The Glass Lineage ~雛罌粟に捧げる凱歌~   作:アグロフラメンコ

1 / 1
読んでくれてありがとうございます。
不定期投稿です(目標週一4000文字前後)。
感想あるとはかどります。
エタらないように頑張ります。

一部の描写不足を補いました。
不明瞭で印象不足な箇所を強調しました。
不要な部分をあとがきに移動しました。
バ名の誤りを正しました。


超新星『SN-1987-A』

大マゼラン雲。

星や星雲が寄り集まった不規則銀河。

俺たち日本人にとって馴染みのある天の川銀河周囲を公転する矮小銀河。

 

馴染みのお隣さんといえば身近に感じるかもしれないが、それを個人の力で日本から観測することは不可能だ。

まず南天に位置する大マゼラン雲を観測するためには沖ノ鳥島に上陸しなければならない。

さらにそこへハッブル宇宙望遠鏡並みの分解能を持った光学機器を持ち込むことになる。

想像するだけ意味のない、土台無理な話だ。

 

馬鹿話はさておき。

大マゼラン雲は太陽系からはるか16万光年先に位置するそうだ。

そこで起きた超新星爆発、スターバースト。

その微かな余波が1987年2月23日、なんと日本のカミオカンデでキャッチされたという。

 

ニュートリノ。

 

星の中心核崩壊と同時にそれを構成した中性子も崩壊するため、放出された素粒子。

関連する学徒たちや従事する社会人たちはこの発表に大きく沸き立ったことだろう。

といっても、俺は別に天文学や物理学を修めたわけでもなければ、特別興味を持っているわけでもない。

じゃあどうしてこんなことに思いを巡らせているのか。

 

未練があるからだ。

元相棒のアグネスレディーに。

 

ロンドンはヒースローを発った成田行き。

十分な高度を取り安定飛行に入った機内で膝の上に広げていたのは、アグネスレディーから別れ際に手渡された手紙。

それと天の川銀河について書かれた大衆向けの軽い読み物。

 

受け取ったときは正直、期待した。

 

何かトラブルや思惑違いが起こって、元鞘に戻ろうとか。

実は彼女も俺と同じ思いでビジネス以上の関係に進展したいと考えていたとか。

そういうロマンティックな内容なのではないかと。

 

彼女らしい流麗な筆記体でしたためられた英文にはしかし、全く、微塵も、そういった色気が無い。

 

最前とりとめもなく宇宙に思考を投げ出したのと同じように、つらつらと超新星爆発についての感想が並べ立てられているだけだ。

 

「何をやっているんだ俺は」

 

独り言ちて、はっとする。

 

馬鹿々々しい。

瞬きも忘れて睨みつけていた紙片から視線を外し目頭を揉み揉み。

味もそっけもない手紙に嫌気がさして、書籍と一緒にして乱暴に手荷物へ突っ込んだ。

 

それからしばらくボーっとしていると、急に鼻の奥がツンとして目頭に水分がせりあがってきた。

これは断じて男泣きなどではない、ただの眼精疲労だ、瞬きをしていなかったから。

ハンカチーフで目元を拭いながら右隣の席を見ると、そこにはアイマスクをしたアジア系のビジネスマン。

 

「そうだよな」

 

日本到着後のスケジュールを考慮するなら、彼のように自分も体力回復に努めるべき場面だ。

トレーナーという仕事柄、眼精疲労とはこの先も長く付き合っていかねばならないのだから。

今度、ホットアイマスクでも買ってみようか。

なんて逃げてみても、低く唸るように長いため息が出る。

 

「くそ……」

 

右隣でうらやましいくらいにリラックスしているお手本を振り切るようにして、ふと座席の左側、小窓へ目を向ける。

 

そこには深夜、雲上の真っ暗闇を背景に浮かぶ自分のやつれ顔。

なんて女々しいんだろうか、俺は。

自分の顔を見てさえ思い出すのはアグネスレディーと過ごしたレースとトレーニングにまみれた日々。

 

そうして、愛おしくも甘美な記憶をなぞるたび、生駒家に対する憎しみが増す。

俺からアグネスレディ―という半身を奪った唾棄すべき敵。

 

アグネスレディー擁する生駒家は英国競バ界に太いパイプを持つ、知る人ぞ知る名家。

ウマ娘に深く関われば関わるほど、誰もが生駒家の特別さを思い知らされる。

 

