私立! バイオレンス学園!! 作:明るく楽しく暴力系ヒロインを!
翌日のことです。クラス内の女子と仲良くなれ。と言うことですが、宮本さんと星野君以外のクラスメイトと話したことは殆どありません。あまり考えたことが無かったので、改めて教室を見回します。
机に突っ伏して寝ている者、学園から配布されたスマホを弄っている者、教科書とノートを開けて勉強している者。そして、オイラに近付いて来る者。
「大西君。おはようございます。昨日話したプレイ動画見てくれました?」
「2時間あるもの見ろとか無茶言わないでもらえますか?」
学生が暇だと言ってもやりたいことは色々とあるんですよね。ながら作業でも2時間も同じ動画を見ろというのは苦痛という他ありません。
「大丈夫ですよ! 字幕も表示されるゲームだから4倍速で見れば、30分で見れますよ!」
「動画の早食いはやめて貰って良いですか?」
もはや動画を楽しんですらいないんじゃないのかと思いますね。奴らは情報を食っているんだ。と言う、有難い言葉を思い出していました。ついでに昨日の話も思い出していました。
クラスメイトを更生させることで卒業できる。と言うことなら、まずは身近にいる相手と親しくなるべきですよね。
「大丈夫ですよ。世の中がコレだけ早くなっているんですから、私達も合わせる必要があります。日々大量の動画が作られ、作品が作られるんですから、私達も早食いしないと消化できませんよ!」
「動画を視聴する上で一番望ましくない心持ちですよ」
ドラマ、アニメ、映画などは時間の掛け方も含めて作品性だと思うんですけど、彼女は動画にしか興味が無いので、あんまり気にしていないのかもしれません。
そんなことを喧しく話していると、机に突っ伏していた女子が顔を上げました。顔は見て分かる位に不機嫌そうにしています。ッチと聞こえる様に舌打ちまでして来ました。すると、宮本さんは直ぐに黙ってしまいました。いつもならここで会話を打ち切って、持って来たラノベを読んでいるんですが。
「じゃあ、ボリューム落して例のプレイ動画を見ましょうか」
「……はい!」
喋らずに済むという意味では、ベタな所を選んだと思います。
朝のHRが始まるまでの間に少しでも多くのシーンを見る為に再生速度は3倍速でしていますが、字幕などで分かるにしても声優の演技も何もあったモンじゃありません。制作側としては買いもしない挙句、演技などにも興味が無い最悪の客でしょう。なんなら、金も落としていません。
「宮本さんはなんで動画が好きなんですか?」
「だって、考えなくて済むじゃないですか」
彼女が見ている動画は単なるプレイ動画。と言う訳ではありません。
動画の横には内容の注釈やネタの解説も含みながら、軽快なコントも含んだ、エンタメ性に特化した物です。見ているだけで、プレイしてもいないゲームの中身を分かった気になれそうです。
「だったら、テレビで良くないですか?」
学園内でもテレビを見ることはできます。何故か色々な放送局のが見れるのですが、宮本さんは首を横に振りました。
「嫌ですよ。アレはバカが見る物ですよ?」
「動画も大して変わりないと思うんですけど」
「いいえ、全然違います」
こういう所に差別心を隠さない辺りが実に宮本さんだと思います。考えはしないけれど、バカにされたくはない。みたいなスタンスがありありと見えてきます。
「ちなみに動画以外の趣味は何かありますか?」
「お喋りとか? ほら。大西君ともいっぱいお話していますし?」
「一方的に500件位メッセージを送って来るのはお話とは言わないんですよ」
いわゆる凸とかそう言うのですね。ただ、本人的にはアレが会話だと思っているようです。やっぱり、律義に返したのが良くなかったかもしれません。
「でも、大西君はちゃんと返してくれますし?」
「多分、オイラが特殊なだけだと思います」
普通はブロックされてもおかしくない様な行為ですし、この言い方からして。他の人にはスルーされるかブロックされていたっぽいですね。
「なら、問題ないですよね。この学園、変な人ばかりで心細かったですし。まとも同士、これからも支え合って行きましょう」
「いや、昨日も言いましたけど。オイラ達もマトモ側じゃないですからね」
これだけ暴力系ヒロインが多い中、逆に暴力を振るわない。にも関わらず収監されているということは、代替されるだけの要素がある訳で。
オイラの場合はモラハラとかそこら辺でしょうか? ですが、宮本さんに関しては何ともです。粘着ストーカーメンヘラ気質ですが、そんなのは外の世界にもゾロゾロといますし。
「こうなったら、逆に考えましょう。外でマトモだと思っている人達もマトモじゃないって可能性はありませんか?」
「いよいよ、常識の方にもケチをつけ始めましたね。でも、その反骨スタイルは好きですよ」
ただの詭弁かもしれませんが、強ち間違っているとまでは言えませんからね。オイラ達が普通だと思っている物がおかしい。なんてことは往々にしてありますからね。コレには宮本さんもしたり顔です。
「大西君も分かってくれますか? そうですよね。こんな所に放り込んで、問題を解決した気になっている社会はおかしいです」
「今日の宮本さんはクレバーに頭が悪いですね」
「可哀想に。大西君も常識に洗脳されて……」
認知を歪めてまで自尊心を守ろうとする彼女のフレキシブルさに感心しつつ、2人で動画を見ていると先生が入って来ました。
