乱気流も暗雲も無く、暗礁の上空まで到達できた。あと3時間もかからずに帰れる。

 

 そう思っていた。

 

「ヘッドオン!回避!」

 バコン!バコン!バコン!バリン!今の攻撃で外板がまた剥がれてしまった。

「加賀!起きて!ねえ!」

「要人は引っ込んでおいた方が良さそうね……」

 敵の奇襲により加賀さんが負傷、意識が無い。

「セヴァストポリ!モンタナ!操縦を引き継げ!」

「えっ!私!?」

「そうだ!モンタナ、セヴァストポリと皆を頼む」

「……必ず帰ってきて」

「それは保証できない」

「そんな……あうっ……♡」

「……行ってくる」

「はい……行ってらっひゃい」

 額に口付けなんかしちゃって、急なイチャつきを見せつけられている。最も、姉さんは昨日までスキンシップすら拒否していたと思うけど……。

「本機は海面高度まで降下!掴まってください!」

 モンタナさんが叫び、機体がガクッと傾いて緩降下に入る。

 

「ガングート」

「はい、なんでありましょう」

「私にも」

「セヴァストポリ、少佐を頼む」

「おい!わた」

「突撃!Ураааааааа!」

 姉さんが逃げるように操縦席後方の航法室から滑り出して爆弾倉の扉を開け、たったの3秒で艤装を装着し、水平飛行に移った直後に海へ飛び込んだ。

「……私、私だって……」

 提督とかいう不審者兼最重要積載物を置いて。

 

 姉さんが飛び降りた直後、艦載機含む深海棲艦からのの攻撃はピタリとやんだ。

 

 無事に飛行場に着陸して加賀さんを寿恵ちゃんや基地で待機していた人達に引き継いだ。けれど姉さんは戻ってこない。

 

「捜索艦隊を編成します。第2艦隊はセヴァストポリを旗艦とし……」

 

 日が昇って、日が沈んで、また昇って……1日経った。

 

 海上に居ても地上に居ても気が気でなかった。まだ見つからない。皆、血眼になって探してくれた。モンタナさんも、寿恵ちゃんも、意識を取り戻したばかりの加賀さんも。

 

 それでも見つからない。

 

 3日が過ぎた。朝の埠頭で姉を待つ。

 

「セヴァストポリ」

「……何でしょうか、提督」

「彼女が見つかったわ、こっちに向かって来てる」

「本当ですか?」

「ええ、本当よ」

 

 でも帰ってきた姉のその姿は少し奇妙でちょっとだけ滑稽だった。

「……笑うか?セヴァストポリ。今なら笑っても何も言わないぞ」

「姉さん……その……おかえり……」

 よく生きて帰れたな、と思えるほど血と煤だらけの武装メイド、という時点で明らかに普通に考えれば姉ではない。でも姉に相違はおそらくない。あれ?提督は……?さっきまでここに居たのに。

「疲れた。提督は何処に居る?報告をしないと」

「と、とりあえず入渠……」

「いや、報告が先だ。この程度で沈みはしない」

「ガングート!入渠だ!ほら早く!」

 なるほど、どうやら修復ドックの準備をしていたらしい。

「……さては、提督……」

「提督の権限は強いんだぞ〜」

「はぁ……」

 再建が進む修復ドックのキャパシティは2人分。今は加賀さんと姉の2人が占有している、もしくは占有する。2人とも早く元気になって前線復帰できればいいのだけれど。

 

 

 数時間後。

「あー……モンタナ、セヴァストポリ、悪かったって……こら、セクハラは止せ」

 入渠帰りの姉を前後から挟むに至る。

「……」

 前からやってきた加賀さんが横を通過すると思ったら姉の背後のモンタナさんを引き剥がしにかかっていた。

「離れなさい、ガングートが困ってるでしょう……ぐっ……強い……」

 しかし、腕力では勝てなかったようでびくともしない。

「手を貸す」

「私が居ればこんなの余裕ね!」

 たまたま通りかかった風花さんと初姫さんが加賀さんの左右からモンタナさんを引っ張るもなかなか剥がれない。流石に自分もそろそろ手を貸そうかと離れようとしたとき、利根さんがやってきて呟いた。

「そろそろ離されよ、提督が困っておるではないか。のう、提督」

 その無感情のぞっとするような小声に私達は止まり、姉は解放された。

「すまん、利根」

「そこは素直にお礼を言っておくものじゃぞ?」

 無機質で無感情だった小声が急にハキハキとした声に変わる。

「ありがとう」

「構わんよ、提督」

 その場に居た全ての艦娘が利根さんと姉を見送ってしまった。

「て、提督……ですって?」

 少し遅れて動き出す。

「そんな……馬鹿な……」

「えっ……えっ、えっ……?」

 一番ショックを受けたのはモンタナさんと遅れてやってきた夏姫提督かもしれない。

 




 利根さんは姉さんが好きなのではないか、という根拠不明の噂が基地内に薄っすらと囁かれるようになった。
「なんだか不気味じゃのう……」

ガングートが持っていた小銃"AVT-40"
 愛銃であった"モシン・ナガンM1891/30"を失くしたガングートがとある場所で取得した自動小銃。SVT-40をフルオート化したものであり、連射時の威力も反動も大きいが、艦娘の身体能力が組み合わさることで高い攻撃力と制圧力を生み出せる。性能はカートリッジ準拠である為、徹甲弾カートリッジを使用することを推奨する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。