有名なウマ娘医療の研究者は生駒家の血を引いていた。

先進的なトレーニング器具の設計は以前から生駒の出資を受けていた。

日本でも有数の警備会社には左耳飾りのウマ娘を優先的に引き受ける部署があり、それを作って実質的に運用して引退後の受け皿となり、さらにコネクションを拡大させている背後には生駒家の影響が。

あげれば枚挙にいとまはない。

しかしだ。

 

それだけの名家だというのにレースにおいては直接的な成果が、圧倒的に不足している。

 

それはどうしてだろうか。

あれほどまでに力のある家が名ウマ娘を高頻度に排出できない理由がどこにある。

現にシンボリもメジロも衰退傾向にあるとはいっても、日本に冠たるウマ娘を何度も送り出してきた。

そこには当然、幸運もあったろうが、それでも資本が有利を作ったことは否定できない。

馴致のための設備、教育の人員、才能の発掘とスカウト。

どれもこれも大金がなければ到底満足に行えないことばかりだ。

 

では生駒家は?

俺の推測では彼らは意図的に影の家を演じている。

 

一般的な資産の運用と、長く続く歴史に裏打ちされたコネクション、文化。

それだけなら何も問題はない。

日の当たる場所で堂々と資本の力でレースを荒らせばいい。

 

そうでないなら何か理由がある。

アグネスレディーを通して深く食い込んだ俺は知ってしまった。

彼らの成功の種にこそ原因があるのだと。

 

代々生駒の一族が遺伝的に受け継ぐとされる傑出した能力『相バ眼』に。

 

彼らの持つ相バ眼の威力はオカルトと言って簡単に片づけられるようなものではない。

実際に生駒家は古来よりその力でバ産の世界を牛耳ってきたのだ。

そして目立ちすぎないようにコネクションを持ち、投資し、利用し、巨大になった。

 

だが俺が担当したアグネスレディーの登場で生駒家の何かが変わってしまった。

 

その一族の重鎮と目されるヘザーランズとイコマエイカン、二人のウマ娘はともに競争成績こそ奮わなかったものの、アグネスレディーを見出し、育て、中央に送り出したことで、衆目を集めてしまった。

恐らくは生駒家が直接的にレースの世界で目立ちすぎてしまったのがいけなかった。

 

アグネスレディ―の現役中は俺に対して甘言を弄し懐柔し、利用するだけしたくせに、これ以上目立ってもらっては困るとばかり、不都合になった瞬間切り捨て。

 

朝日チャレンジカップを勝利し重賞三勝目を挙げたあの日。

ウイニングライブを終えたアグネスレディーを労うため、控室に戻ろうとした俺を左耳飾りの警備員が阻む。

 

「嵐様。貴方との契約はすでに打ち切られました。もうお嬢様に会っていただくことはできません。お引き取りください」

 

呆然とした。

どういうことだ。

叫びだしたくなった。

血が上って拳を振り上げる直前、警備ウマ娘の制服を見て、背筋が凍った。

 

ああ、生駒家の息がかかった警備会社が俺を、何故……。

混乱の最中、警備ウマ娘に取り囲まれた俺はその後、門前払いにされた。

 

アグネスレディーに会えない毎日。

空っぽのトレーナー室と、相手がいないトレーニングメニュー。

果たされることのない出走スケジュール。

それからふた月ほど後、同僚のトレーナーから渡された朝刊を見て自分の目を疑った。

 

『アグネスレディー引退式。トレーナー不在の謎と英国紳士フィアンセの影。代理人が質疑応答、アグネスレディー沈黙』

 

震える手が朝刊を取り落とし、その紙面のあいだから滑り落ちた便せんがひとつ。

 

それは英国で開催されるアグネスレディーの婚約パーティ招待状だった。

 

そして今日、会場で久しぶりに見たアグネスレディーは落ち着いていて、俺は。

 

「あ、あぐねす――」

「――さようなら。ごめんなさい」

 

心中に巣食うどす黒い未練。

完全に空中分解したままの精神は長時間のフライトで熟成されていく。

十数時間に及ぶ機内で脂汗にまみれた思考がやがて帰結する。

 

仕事の恨みは仕事で晴らせばいい。

 

アグネスレディーを超える、生駒家を破壊する、彼女、彼らに見せつけてやるのだ。

逃した獲物はデカかったことを。

そのためには優秀な新バとの出会いが必要だ。

そう。

アグネスレディーが言うところの、超新星爆発にも似た、圧倒的な輝きを放つ新しい才能が。

脳内にこびりついたニュートリノの影が俺の心を昂らせた。

 

