鬼滅の伝説   作:織姫ミグル

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別作品に投稿していたこの作品の短編集をこちらに移すことにしました。




短編集
冒険日誌・一日目


 

 

調査日誌、一日目。

 

新種の魔物達の対処法について。

 

知っての通り、奴らの弱点は太陽のような強い光だと思われる。

 

と言っても他の光は特に効果はなく、アカリバナで試したところ何の意味もなかった。このことから、奴らは陽光に含まれている紫外線に弱いのではないかと考える。殺菌作用や皮膚への影響、つまりは日焼けや発がん性のある光に弱いため、奴らの活動時間は夜となる。よって夜に現れるスタル系の魔物達と同様の対処方法で撃退可能。

 

とはいえ、カガヤキの実は無限ではないため、今後は夜の外出は控えるように民の者達に通達してもらうことが一番の対処法と言える。

 

引き続き、新種の魔物と同じ種族であると思われる“少女”の傍で様子を見つつ、最適な対処法を見つけていこうと思う。

 

現段階での調査報告は以上となる。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

「これでよし」

 

 

リンクはペンを置くと、書いたばかりの文章を読み返す。

 

近衛騎士時代にも報告書は書いていたが、その頃の記憶はもう殆ど思い出せない。リンクは記憶障害であり、とは言っても右も左も分からない訳ではない。魚の焼き方とかルピーの使い方とか、一般常識みたいな事がわからずに悩んだりするなんてことはない。

 

一人の人間が生きていけるほどの知識だけは残っている。

 

もしこれが完全な記憶喪失であったら、リンクの精神年齢は新生児並しかなく、言葉の意味も理解できないどころか歩く方法もわからずに赤子のように四つ這いでの移動しかできなかった。羞恥心というものも知らず、ずっと裸でいても何がおかしいのかわからなかっただろう。しかし、目を覚ました時に近くに置かれていた宝箱から入手した服を何の疑問も持たずに着れたということは、無意識にも裸でいるのはおかしなことだと理解していたからだ。

 

だからこうやって問題なく文章を書けるのは、頭の中に知識が残っていたからである。

 

記憶は失っても体が覚えている、なんて話を聞いたことがあるが、もしそれが本当ならそれは真実かもしれない。目が覚めた時、自分が誰だったのかも思い出せないリンクであったが、どういうわけかそこらに落ちていた木の枝を拾った瞬間にしっくりくるような感覚が湧き起こり、試しに振るったら素人とは思えない動きを見せた。

 

子供が遊び感覚で振るうのとは訳が違い、木の枝一本で魔物を倒せるほどの洗練された動き。

 

まるで騎士のような動きであったことから、もしかしたら自分はかつてそういうことをしていたのではないかと脳が訴えてきた。

 

このことから分かる通り、リンクは脳に深刻な障害を負っても、特に問題はなかったのである。

 

とはいえ。

 

普段自分は脳筋な方で取り立てて文才があるわけでもないので、これだけ書くのにずいぶんと時間が掛かってしまった。

 

『新種の魔物達の対処法についての報告』とか、本当にこんな表題で良いのかと何度読み返しても気になるほどだ。

 

 

「誤字とかないかな。後で怒られたりとかしないようによく見ておかないと」

 

 

今彼はハテノ村にあるかつての自分の家にいる。

 

元々自分の家であったが、今は別の人の家となっている。

 

 

この命を懸けても必ず守ってみせると忠誠を誓った、姫君。

 

 

あの御方はこの国の姫であったが、王国が滅んでしまった今、彼女に帰る場所はない。それはとても悲しいことだ。百年もの間、この地を闇に染めようとしていた厄災をずっと抑え込んでいたというのに、帰る場所を失うというのはあまりにも酷すぎる。城どころか城下町までゴーストタウンと化し、あそこを復興させようとしても何十年もかかりそうだし、何より厄災の影響が残っていて、そこに移り住むことを望む者もいないだろう。

 

不吉な地として誰も寄り付かなかった場所を復興させても、かつてあった活気は戻らない。

 

ならばせめて、平和で暖かい場所をあの人の帰る場所とするため、リンクは大金を支払って購入した家を譲ったのだ。

 

だが姫も頑固で、そんなの申し訳ないなどと言って断ってきたが、リンクも負けじとこの家に住んでもらうように説得してみせた。姫もそこまでしてくれたリンクに完敗し、感謝の言葉と共にリンクの家に移り住むことにしたが、ここはリンクの家でもあるため貴方もいつでも帰ってきて良いですよ、と微笑みながら言われた時のことは絶対に忘れない。

 

ちなみに。

 

初めてこの家を訪れた時、なんだかすごく懐かしい気持ちになった。

 

まさしく、実家に帰ってきた時のような安心感。

 

しかし自分の実家がどこにあったのか、そもそも家族がいたのか、それは思い出せなかった。近衛騎士の家系であったことは確かで、父と妹がいたかもしれないという話は聞いた。しかしそれは噂程度のもので、真実かどうかもわからない。

 

姫や仲間達のことは思い出せたのに、家族のことは一切思い出せないから、リンク自身もどう思って良いのかわからなかった。

 

家族の温もりも知らず、愛情も知らず、一緒にいる幸せも記憶にないから、正直に言って寂しいという気持ちにはなれなかった。

 

でも、今なら分かる気がする。

 

誰かと一緒にいる幸せを。

 

そして。

 

失うことの悲しみを。

 

 

「·········」

 

 

報告書の紙の束をめくっていくリンクの手が『魔王』と記されたページで止まる。真新しいインクで書かれた報告書の下には、大きな余白が広がっていた。

 

 

「俺はまた·········守れなかった」 

 

 

