悲鳴の主は地面に押し倒され、小汚い格好をした男に覆い被されていた。
「いやいやいやぁぁぁ……!!」
「うるせぇぇ!!」
男が腕を振り下ろすと、鈍い音がした。女は言葉にならない呻き声を上げる。
それを聞いた瞬間、身体がカッと熱くなった。なんだ……この感覚……。無性に暴れたい……。俺、こんなんだったっけ?
「おい、カス」
男は動きを止めて、振り返る。髭がまだらに生えた顔は嫌悪感を具現化したようだ。
「誰がカスだってぇぇ?」
男が立ち上がると影が俺を覆った。随分とデカいな。頭一つ、俺より高い。
「お前だ。クソ虫」
「あんだとぉぉ……!? 殺されてぇのか……!!」
「クソ虫が人間様を殺せるわけないだろ」
「死ねぇぇ……!!」
男が右腕を大きく引いて、左脚を踏み込んだ。随分とゆっくりに見える。これがムータン教の加護なのか……?
迫ってくる巨体を半身になって躱すと男は背中を見せる。隙だらけだ。軽く足の裏で押すと、無様に地面に転ぶ。
身体が自然に動き、うつ伏せの男の足首に膝を落とした。鈍い音がする。遅れて男の汚い悲鳴。まだ足りないな。
足首を押さえて転げ回る男の顔面に向かって爪先を振り抜く。首が人体の可動域を超えて回り、男は静かになった。
身体が多幸感で満たされる。
『ウオオオォォォ!! ナイス暴力……!! 僕、痺れちゃったよ!! 改宗ポイントあげちゃうよ!!』
脳内にムータンの声が響き、少しすると「チャリンチャリン」と鳴った。
「ステータスオープン」
【 名 前 】 アズマ
【 宗 教 】 ムータン教
【 信 者 】 0
【 改宗pt 】 10
【教祖スキル】 神との対話/勧誘
おぉ! 改宗ポイントが貯まってる!! これで勧誘すれば信者が誕生するのか!?
襲われていた女に視線を向けると、怯えた表情でこちらを見ている。ここは優しく声をかけるべきだな。
「大丈夫?」
「あっ、はい……。ありがとうございます……」
うーん。反応が微妙だな。とはいえ、信者獲得のチャンスであることは間違いない。ここはチャレンジすべきでしょ!
「突然なんだけど、君。ウチの信者にならない? ムータン教っていうんだけど。神様は緑の狸みたいなヤツで滅茶苦茶可愛いんだよね〜。今なら信者第一号になれるし、絶対お得だと思うんだよね〜。古参ぶれるよ?」
女はギッと目を鋭くし、顔に警戒心を浮かべる。
「いえ! 結構です!」
「そんなこと言わずにさ〜」
一歩踏み出すと、女は慌てて立ち上がり後退りを始める。
「ムータン教、暖かいよ?」
「間に合ってます!!」
女は脱兎の如く駆け出す。そして脳内に響く冷淡な声。
『信者の獲得に失敗しました。改宗ポイントが不足しています』
えっ? ポイント足りないの? マジかよ!!
脳内で【神との対話】を意識する。ポン! と現れるムータン。
「ムータン様! ポイント足りないんだけど!!」
『仕方ないでしょ! 可愛い女の子は必要な改宗ポイントが高いんだから! そこで死にかけてる髭男なら信者に出来るかもだよ?』
「こんな汚い信者いらねえよ!! なめてんのか!!」
『あぁー!! 神様にそんな汚い言葉、駄目なんだ〜。もう知らないからね! アズマは無になるよ!!』
ムータンは白い煙を残して消える。
「クソ……。無にはなりたくねぇ。かといって髭面の信者はいらねえ……。暴力チャンスを見つけるしかないのか……?」
腹いせに髭面男の下腹部を蹴り上げた後、俺は徘徊を始めた。暴力チャンスを求めて。