――――――――――――

 

「やっぱり不便ですねぇ」

 

時は1987年、早春。

出先の主な連絡手段はポケベルと公衆電話、財布には常にテレフォンカード数枚があって、硬貨も潤沢に持ち歩く。

相手によってはその二つの手段すら用いることが難しいので手紙や電報といった方法もまだ健在です。

 

典型的なスマホ世代である私にとって、こういった手法に馴染むまでとても時間がかかりました。

 

開いていた『る〇ぶ』を閉じて丸める。

 

グー〇ルマップの代わりとして『る〇ぶ』は力不足ですけど、インターネットや衛星画像の利用が当たり前ではない時代に足で稼いだ執筆者たちに頭が下がります。

周りを見れば同じような考えのウマ娘は多いらしく、各々が道案内に適した情報を紙で携えていらっしゃる。

この時代にもあってよかった『る〇ぶ』、ありがとう売ってくれた『キヨ〇ク』。

 

「おかげでなんとか辿り着くことができましたよ……。この、トレセン学園に!」

 

東京都府中市、最新設備の揃った競走バ羨望の教育機関、トレセン学園。

その校門前に立ち、自分と同じく新入生と思しきウマ娘たちも感慨深そうにしています。

 

「では早速――」

「お嬢さま!!」

「ヒィッ!?」

 

背後から大きな声がしてつい後ろ蹴りをかましそうになって踏みとどまる。

 

「ウマ娘に急に大声で!命が惜しくないんですか!?」

「お じ ょ う さ ま」

「あっ」

 

振り向くとそこには見知った顔の中年ウマ娘と黒塗りの高級車。

 

「どうして勝手に行ってしまわれたのですか!」

「いえそれは、というかどうしてここに」

「ずっと待っておりましたとも、何か御身に危険がありましては私、腹を切る覚悟で――」

「ああ!分かりました、分かりましたから落ち着いてください!」

 

彼女は私専属の教育係兼執事。

本当は東京駅で新幹線を降りてから彼女の運転する車でここまで来る予定でした。

だったのだけど。

 

これまでの13年間、富裕な一族に特有のお姫様扱いは窮屈で退屈だった。

 

トレセンに入学してしまえさえすれば、そんな生活から解放されると思うと、もう我慢が効かなくなってしまったのです。

東京駅に着いた瞬間から彼女を振り切って自由気ままに東京観光(買い食い)を楽しんでからここへたどり着いたわけでして。

 

「無事だったんだから良いじゃない?ね?」

「そうは申されましても私は」

「職務に忠実なのはわかっています!このことは誰にも言わないし、そうすれば問題はどこにもないでしょう?」

「しかし」

「いままでありがとう。お世話になったことはとても感謝しています。けど、もう、ここから先は」

「ああ、お嬢様」

「そう。私はここで全力で、人生を楽しむつもりなの」

「そう……、ですね」

「ええ」

 

車のほうまで彼女の手を引いて行く。

何とかおさまれ、適当にいい感じで誤魔化されろ。

 

「ぐす、お、おじょうさま」

「はい」

 

感極まったのか、私が見つかって無事だったことに安心したのか、音をたてないながらも涙で歪む彼女の表情。

いつの間にか私たちの周囲に野次ウマ娘たちが群がってくる。

は、恥ずかしい。

 

「私はあなたが幼いころからずっと見てまいりましたが、本当に優秀なお方で……。今日こうして晴れの日をお迎えすることができて感無量ではございます、ですが一つ言っておかなければならないことがございます」

「は、はい」

 

急に引き締められた場の雰囲気に圧され、身構える私。

 

「これは生駒家当主、貴女のおばあ様からの言付けでもございます」

「え?」

「決して、『嵐』という名のトレーナーにはお近づきになりませんよう、よろしいですね?」

「嵐さん?それはいったいどなた様で」

「知る必要はございません。ただここでお約束になっていただければよろしいのです。本来、このお話は車内で行うつもりでした。なにせここでは――」

 

野次ウマ娘たちの居る校門側が騒がしくなる。

騒ぎを聞きつけて守衛がやってきたのだろうか。

いや、これ、たぶん違う。

割れた人波の真ん中に、背広にトレンチコート、ストールを首から下げたサングラスの男。

整髪料できれいに撫でつけられた黒髪、顔の輪郭は四角くて肩幅が広く、遠目から見ても目を引く圧倒的な存在感。

この感じは守衛や警備というよりも、その、なんか、マフィアみたいじゃない?

