現時点で天音・蒔菜編に入っていませんが、原作改変の状況はいかがなもんなのか、由美子編をみる限りはさっぱり予想できません。
なんなの、あれ?
原作は楽園まで遊んでいますが、極力ネタばれしないように書きました。本編は共通ルートの1シーンだと思ってくれれば結構かと。
SSは処女作なので生暖かい目でご覧あれかし。
「会社」からの急な招集がある場合を例外とするが、オレは生活のパターンを変えないことを信条としている。朝5時に起床し、日課のランニングを行ったあとでシャワーを浴び、最低限の栄養補給としての食事を摂り、美浜学園の生徒として教室へ赴き、夕方まで授業を受け、寮に戻ってトレーニングを行う。就寝までの時間は読書に費やし、22時には就寝する。判で押したようなサイクルだが、決して悪いことじゃない。
平時の決まった訓練の積み重ねが、有事の際に物を言うのは歴史が証明している。天涯孤独、野良犬同然の身の上ではあるが、国防の礎としての備えを疎かにしようものなら、また、9029の名声に傷をつけることがあれば、あの世の麻子に申し訳がたたない。
むろん麻子なら、「そんなもん知るか。オマエの人生だ、好きにすればいい」と言うだろうとは思うので、他に人生の過ごし方を知らない言い訳に過ぎないことは、自分でも十分自覚しているのだが。
とはいえ、寮生としての付き合いもあるため、できるだけトレーニングや読書の時間は自室に籠もらず、ロビーで過ごすことを心がけている。美浜の特性ということもあるが、他の生徒も例に漏れず、学園の敷地から積極的に出ようとしないため、ヒマな連中が自ずとロビーや洗濯室などにたむろすることが多いのだ。
そんな訳でオレは、天音の部屋で夕食をご馳走になっているところである。これも付き合いの一つだと、朝帰りをしてしまったサラリーマンが妻に言い訳をしているようだが、仕様がないものはやっぱり仕様がないのだ。
蒔菜「うまうまうまうまー。やっぱり天姉ぇのロールキャベツは絶品なのよさ。これなら何時でもごはん3杯はいける!って、野菜キライなマキナ的には最終兵器かも知れないのよさ」
みちる「そうね、マキナが3杯なら、あたしなんか6杯はいけるわねー。キャベツも柔らかくてとっても美味しいけど、このスープがいいのよねー。もぐもぐ」
蒔菜「いやー、汁まで丸ごと茶碗にぶっかけて、豚のようにブヒブヒ浅ましく食うのは、チルチルに丸っと譲ってあげるのよさ……。アレな?ほんとうに、チルチルはぶっかけたり、ぶっかけられたりするの好きな?いい天職がみつかりそうなのよさ」
みちる「うきー!」
幸「みちる様、美味しいのは十二分に理解いたしましたが、鼻の頭にごはん粒がついてますよ。それにしても天音さん、このロールキャベツの味の深さには、何かとてつもない秘訣があるとみましたが……」
天音「ふっふっふっ、サッちゃん。このロールキャベツは水を一滴も使ってないのよ。刻んだ芯から出た水分だけで煮込んでるから、キャベツの味がしっかり出てるでしょ?芯も柔らかくなってるから、全部食べられちゃうし。バターもお父さんの取引先の牧場から取り寄せた、特製の発酵バターを使ってるのよ。味だけじゃなくて、香りもすごくいいでしょう?」
幸「それでシンクの生ゴミがあんなに少なかったんですね。美味しいだけでなく、地球にやさしい、まさにエコの極致。この小嶺幸、目からウロコです。めもめも」
天音「ふふふっ。でも、キャベツ自体いっぱい使わないとできないから、寮のみんなが揃った時じゃないと作れないんだけどね。冷蔵庫なら意外と日持ちもするから、常備菜にもできるし、天音さんお勧めイチオシメニューよ」
幸「まさにその通りですね。天音さん。あとでレシピを教えていただけますでしょうか」
天音「もちろんオッケーよ」
雄二「フム、さすが料亭の娘といったわけでもないだろうが、いつもながら天音の料理の旨さには、舌を巻かざるを得ないな。汁気が多いから戦闘糧食には向かないが」
天音「アンタはどこで戦う気なのよ……。ウチのお父さんは和食の板前だから、さすがにロールキャベツは作らないわよ。これは以前、お母さんから教えてもらった料理なの。将来の旦那さんに食べてもらいなさいってさ」
雄二「天音は料理に関しては、佐官級のエリートと言っても過言ではないな。卒業後はこのまま寮母になるよう千鶴に強く推薦しておこう」
蒔菜「さりげに殺し文句をスルーしやがるところは、お兄ちゃんらしい安定の朴念仁っプリなのよさ。強く生きろ?天姉ぇ?」
幸「あ、マキちゃん……」
天音「いいのよ、マキナ、サッちゃん。こんなの一々気にしていたら、寝起きのユージを毎朝襲えないわよ」
雄二「早朝以外の襲撃という選択肢はオマエにはないのか?」
天音「ない!寝起きだとユージの鉄壁の防衛機能も半減してるし」
雄二「歩哨の警戒の隙をついて要塞に侵入するのは、戦術上まったく正しいとは思うが、この場合に限っては微塵も褒める気にならんのは何故だろうか」