魔王を目の前にして、姫を守るどころか退魔の剣すら朽ちさせてしまった。魔王の瘴気はマスターソードに宿る破魔の力を上回り、蒼く輝く刃を一気に朽ちさせ、それを握り締めるリンクの右手をも使い物にならなくした。

 

あの時、もっと自分に力があれば。

 

この命を懸けても必ず守ってみせると忠誠を誓ったリンクであったが、結局何もできなかった。あの時の光景は今でも時折夢に見て、心が疼く。 

 

一度救った姫をまた失った時の絶望感。

 

それは言葉では言い表せないほどに苦しく、そして二度とあんな思いはしたくない。

 

だから、いつか必ず借りを返す。

 

 

「今度は絶対に、負けない。もう二度と、失ったりしない」

 

 

魔王に敗れ、大切な姫君を失ったことに思いを馳せると、自然と“一人の少女”の顔が浮かぶ。

 

 

「·········」

 

 

リンクは報告書を書くための机スペースから、ベッドの置いてある方にそっと視線を向けた。

 

そこには“一人の少女”がいる。 

 

名前は知らない。 

 

だが一つだけわかっていること。

 

魔物。

 

新種の魔物。

 

報告書にまとめていた魔物達と同じ力を持つ少女は、しかし人を襲うこともなく、むしろリンクに好意的な態度で接してくる。今日の朝、このハテノ村の一番上に建てられている古代研究所にいる派手なポーズを取ることが大好きな長髪の老人“ロベリー”に預けようとしたらもの凄く嫌がり、リンクから離れたくない一心でしがみついてきた。

 

あの時は相当焦ったが、彼女が自分といることを望むのならそれに応えよう。

 

失うことの恐ろしさ、残されていくことの恐ろしさはリンクも嫌というほど味わった。

 

大切な人がこの世界からいなくなるのは、とても耐えられない。

 

だから、いつまで一緒にいられるかはわからないが、少女が寂しい思いをしないように傍にいてあげよう、そう心に決めたリンクであった。

 

そんな少女。

 

とにかく寝ることが信条なのか、かつての自分の家にしばらく滞在して休息を取ろうとしたところ、箱から出てきたと思ったらベッドに潜り込んでしまった。リンクに譲られたハイリアのフードも外さずに、むしろその匂いを嗅ぐと落ち着くのか後ろのマント部分を可愛らしい鼻に当てて静かに寝息を立てている。

 

 

「ふ·········っ」

 

 

魔物を討伐することしかしてこなかったリンクも、思わず微笑んでしまう。

 

魔物と勇者。

 

言葉にしてしまうと、とても奇妙な関係だ。

 

どちらも決して相容れなかった存在が、今では一緒にいる。

 

彼女からは魔物特有の邪悪さも感じず、むしろ普通の子供のようであった。

 

リンクは寝ている少女の元に近付いていき、彼女の頭を優しく撫でる。安心したように寝ており、リンクが撫でてあげたらなんだか幸せそうな表情になった気がした。

 

 

「さて、今のうちに夕飯の買い出しにでも行ってこようか」

 

 

報告書も書き終わったし、少女も寝ていることだし、ちょうど良かった。

 

リンクは少女を起こさないように細心の注意を払いながら階段を降り、必要な分のお金をサイフに入れ、ドアを開けて外へ────

 

 

「ムゥゥゥウウウウウウウッッッ!!!!」

 

「え?」

 

 

急に上からそんな声が聞こえてきて、そちらに目を向けるリンク。

 

あの可愛らしい少女がまさしく魔物のような目をして飛び掛かってくる。猛獣が獲物を捕食するが如く、移動を短縮させるために階段を使わずに落下防止用の柵を乗り越えてくる。あのリンクすら反応が遅れてしまう速度。いつもならジャストで回避できていた状況、それなのにリンクは完全に油断していた。

 

口元が竹でできた口枷によって塞がれているため何を言っているのかわからなかったが、その半分涙目になった瞳が告げてくる。

 

ニガサンゾ!! と言外で訴えてくる少女によって、

 

 

「ぶッ!?」

 

「ムゥゥゥウウウウウウウッッッ!!!!」

 

 

彼の姿が勢い良く横にズレる。

 

二人の残像が残るほどの高速移動で飛びつかれたリンクは、横の台所へと吹き飛ばされていく。ガッシャーン!! と食器類が割れたりフライパンなどが落ち、取っ組み合いみたいに暴れ回ったことで家中の埃が宙へと舞う。

 

 

「い、痛い痛い痛い痛い痛い!! 急に何!? 寝てたんじゃなかったの!? とにかく落ち着いてってッッッ!!!??」

 

「ムゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!!」

 

 

少女の泣き声でリンクの断末魔が呑み込まれていく。

 

残されていくことの寂しさと悲しみを味わうことを恐れたことで本能的に目覚めた少女は、さらなる力をもって黙って出て行こうとしたリンクの頭部にしがみつく。

 

失うことの恐ろしさ、残されていくことの恐ろしさはこの少女も知っている。

 

だから少女はリンクが自分を置いていこうとしたことに怒り、罰としてしっかり抱き着いて逃がさないようにしている。

 

その様子を、上の階に飾っていた『百年前の英傑達』の絵が微笑ましく見守っていた。

 

ハイラル国の各地にいる種族から選ばれた、かつての英傑達。その時の光景をシーカーストーンという異端技術によって残された写真という本物のような絵。そこに収められたリンクの仲間達が、少女と仲良くしているのを見て、なんだかみんな微笑みを浮かべているような気がした。

 

と言っても本人は現在地獄のような気分だろうが。

 

魔物の少女と選ばれた勇者。

 

二人の奇妙ながらもとても愉快な関係は、まだ始まったばかり。

 

 

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