 

「御機嫌よう」

「き、貴様は!」

 

挨拶しながらサングラスを外すマフィア。

牽制する執事に目もくれず優雅に一礼し、こちらへ向かってくる。

 

「私はトレセン学園のトレーナー」

「寄るな!お嬢様この不審者と関わってはなりません!!」

 

マフィアさんの視線を遮るように私の前に出た執事、その脇から覗き見るように彼から目が離せない私。

 

「私は、貴女を咲かせるために参りました」

 

そう言って、まるでおとぎ話に出てくる騎士のように、マフィア風のいで立ちとは全くそぐわない誠実な姿で、片膝をつき臣下の礼をとる男。

 

「どうか私の手を取っていただけませんか、生駒家のお嬢様」

「黙れ!」

 

声を荒げる執事。

一瞬言い淀んだマフィア。

一拍おいて。

 

「いえ、家名は要らない、そうですね、フローラさん」

「誰か!誰か守衛を呼べ!!」

 

とぅんく。

とはならなかった、残念ながら。

でも。

ドキドキする。

彼の瞳から発せられる、どす暗い欲望、澱んだ波動が、どうしようもなく私のウマソウルを惹き付ける。

 

危険な香りがする、けど。

 

彼の欲望の向こう側に私の自由が、彼の澱んだ波に洗われて私の美麗な走りが磨かれる。

そんな根拠のない予感、いや、確信が私の脳を打ち据える。

気づけば、邪魔な執事を押しのけて、彼の前に立ち、儀礼剣に見立てた『る〇ぶ』を振りかざした。

 

「問います」

「はっ」

「咲かせるといいましたね、花は何色ですか」

「赤」

「それは?」

「雛罌粟の、赤」

「私に労りや慰めが?」

「いいえ」

「では?」

「抜山蓋世、貴女の赤は山をも動かし、世界を覆うほどに強大だ」

「故事成語で持ち上げるだけですか」

「貴女の赤が望みを叶えましょう、必ず」

「へえ?」

「一つ桜を、二つ樫を、三つ王冠を」

「つまり貴方は」

「はい、貴女を三冠バと成しましょう」

「ふ、大きく出ましたね。面を上げなさい」

「はっ」

 

さっきまでは暗い底なしの瞳に見えた。

だけど今は違う、色を変えた。

どこかいたずら少年めいた、若々しく、愉し気な煌めき。

私が茶番に付き合ってあげたからかな?

なんか……、このマフィア可愛いかも。

 

「返事は……」

 

うーん。

でもなあ、初対面だしなあ。

それにまだ私、彼の前で走ったわけじゃないし。

というか、なんか静かじゃない?

 

視点を動かさず視界の端で周囲を観察すれば、なんてこと。

野次ウマ娘たちが顔を真っ赤にしてこちらを凝視しています!

しかもさっきまで妨害していた堅物の執事でさえ!?

ええい、恥ずかしすぎる!

 

「ほ、保留とします!」

「「「えぇ!?」」」

 

素っ頓狂な声を上げたマフィア含む野次ウマ一同を前にして羞恥に苛立つ私。

 

「いてぇ!?」

 

手に持っていた『る〇ぶ』でマフィアの頭頂部をしばきました。

 

「では、さらばー!」

 

いたたまれなくなってボストンバックを抱える私。

自慢の脚をフル回転させ、校門に向かって逃げ出したのでした。

あー顔が熱い。

恥ずかしすぎ!!




名前:嵐
役職:トレーナー
年齢:三十手前
体形:がっしりしてるけど太くはないすごく男性的な体格ですし高身長です
服装:イタリアマフィアと中国マフィアの相の子みたい
趣味:女漁り(怒) 酒(殴) タバコ(蹴) 麻雀(呆)
嗜好:復讐(笑) 圧倒的な才能

名前:アグネスフローラ
役職:トレセン学園中等部新入生
年齢:13歳?
体形:今はまだ細いけどなんだか太くなりそうな予感がします
服装:意外と派手な色が好きなんだねって言われます
趣味:日記 植物鑑賞 読書 油絵
嗜好:子供っぽい人 ダメな人 面白い人 努力 鍛錬 食道楽
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。