天音「それに色々と準備万端整ってるし。あのガッチガチなところがそそるのよね。じゅるり」
雄二「オマエな……」
由美子「あの、周防さん?食事中に生臭い話はやめてくれるとありがたいのだけど……」
雄二「そういえば榊にしては珍しく食事に混ざっているな」
由美子「今頃気づいたわけじゃないでしょう……ふぅ。入巣さんと小嶺さんに両脇抱えて拉致されてきたのよ」
天音「ごめんねー、榊さん。迷惑だったかも知れないけど、大皿料理だし参加してくれて助かったわー」
由美子「え? ううん、とても美味しいし、来てよかったと思ってるわ。手ぶらで加わっちゃって申し訳ないくらい」
雄二「それは俺も同様だが。済まないな、天音」
天音「いいのよー、みんなでわいわい言いながら、作るのも食事するのも大好きだし」
みちる「ダメねー、雄二も由美子も。アタシなんか、食後のデザート買ってきてるのよー。商店街のコンビニで期間限定販売のかぼちゃプリン!あれとっても美味しいんだから!」
雄二「フム?みちるは色々気が回るな。この風見雄二、感服したぞ」
みちる「へ?…… いやいやいや、そうじゃないわよ、そうだけど!ゆ、雄二の分もあるんだから、ありがたく頂戴しなさいよね!」
雄二「あるのかないのか、どっちなんだ」
幸「風見さん、そこは突っ込まないであげてくださいませんか?自称、三嶋崎のツンデレクイーンは、常にツンデレてないと死んでしまう悲しい生き物なのですよ。まさにサメと同じ」
みちる「はいはいサチー、サメはまったく関係ないからねー。あと、悲しい生き物って言うなー?泣いちゃうぞー!」
幸「はいはい、みちる様。あ、わたしのロールキャベツもおひとつどうぞ」
みちる「モゴモゴ!お願いだから、まるごと一本まんま口に突っ込むのはやめて!サチ!」
蒔菜「ぶっかけられるのも突っ込まれるのもいけるクチとは、まったくお見それしたのよさ、チルチル。由美ちゃん、素人でも容赦ないハードなAVメーカー紹介してあげて?」
由美子「そこで私が紹介できる前提になっているのは何故なのかしらね……?カッターナイフを持ってきてもいいかしら」
天音「はいはいはい、そこまでねー。そこにあるアジのマリネも、良い感じに漬かってるからぱくぱく食べてねー」
元気よく「うーい」と答えながらにししと笑う入巣蒔菜にしても、不承不承ながら矛を収める榊由美子にしても、このようにみんなで一つの食卓につくことができるようになったのは、つい最近のことだろう。
寮生になって一番日の浅いオレだが、ここにいる彼女たちがみんな、社会不適合者の烙印を押されたあげくに、私立美浜学園という「檻」に放り込まれた生徒ばかりであることは承知している。
飯をのどにつまらせて苦しそうにしているダメ金髪の松嶋みちると、それを甲斐甲斐しく介助している敏腕メイドの小嶺幸にしても同様だ。
そんな一癖も二癖もある彼女たちを、有機的に結合している重要なファクターであるのが、周防天音という女だ。この中で一番年長者であり、気働きがうまいというだけでなく、料理というスキルを存分に生かして距離感をぐっと狭めてくる。そんじょそこらのエッチでビッチなお姉さんではないのである。
それに、寮生の中で唯一といっていいだろうが、家族との関係が良好であることを伺い知ることができる。
天音「お母さんがね、男の胃袋さえがっちり掴んでおけば、どこへ行ったって必ず家に帰ってくる、って教えてくれたのよ。だから周防家の女はみんな、料理ができるように仕込まれてるの」
蒔菜「あ?天姉ぇの京都のおばーちゃんは、天姉ぇは金●袋と胃袋と間違えてるんじゃないかって、すんごーく心配してたのよ?早く教えてあげないとお迎えが来ちゃうのよさ」
天音「マーキーナ……あんたでしょ、お祖母ちゃんにあることないこと言ったの?こないだ電話でがっつり説教されたのよ」
蒔菜「ごめんよぅ……でもね、安心して天姉ぇ?寮で金髪ツインテールに唆されてるけど未遂で済んでるって、ちゃんとフォローしておいたのよさ」
みちる「ぶぼおっ」
幸「あらあら、みちる様。鼻からごはん粒を吹き出すのは、マナーとしては如何なものかと」
天音「まったく誰に似たのかしら。ねえ、ユージ?」
雄二「オマエ達が京都に行ったのは去年のことだろうが……っておい、榊、幸、みちる?オレを睨むのはやめてくれ」
女が複数集まる様をもって、姦しいという字に当てた先人達の知恵は、まったく慧眼であったと言わざるを得ない。食事ひとつでこんなに時間がかかっていては、きっと懲罰房か営巣入り間違いなしではあるが、これが平和な証拠なのだろう。こんな何気ない日常のひとつひとつが、後で掛け替えのないものだったと、取り返しのつかないものだったと気付くモノなのだ。
そして、気付いた時はもう遅い。そういう風に世界は回っている。
飯は笑って食った方がうまいって確か言ってたよな……麻子?
May be Continued
いかん、やはり由美子が空気に……
またよろしくどうぞ。