生徒達の大半は机に突っ伏して寝ているか、だらしなく座っているか。担任も指導するつもりもないのか連絡事項だけを淡々と伝えていきます。特に関心も無く聞いていましたが、ふと。こちらに視線を合わせました。
「そうだ。なんか、大西と仲良くしていると良いことあるらしいぞ。クラスメイト同士、仲良くしろよォ」
「なんだろう。オイラにヘイト・タンクみたいな真似をさせるのやめて貰って良いですか?」
急に担任から無茶振りが飛んで来ました。殆どのクラスメイトは『何言ってんだこいつ?』みたいな顔をしていましたが、複数人はコチラの方に視線を向けて来ました。隣にいる星野君もこっちを見ています。
「俺達、親友だよな?」
「そうですね」
人の胸倉掴んできたりはしますが、数少ないクラス内の男子生徒なので友人だとは思っています。彼もまた女子生徒を更生させるという目的を持っているかもしれませんが、暴力性を助長しそうなだけな気がしますね。
担任は教室から出て行き、1時間目の授業が始まろうとしていました。次の休み時間がどうなることか。碌でも無い未来が見えそうです。
――
「皆して! 『私』の大西君に!」
「宮本さんの物になった覚えは無いんですけど」
昼休み。星野君と宮本さんと一緒に配給された弁当を突いていますが、ここに来るまでの間に数人の女子生徒から話し掛けられました。
「どいつもこいつも『何か心当たりがあるのか』『具体的には何があるのか』とか、ばっかりで。お前よりかは特典目当てだったよな」
「その点、私はちゃんと大西君を見ていますからね。安心してください!」
「宮本さんの場合、見ている頻度がストーカーレベルなんで、もうちょっと控え目にしてくれた方がありがたいんですけど」
話に乗ってくれていますが、星野君も同じ様な話をされているのか、薄っすらと察してくれている雰囲気はありました。変な所で気は回るんですよね。
「で、実際。大西君に心当たりはあるんですか?」
「無いです」
もしも、オイラと仲良くなれたら卒業できるかも。と言う前提を話してしまうと、関係性にどんな影響が出るのか分からないので、今は話しません。
「まぁ、アレだよ。ホラ、大西の野郎はモラハラ野郎だけど暴力は振るわねぇだろ? そういう人間と接していると穏やかになる。って踏んでんじゃねぇの?」
「本当ですかぁ? 穏やかになるって、手が出るか、口が出るかの違いになるだけな様な……」
宮本さんって考えない割に頭は悪くないんですよね。勿体ないですよね。
「でも、手が出るよりは健全だぜ。口論で済むなら、それが一番だ」
「いや、そもそも争わないのが一番だと思うんですけど」
「なら、私は見本と言っても良いですね。このクラスで一番穏やかで喧嘩もしませんから」
喧嘩をしないのは事実ですが、穏やかとは言い難いですね。非暴力で服従させて来るタイプを見本と言っていいかは疑問です。
「だったら、逆になんでこんな所に来たんだ?」
星野君の疑問はオイラも抱いていた所です。宮本さんの性格とメンヘラ気質な所は明確な欠点ですが、暴力系と呼ぶにはパンチが弱い気がします。
「きっと、陰謀ですよ! カズ君に近付いていたアイツらの仕業です! 私は何も悪くないのに!」
「悪くない人は連れて来られないと思うんですよね」
カズ君が誰を指すのかは分かりませんが、彼女が暴力系ヒロインとしてカテゴライズされる以上、恐らくは恋愛対象の男子がいたのでしょう。
オイラは宮本さんの鬼凸メッセージと粘着にも耐えられますが、普通の男子だったら距離を取るとは思いますね。
「大西君。人間は大なり小なり悪いことをしていると思うんです。私が連れて来られたのも何かの誤解です」
「いや、正当な判断があったと思います」
「どうして、大西君はそんなひどいことを言うんですか!」
一向に自分の罪などを認めようとしてないので、彼女を更生させるのは至難の様に思えますね。果たして、オイラは言われたことができるのかどうか。不安になって来ました。
「俺らが入学してから1ヶ月しか経っていないけれどよ。お前らはなんで、そんなに仲良いんだ? 実は入学前から知り合いだったとか?」
「いえ。宮本さんとはこの学校で始めて会いましたよ」
「たった1ヶ月でこんなに仲良くなるなんて。ウマが合いますね!」
星野君がドン引きしていました。これは宮本さんだけじゃなくて、オイラに対してもでしょう。なんで、こんな女と付き合っているんだ? と言いたげな雰囲気が伝わってきますね。
「折角、話し掛けて来てくれたんですし。仲良くしたいじゃないですか」
「それだけで仲良くしようと思える、お前のコミュ力に脱帽しているよ」
こんな閉ざされたコミュニティにいたら、誰かと角を立てるのは得策とは言えないですからね。コレには宮本さんもドヤ顔をしています。
「そんな大西君に真っ先に声を掛けた私は、やっぱり持っているんですよね」
「厚かましさをですか?」
「そう。勇気をね!」
どうやったら、ここまで自分に都合よく解釈できるのか不思議です。あるいは彼女の特性的にもしや。と思った所で、宮本さんが二へっと笑っていました。
「これからも一緒に色々と動画を見ようね」
「もうちょっと趣味のラインナップを増やしてからお願いします」
一旦、オイラも彼女に習って考えることを中断してから、昼食の再開をすることにしました。